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第二十一話「燃え盛る憎悪に包まれし魔女」・3

※ちょっとグロいです




 地獄のような鍛錬が始まって三時間は経過しただろうか。正直辛すぎて体感時間が長く感じているせいで、実際の経過時間は分からなかった。正確な時間が分かるのは、腕時計を装着しているこの鍛錬塾の主催者関係の人間のみだ。

 と、友達が限界を迎えて膝から崩折れてうつ伏せに倒れた。


《あっ! し、しっかりして!?》


 必死に友達の体を揺さぶる。だが、意識は戻らない。


《……くぅっ! どうして……どうしてここまでするの!?》


 友達のあまりに可哀想な姿を見て、アンジェラは涙を浮かべて目の前の男をきつく睨みつけた。だが、まるで怯んだ様子も見せず、男は蔑んだような目で二人を見下ろし、口を開いた。


《……何をしている、早く立て。まだ予定している鍛錬ノルマは終わっていないぞ。これでは、規定の計測が出来ないではないか!》


 苛立った様子で頭を掻き、懐から取り出したバインダーに視線を落とす。


《計測……? 一体、何の話?》


 男の口にした気になるワードを反芻し、アンジェラは怪訝な表情を浮かべる。

 そんな彼女の疑問に、男は瞑目して嘆息すると、隠し通してはいられないと考えたのか、観念したように饒舌に語り出した。


《やれやれ、ここまで来たら話してやる。これは壮大な実験なのだ。無属性者を有属性者にする事は可能なのか? というな……そのため、各地から幅広い年齢層の人間を無作為に抽出し、有属性者が力を得るきっかけとなった『真紅月日の粒』で降り注いだ血を注射した》


《なに、言ってるの……? あれは、血だったの?》


 暗がりの部屋で打たれたあの真っ赤な謎の液体の正体が血だと分かり、アンジェラは酷く狼狽して打たれた腕を思い切り強く掴んだ。


《これは驚きだ……そんな事すら分かっていなかったのか。お前達に打ったあの注射の中に入っている液体は、あの事件の液体と同じものだ》


 何も分かっていなかったアンジェラ達に、一瞬驚愕した様子を見せた男は、アンジェラの反応を見てから続けた。


《だが、これには副作用があってな、適合しなかった場合は、激しい高熱に見舞われ、最期には目醒める可能性の一番高かった属性の力で死ぬのだ。火属性なら焼死、水なら溺死、毒なら中毒死といった具合にな……疑問には思っていただろう? 何故あんなに多くいた参加者が一夜にして半分にまで減ったのかとな。要は、あの時適合しなかった半数が死んだという事なのだ》


《酷い、こんなの動物実験じゃない! あたし達は、あんた達の実験台じゃないのよ!?》


 激しい怒りの感情が込み上げ、アンジェラは怒声をあげた。

 今すぐ目の前の男を殺してやりたい。そんな気持ちが高まっていく。

 だが、男はまるで気にも留めていないようで、平然とした様子でアンジェラに言った。


《何を言っている、さっきも言っただろう? これは実験であり、お前達はモルモットなのだ! この辛く厳しい鍛錬は、謂わば負荷テストなんだよ。どこまでの鍛錬に耐え、どれほどの力を引き出す事が出来るのかというな! そして、今回参加者の中で火属性に目醒めたのは、残念ながらそこの小娘だけだった。だからこそ、我々は火属性の能力値テストのために、是が非でもこの鍛錬をこなしてもらわなければならないッ!! 分かったらとっとと立て! いつまで寝ているんだッ!!》


《くっ、させないっ!》


 友達に手を伸ばす男に、我慢ならなくなったアンジェラが掴みかかろうとする。だが、それを許さぬというように、別の男がアンジェラを押さえつけるように上から馬乗りになってアンジェラをうつ伏せに押し倒した。


