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第十六話「結成!神聖の十戦士」・1

今回は五部構成でお送りします。

 あの忌々しい王国襲撃の翌日。夢鏡王国内は慌ただしい様相を呈していた。王国内のあちこちの建築物への被害は勿論の事、特に出来たばかりの新設校であるロムレス学園の被害が甚大だった。教師数名が殉職、生徒も数十人がその輝かしい未来を無惨にも奪われてしまったのだ。

 体育館に集められた生徒達の数が明らかに減っているのを目にした時は、思わず言葉を失わずにはいられなかった。

 それも、手にかけられたのは、これから戦闘訓練を学び、対人にも備えようとしていた面々が大多数。もう少し早く実践を積ませていれば、まだどうにか対処出来たかもしれない……そんなありえたかもしれない未来を想像すればするほど、俺は奥歯をギリと噛み締め、悔しさと怒りで体を震わせた。


「くそ……ッ!!」


 俺は執務室で両手の拳を机に強かに叩きつけた。が、こんな事をしたところで何の意味もない……失われた命は戻って来ないのだ。

 そんな事、理解っている。頭では分かっていても、何かに八つ当たりでもしなければどうにかなってしまいそうだった……。この怒りの矛先が見つからない。いや、矛先はある……怨敵であるディートヘイゴス一家だ。何の恨みか、やつらは俺達伝説の戦士を目の敵にし、襲撃してきた。主とやらの仇と、耳にタコが出来るほど聞かされたあの言葉。

 だが、何度考えても俺達に心当たりはない。

 勘違いによるものなのか、何者かによって仕向けられた罠か……いずれにせよ、理不尽に殺されていった仲間達があまりに不憫でならない。

 そして、そんな彼らを助ける事も出来なかった自身が、情けなくて仕方がなかった。


「月牙……そろそろ時間よ」


 おずおずとそう声をかけてきたのは、ミーミルだった。あまり喜怒哀楽がはっきりした方でない彼女だが、その表情がどこか浮かない様子なのは分かる。きっと、この俺の今のあり様を目にしての事だろう。


「あぁ、そうだな……今行くよ」


 俺は椅子を引いてその場に立ち上がると、執務室を後にしてミーミルと共に客間へと向かった。




 場所は変わって客間。この場所に、今大勢の関係者が集まっている。その中でもメインである伝説の戦士……。ディートヘイゴス一家の標的にされた俺達は特に集まらざるを得なかった。無論、王国外に散っていた嘗ての戦士達にもご足労頂いた。

 つまり、この場にいるのが現在生き残っている伝説の戦士全員となる。

 その人数を目視で数え、俺は唇を震わせた。


「……これで、全員なのか?」


「はい……十二人……それが、今残っている伝説の戦士の数です」


 声を震わせ、疑わしいというように訊ねる俺の声に、辛そうに答えをくれたのは、俺の最初の仲間でもあった水恋だった。

 そんな彼女も、今はあまりに痛々しい姿になってしまっている。全身に包帯を巻き、車椅子に座った状態の彼女。声を聴かなければ一瞬誰なのかすら分からないほど別人だった。

 全身大火傷の上、火傷の治療のため髪の毛も切らざるを得なくなり、あの綺麗だった青い髪の毛も見られない。


「は、はは……三十一人、いたんだぞ? ……それが、十二人だなんて……」


「斑希さんと凛さんは別件だとしても、それでも二十九人でしたから」


「……何で、何で俺らがこんな目に遭わないといけないんだよ。恨みを買ってその復讐だってんならまだ理解出来る。だが、今回ばかりは話が違う! あいつらの勝手な勘違いだ! そんな勘違いで殺されたんじゃ堪ったもんじゃないッ!!」


「あ~るっせぇな! んなこたぁ、わぁ~ってんだよッ!! おい、月牙! オレらはこんなしみったれたお通夜みてぇな話するためにわざわざ来たんじゃねぇぞ! やられた分やり返すためだろうがッ!! とっとと作戦立てやがれ! でねぇと、オレ一人でもあいつら全員まとめて殺しにいくぞ!」


 と、俺が悔しさに頭をかいて愚痴を零していると、そんな俺の態度に苛立ちを抑えきれなかったのか、暗冷が声を荒げて叱責した。


「……ッ! ……わ、悪い。つい、この場にいない皆の事を……思い出しちまって」


「ぐッ……思い出すなだなんて言わねぇ……だが、あいつらを弔うのは、ケリつけてからだ……それまでその怒りは、ぜってぇ忘れんな」


 俺があまりに辛そうな顔をしていたせいだろう、暗冷も気持ちとしては同じなのもあってか、何かを言いかけたのをどうにか堪え、代わりの言葉を口にした。


「ああ……もちろんだ」


 ちなみに、今回の襲撃で亡くなった面々に関する情報共有は既に終えている。無論、直近で亡くなった妖燕の従弟である乱火は勿論、彪岩の従弟である砕狼を宥めるのは大変だった。完全に冷静さを欠き、今にも突貫しそうになっていた。

 そういう点で言えば、家族の多くを失った暗冷や水恋に近いものがあるかもしれない。


「……葡豊は、大丈夫なのか?」


「はい、ご心配おかけしました……御覧の通り右腕は失いましたが、まだ足は残っていますし……義手はまた作れば戻りますから」


 そう口にする葡豊の表情は、どこか無理しているように感じられた。

 葡豊もまた、ディートヘイゴスの襲撃から命からがら逃げ果せた数少ない戦士の一人だ。当初、図書室の大爆発の報告から訃報が届くものとばかり身構えていたが、そこへの吉報は不幸中の幸いであった。

 だが、深手を負っているのには変わりなく、右腕を失い、植物種シェルターごと吹っ飛ばされた際に全身を打ち付けたのか、打撲痕のような青痣が痛々しく、見るに堪えないという状態だった。


「それならいいんだが……作るにしてもすぐには戻らないだろうし、生活するにおいて何か不便があればすぐに相談してくれ。出来得る限りの対応を試みる」


「わざわざすみません、ありがとうございます」


 身内の不幸も重なって心からの笑顔なんて浮かべられないのだろう、葡豊は今出来る精いっぱいの笑顔を浮かべてみせた。

 それを見て、ますます俺は自身が情けなくなった。

 この王国にいれば安全だ……どこかでそう怠慢になっていたのだろう。ここには世界四大神の二人がいる。他の小七ヶ国と比べても、滅多に争いの起こらない平和な国。

 今回、それが完全に仇になった。もっと防衛に力を注がなければならない……それが今後しばらくの大きな課題になりそうだ。


「とりあえず今回の襲撃者――ディートヘイゴス一家に関して、今分かっている事をまとめようと思う」


 そう言って俺はフィヨに頼んで白板を持ってきてもらった。それからそこに判明している敵の名前を書き記していく。

 ディートヘイゴス一家……。その全容はまだ明らかになっていないが、現状判明しているのは長男トム、次男フォロトゴス、三男ジャック、四男ドナルド、五男ボブ、六男オリバー、長女アンジェラ、次女レイラ、三女ローラの計九人の兄妹がいるということ。そして、彼らは冥霊族で不死身の肉体を持ち、実際の血の繋がりがあるわけではないということだ。さらに、各々その見た目に相応しいともいえる力を秘めている事……中には有属性者同様、属性攻撃を使う者もいた。この辺りは生前の人間時代に何か関係があると思われる。

 この辺りは実際に他のやつらと情報を精査していって確認しよう。


「それじゃあ、まずは吸血鬼――トムから情報を共有していこう。俺以外にこいつと戦ったやつはいるか?」


 俺の問に、皆が視線を交わし合う。すると鈴華と暗冷が手を挙げた。


「先に暗冷から教えてもらえるか」


「あぁ……」


 暗冷が憎々し気に語るトムの情報。コウモリに変身したりして物理攻撃がなかなか効かないところは、鈴華と一緒に戦った時と同じだが、吸血行為に関しては貴重な情報だった。青嵐に致命的なダメージを与えた攻撃……。迂闊に相手の領域に踏み込むのはやめた方がいいかもしれないな。隙を与えるのも得策とは言えなさそうだ。さらに、吸血鬼であるにも拘わらず、自分達が知り得ている吸血鬼の弱点は一切効果がないという事もあまりに衝撃だった。これは、いきなり厄介な相手の一人になりそうだ。

 その後、鈴華からも改めてトムに関する情報を聞いた所で次の相手に進むことにした。


「次はフォロトゴスだな……こいつに関しては――」


 と視線を仲間に向けていくと、雪羅と光蘭が恐る恐るというように手を挙げていた。

 二人はそれぞれ視線を交わすと、もう一度こちらに目をやる。


「あ、あの……私からいいですか? ただその、ほとんど戦った訳ではないのであまり役に立つ情報かは分からないんですが、鋼鉄さんよりもパワーは上のようでした。あの鋼鉄球の攻撃も物ともしてませんでしたし……」