《嫌っ!? は、放しなさいよっ!》


《……大人しく我々の実験に応じていればよかったものを。……さぁ、とっとと立つのだッ! お前にはもっとノルマをこなして力を見せてもらわねばならんッ!》


 そう言って強引に腕を引っ張りあげ、少女の体を起こす男性。あまりに乱暴な扱いだ。あれでは下手すれば肩が外れかねない。そもそも、身体の弱い彼女にあんな事をすれば、どうなるか……そんなこと、友達であるアンジェラには火を見るより明らかだった。


《ゴホッゴホッ! ……ガッハっ!?》


 少女は今までにないほど激しい咳を繰り返し、一際酷い咳をしたかと思うと、吐血した。

 やはり、身体が悲鳴をあげているのだ。アンジェラにはそれがすぐに分かった。

 どうして有属性者と無属性者が生まれたのか……今ならそれが分かるかもしれない。

 確かに、中にはあの血の雨を浴びなかった者もいるという。それらは例に漏れる事無く無属性者となった。だが、雨を浴びたというのに無属性者だった人間もいたのだ。それは何故か? 即ち、適合しなかったからと考えられる。つまり、身体に触れた何者かの血に、自身の血が拒絶反応を起こしたという事だ。その時点で既に有属性者と無属性者に振り分けられていたのだ。それなのに、それをもう一度、今度は強引に適合させようとすればどうなるか。さらに強く拒絶反応を示すに決まっていた。それがあの高熱だったのだろう。そして、仮に適合したとしても、そのあまりに強すぎる力に、いつか体は限界を迎える。あくまで仮初の力に過ぎなかったのだ。

 アンジェラ達は、一時の儚い夢を見せられていただけだった。しかも、今やその夢は悪夢へと姿を変え、今にも友達の命を目の前で奪おうとしている。

 友達の少女は、口に当てて咳き込んでいた手にべっとりついた自身の血を見て、一筋の涙を流した。

 どうしてこんな事になったのか、ただ強い体になって、もっとずっと長く、友達であるアンジェラと一緒に過ごしたかっただけなのに……。


《いやだ……いやぁあああああああああああああああああああああ!》


 少女は絶望のあまり、絶叫すると同時、その肉体から激しく発火した。その真紅の炎は、少女自身とその腕を掴んでいた鍛錬塾の熱血教師の男も燃え上がらせた。


《ぐわぁあああ!? お、おのれ……小娘の分際でッ! この俺に反抗するかッ! 貴様は反乱分子だッ!! そんな実験動物など不要ッ!!》


 炎を振り払い、男は癇癪を起こした様子で懐から拳銃を取り出した。完全に冷静さを欠いている。


《や、やめてえええええええええええええええ!》


 嫌な予感が脳裏を過り、アンジェラは必死に制止の声を上げた。しかし、その声も虚しく、男は少女に数発の銃弾を撃ち込んだ。銃弾は少女の腹部や胸、心臓、腕や太腿を撃ち抜き、血飛沫をあげた。

 少女は全身を発火させながらさらに大量に吐血した。

 目を見開き、目の前の惨状を目の当たりにしたアンジェラは、完全に声を失った。

 燃え上がる炎の渦の中、少女は最期にアンジェラに微笑んだかと思うと、そのまま炎の渦に包まれて焼死した。

 だが、炎の勢いは止まらない。


《くっ! く、来るな! こっちに来るなぁアアアアッ!?》


 少女の流した血液が発火し、同時、その火の粉が熱血漢の衣服に着いた返り血に飛び火し、一気に火達磨になった。


《ぎぃやぁあああああああ!? あ、ぁああぁああ熱いぃぃぃぃい!? み、水! おい、貴様! は、早く水を出せぇええええ!?》


 そう言って男がこちらに駆け寄って来ようとする。

 と、自分も巻き込まれては堪らないと思ったのか、アンジェラを押さえつけていた男が悲鳴を上げて逃げ出した。

 自由が利くようになったアンジェラは、完全に怒りが沸点を超えていた。その手に薄く伸ばした水の円刃を作ると、水切りのようにして男に向かって放った。円刃は男の片足を切り落とした。


《ぐぁああああああああああ!?》


 片足を失いカカシ状態になった男は、火炙りになったままバランスを崩した事で足を踏み外し、高層階から下層へと真っ逆さまに落下し、転落死した。

 独り取り残されたアンジェラは、未だ火花を散らしながら炎の勢いを弱めないその命の灯火を見て、涙を流して嗚咽を上げた。

 それから、目の前で大事な親友を殺されたアンジェラは、ショックのあまり、冷静さを失って後追い自殺を決意した。


《ごめん、ごめんね? あたしも……すぐそっちに逝くから》


 そう言ってアンジェラは水の力で水泡を作り、それで顔を包み込んだ。水が口や鼻から体内に入り込み、胃に、肺に流れ込んでいく。


 ――苦しい。とても苦しくて辛い……怖い。これが死への恐怖なの? でも、それはあの子も同じ……形は違えど、苦しんで死んだんだ。今までもきっと苦しかったんだろう。その気持ちを簡単に分かってあげる事は出来ないけれど、せめてこうした形で少しでも苦しみを分かち合ってあげられたら……。



 そうしてアンジェラは、友達の死んだすぐ傍で溺死したのだった……。




――▽▲▽――

 



【分かる? これが無属性者なの……無属性者の"無"は力が無い……まさに"無力"を表しているのよ。最初から力を持って産まれたあんた達はいいわよね。最初から属性持ちが確定しているんですもの。それに引き換え、始まりの人間は……あまりにも哀れだわ。あの時、あんな真紅の雨が降り注ぐ皆既日食が起こらなければ……力を持つ者持たざる者で、新たな格差が生まれる事もなかったのに……どうして、あんた達が選ばれたの? 無力なあたし達は、虐げられて暮らせというの? ……だから、死んだ後、力と地位を求めた。そうしてあたしは、ディートヘイゴス一家の"家族"になったの】


 長々と昔話を語ったアンジェラは、何だか悲し気な表情を浮かべていた。そんな彼女に少なからず同情心が芽生えた茜は、ちょっとした疑問を口にした。


「……家族って、一体何なの?」


【謂わば組織のようなものよ。あたし達は本当の家族なんかじゃない。薄々感じてたんじゃない? そりゃそうよね、死因も違えば、見た目もそれぞれ大きく違う。そんなやつらに血の繋がりなんて、ある訳ないじゃない】


 友達と同じフレムヴァルト出身で炎熱系属性を持つ茜。そんな彼女の姿に生前の友達を重ねたのか、アンジェラは辛そうな表情で茜を一瞥し、首を振って口を開いた。


【……少し話しすぎたわね、そろそろ長話も飽きてきたわ。もう十分でしょう? 始めるわよ】


 これ以上話せば、互いに情が移って正々堂々戦えなくなる恐れがあると感じたアンジェラは、唐突に話を切り上げ、攻撃を再開した。

 アンジェラは先ほどまでとは異なり、茜に対して有効打であろう水魔法による攻撃を連続打ちした。両手に水泡を生み出し、箒に跨って茜に向かって突っ込んでいく。そして、そのスピードに乗せて、水泡を纏わせていた手を突き出した。

 水泡は手から離れてスピードに乗り、茜の顔に張り付いた。


「もがっ!? もごごっ、ごぼっ!!」


 あまりの苦しさにもがき苦しむ茜。得物の鉈を振り回し、どうにか水泡から脱出出来ないものかと試みるが、残念ながらそれは厳しそうだった。

 ならばと、茜は口から涎を出し、液状魔法でその体液から炎を発火させた。

 しかし、最初は弱火で勢いも弱いためすぐに消火されてしまった。だが、苦しみのあまり流した涙からも発火した事で、外と中から顔面中が炎で包まれた事で、一気に水泡を蒸発させる事に成功した。


【んなっ!?】


 あまりに強引な脱出方法に、驚愕して唖然とするアンジェラ。だが、その実は、彼女の体液から発火させる液状魔法を見て、生前の親友を思い出してしまい、戸惑っているといった方が正しかった。


「――ごほごほっ! ……っはぁ、っはぁ、はぁ……」


 茜は、ようやく取り込める酸素に激しく咳き込んで、息を整えた。

 それから、今度はこちらの番とばかりに鉈に炎を纏わせ、横薙ぎに振るった。

 炎の波状攻撃が飛来するが、眼前でアンジェラは箒に跨ったまま横に一回転し、それをひらりと軽やかに躱してみせた。逆に、お返しとばかりに両手に作り出した円状の水刃を形成し、カッターのようにしてそれをぶつけてきた。


「くっ!?」


 どうにかそれを鉈で斬り落とす茜だったが、全て切り落とすには、あまりに数が多すぎた。それも、一直線に飛んでくるものもあれば、回転をかけて放物線を描きながら飛んでくるものもあったのだ。

 そして、ついに水刃の一つが茜の横腹を切りつけた。


「あっぐっ!?」


 痛みに喘ぎ、回避位置がずれてしまった茜の肉体に、待ってましたとばかりにいくつもの水刃が斬撃を加えた。

 肩や二の腕、太もも、ふくらはぎ……あちこちを切りつけられた茜は、堪らずによろめき横に倒れ伏した。大食堂の床に、茜の血溜まりが出来ていく。

 だが、アンジェラは攻撃の手を緩めない。彼女は両手にそれぞれ水と火の球を作り出すと、それを高々と頭上に掲げ、一気にそれを混ぜ合わせた。凄まじい熱気に、一気に水の温度はあがっていき、大量の蒸気を立ち昇らせた。やがてそれは、アンジェラの体を包み込み、彼女を中心に広がっていく。そうすることで、蒸気は姿を眩ませる役目を果たした。

 しかし、それだけでは終わらない。アンジェラは箒から降りると、箒を縦横無尽に振り回し、蒸気の範囲を茜が横たわる場所にまで行き渡らせたのだ。

 茜は横たわったまま苦悶に顔を歪ませ、水蒸気の白い煙に包まれていくのを見届けるしか出来ない。

 どうにか痛みを堪え、その場にゆっくりと立ち上がる茜。その腕や足からはボタボタと血が滴っている。が、今は止血する事が出来ない。そもそも、彼女に回復魔法は使えないのだ。簡単な応急処置は出来るが、今はこの場にたった一人。処置している間の時間稼ぎをお願いする事も出来ないため、その時間も惜しい。それに、液状魔法を使える茜にとって、体液はもう一つの武器となる。つまり、この床に滴っている血液もまた、彼女を窮地から救い出す鍵になり得るのだ。

 完全に水蒸気で覆われた大食堂内で、アンジェラは不敵に笑いながら茜を探した。

 茜にはアンジェラの姿はそう簡単には見えないだろうが、アンジェラからは居場所が見える。それは何故か……理由は、茜の頭部に、煌々と燃え盛っている炎を灯した炎耀燐一族特有の銀の冠があるからだ。そのため、水蒸気で見えない状況に陥ろうと、僅かな光源さえあれば、それが炎の光であり、イコール茜の居場所となるのだ。これが、アンジェラの考えた作戦だった。

 既に相手には攻撃が当たっており、怪我も負わせている。万全でない状態ならば、こちらの攻撃もそう易々と躱せはしまい。

 我ながらナイスアイデアだと自画自賛するアンジェラ。しかし、既に大技を幾つか連発していたアンジェラもまた、体力の限界が近かった。このままでは、遅かれ早かれ魔力切れを引き起こしてしまうだろう。そうなれば、形勢は一気に不利になる。最悪の場合、敗北もありえるだろう。だからこそ、アンジェラにもあまり猶予は残されていなかった。

 つまり、この場にいるどちらも長期戦に持ち込まれるのは望ましくないということだ。

 と、そこで、アンジェラは茜の姿を見つけた。厳密的には彼女の頭上で揺らめく炎の光源を。

 彼女は指を銃の形にして構えると、その光源目掛けて指先から雨粒サイズの水弾を撃ち込んだ。


「ぐぅっ!?」


 茜は、遠く離れた位置から銃声もしない銃撃を受け、腹部を数発撃ち抜かれた。


「ごほっ!」


 吐血してまたも体を大きくよろめかせる。

 どうして相手もこの水蒸気で視界を奪われているはずなのに見えているのか、茜は不思議でならなかった。

 炎を手に灯らせて、銃撃を受けた方向に向けて勢いよく放つ。しかし、確かな手応えはない。どうやら躱されたらしい。もしくは、既に銃撃ポイントから移動した後だったか。

 と、その時、茜はある物を目にして思わずハッとなった。それは、水蒸気の白い煙の中に消えていく、自身が放った炎の球だった。その炎が、水蒸気内でボウッと淡く光を放っていたのだ。それから、さっと自分の頭上を見上げる。メラメラと燃え盛り、風に揺らめく紅蓮の炎。


――そっか、これのせいで……!



 ようやく敵にだけこちらの居場所が分かるのか、その原因が理解出来た茜は、急いで頭に載せていた銀の冠を取り外し、傍にあった台の上に置いた。

 偶々、敵に攻撃が当たったかどうかを見届けていただけなのだが、偶然にも原因を解明出来てよかった。下手をすれば、このまま消耗戦に持ち込まれてこちらがやられてしまう所だ。

 茜は、銀の冠を置いた場所から少し離れたところでしゃがみこみ、様子を窺った。すると、どうだろう。その台に向かって、先ほどの攻撃が命中しているのが見えた。


――やっぱりだ、アンジェラはあの炎を目印にして撃っているんだ! よーし、そうと分かれば!



 茜はふと自身の血塗れの体を一瞥し、すぐにある作戦を思いついた。時間はあまりない、すぐ行動に移さなければと、血の流しすぎによる貧血で気を失いそうになるのをどうにか堪え、四つん這いで台の周辺へと移動する。それから、力を籠めてゆっくりとその台を動かした。場所は、先ほど茜が横たわった際に出来た血溜まりの場所だ。

 少し重さがある台を力を籠めて押す度、傷口が広がって血がとめどなく溢れるが、それも後で使えると自身を鼓舞する茜。

 そうして作戦準備を整えたところで、敵が異変に気付くのを待った。




【……おかしいわ】


 あれからどれくらい時間が経過しただろうか。かれこれ十分以上は攻撃を続けている。どんなにタフな人間でもいい加減倒れてもいい頃なのに、一向に標的が倒れる様子がない。ちっとも微動だにしない茜に苛立ちを募らせていたアンジェラは、流石に我慢の限界だった。既に魔力も底を尽きかけており、体力が回復しない限り大技をもう一発放つのは不可能だった。


――少々危険だけど、こう離れてちゃ敵の生死も確認出来ないし……。



 アンジェラは自身に納得のいく理由を言い聞かせ、果敢にも茜と思われる炎の光源の下へ飛行した。

 しかし、徐々に見えてくるシルエットは人型ではなく、無機物の台。炎を灯した銀の冠は、それに載せられていた。そう、茜は気づいたのだ。こちらの攻撃のカラクリに。そしてそれを逆手に取られ、まんまと罠に嵌められた。それに気づいてアンジェラはハッとなり、周囲を見渡した。が、どこにも茜の姿はない。

 刹那――後ろから茜に飛び付かれ、アンジェラはバランスを崩して箒から転落した。天井もあるため、そこまで高度を上げていなかったのが幸いだった。床に体を打ち付けて多少の痛みは伴ったが、動けない程のダメージではない。

 が、それは一緒に落下した茜も同様。すぐさま体を起こし、再度アンジェラに掴みかかった。羽交い絞めにしようと奮闘する茜に、アンジェラは必死に抗った。事前に渡されていた対冥霊族用の聖水の小瓶を懐から取り出し、抵抗するアンジェラに飲ませようと試みるも、それが何であるかすぐに察したアンジェラは、今持てる全力の力で茜を振りほどき、背負い投げるようにして彼女を地面に叩きつけた。

 だが、そこで終わる茜ではない。何度もアンジェラに抱き着いたのは、何も強引に聖水を飲ませるためだけではない。


「今だっ!」


 合図を送るように、茜が手に火を灯した次の瞬間、その手首を流れていた血に火が灯り、まるでそれを導火線のようにして一気に血溜まりに引火、その血溜まりを踏んでいたアンジェラにも飛び火し、衣服に付着していた茜の血にも引火して、彼女の体は一気に燃え上がった。


【いやぁあああああああああああああ!?】


 まるで本物の魔女の火刑のように火炙りにされたアンジェラは、全身を焼き焦がす凄まじい炎の熱と、生前のトラウマを想起して、二重の意味で激しい叫び声をあげて後ろへ後退した。

 どうにか火を消火しようと、魔法で水を作り出すが、ほぼ魔力切れの今の状態では、火の勢いの方が強すぎて火力負けしてしまっていた。


【あぁ、ああぁあああ、あづい、あづいいぃぃいぃいい!?】


 冥霊族である限り、その肉体は不死身……痛覚は存在するが、耐えれさえすれば、もう一度再生する事が出来る。

 そう考えて、アンジェラは焼かれていく自身の肉体の痛みに、必死に耐えようとした。

 だが、そのあまりに痛々しい絶叫に、茜も見兼ねたのだろう。悲痛な面持ちを浮かべ、一瞬躊躇ったかと思うと、何かを口に含み、アンジェラの隙を突いて彼女を抱きしめ、悲鳴をあげるその唇に自身の唇を重ねた。


【むぐっ!?】


 突然敵にキスをされたのと、それと同時何かを口に流し込まれた事に目を丸くしてアンジェラはあんなに暴れていた体を一瞬硬直させる。が、直後、身体に感じる違和感に、今しがた飲まされた液体が聖水であると勘づいた。だが、気づいた時にはもう遅い。

 アンジェラは完全に不死の力を奪われてしまった。


【いや、……なんてこと、してくれたのよ! ぐっ、ぁああぁあああ! いや、いやだ、いやよっ! あ、あたしは、まだ……死にたくないぃいっ!】


 茜を突き飛ばし、未だに燃え上がる自身の体が、もう二度と再生しないと悟って恐怖と絶望に悲鳴をあげるアンジェラ。


「ごめんね……これも、あなたを苦しみから助けるためだから……」


 完全に冷静さを失って取り乱しているアンジェラに、今の茜の言葉は届いていないだろう。そんな彼女に、茜はせめてもの情けと、先ほど体内に聖水と一緒に流し込んだ自身の唾液から液状魔法で炎を発火させ、内側から一気にアンジェラの体を焼き尽くした。凄まじい火力の炎で、アンジェラはものの数秒で消し炭にされた。


「もうそんな体で無理しなくていいんだよ。友達の分も頑張って、生きようとしたんだよね。友達の存在が消えないように、彼女の力も手にして……だけど、その友達の持つ力であなたを楽にする事になって……ほんと、ごめん……あたしが謝ってもしょうがないけど、今度こそあの世で友達と会えるといいね……」


 アンジェラが消え去った側でゆっくりしゃがみこみ、彼女が先ほどまでいた辺りの床を優しく撫でた茜は、そう言って一筋の涙を流すのだった……。

というわけで、新年一発目の投稿です。今回で茜VSアンジェラ戦も決着です。これで彪岩たちの敵討ちが終了です。ただ今回は相手もこちらに生前の友達を重ねたりと、本気になりきれてなかった部分も。百合は見られませんでしたが、液状魔法を使う茜の戦い方を少しはお披露目出来たかなと。百合のメイン回はもう少し後にある予定です。

次回予告、三階のある場所で一対一バトルの予定です。

そろそろもう一つも進めないととは思っているので、次回更新予定は少し開くかもしれません。

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