「なるほど……相当なパワータイプみたいだな。それじゃあ、雪羅……辛いと思うが、頼めるか?」


「はい……」


 光蘭が辛い訳ではない。彼女も師である鋼鉄を失ったのだ。だが、雪羅の場合は何よりも唯一の家族だったのだ。その心へのダメージは幾何か……何より俺が心配していたのは、彼女の体調だった。

 俺同様彼女の身を案じているのか、雪羅を車椅子に乗せてここへ運んできてくれた御守と薺も、不安気な表情を浮かべている。


「あまり無理はするなよ? お腹の子に響いちゃまずいだろうし……」


「そうですね……でも、それに関しては――」


「ヒヒッ、それなら問題ないよ」


 と、雪羅の声を遮り、不気味な笑い声をあげてそう口にしたのは、猛辣だった。


「本当か?」


 普段の猛辣のイメージが先行して、思わず疑わしいという視線を向けてしまうが、それも慣れっこなのだろう。彼は鼻で笑って口を開いた。


「ここしばらくの彼女の体調管理は、私が行っているんだよ? ヒヒッ、栄養摂取量から睡眠時間、体重の増減にトイレに行った回数まで――」


「ちょっと猛辣さん! さ、最後のは必要ないですよね!?」


「ヒヒッ、冗談さね……でも、異様に回数が多かったりすれば何かしらの異常という可能性はあるからね、あまり無下にも出来ないよ?」


「うっ……で、でもあまり公では口にしないでください……恥ずかしいんですから」


「ふぅむ、善処するよ。とにかく今の所彼女の体は母子共に健康だ。これから話す内容で、多少なりとも精神的ストレスの増加は見られるだろうがね……」


 顔を真っ赤にして頼みこむ雪羅に、流石の猛辣もそれ以上からかう事はやめたらしい。瞑目して彼女の容態に関する詳細をくれた。


「そうか……じゃあ雪羅、説明を頼む。少しでも気分が悪くなったら止めてくれて構わない」


「はい……敵は相当な大柄です。頭に大きなネジが刺さってて……両手首には真っ黒な手枷と鎖を着けてました。冥霊族なので、元人間だったとしてもそのパワーは制限なく使えるようになるので、多少パワーの増加はあると思うんですけど、あのパワーは元人間にしては異常です。これは推測なんですけど……改造を施された強化人間か何かなんじゃないかなと……」


「強化人間か……無属性者なら確かにそういった実験による産物で生まれていてもおかしくはないな」


 雪羅のくれた説明を聞いて、俺は顎に手をやり思案する。

 これもクロノス絡みだったりするんだろうか……。無属性者、実験……あまりにもあいつらに結びつく事案が多すぎる。何より、俺らに恨みを抱く人物……レイヴォルやオドゥルヴィア……あいつらがいるのがデカイ。


「他には何かあるか?」


「えぇと……確か――あ! そうです。寒さに弱そうな感じでした」


「寒さに弱い?」


「めちゃくちゃ弱いって訳ではなさそうなんですけど、力を出しにくいとかで動きまくって体を温めている様子はありました。結構筋肉質で大柄な巨体だったので、不思議ではあったんですが」


「氷属性は有益の可能性があると……」


「それでも、お兄ちゃんは負けちゃったんですけど……ぐす」


「あ、悪い……」


 兄の果敢な勇姿を思い出したのだろう。涙ぐんだ雪羅の鼻を啜る音に、思わず俺も口を継いで謝罪の声をもらす。


「いえ……あいつを倒すためです。私も精いっぱい情報提供してみせます」


「ああ、助かる」


 とりあえず、フォロトゴスの情報は今のところこれくらいか……異常なまでのパワー。人間離れした超人的な身体能力から、改造を施された強化人間の冥霊族なのではないかということ。身体を動かす事もあって、寒さなどで体の動きが鈍ると……。となると、やっぱり氷属性を戦わせた方が良さそうだな。


「次は三男……ジャックに関してだな」


「彼に関しては、学園での被害も相当だったわ……」


 そう言って口を開いたのは、俺の隣に侍っていたフィヨだった。懐から何やら数枚の紙きれを取り出し、忌々し気に視線を落としている。


「……鎧を身に纏った、残虐無比で寡黙な騎士。目撃者の証言によれば、霧を纏い相手を惑わす事もあるとか……」


「ジャックは有属性者なのか?」


「うぅ~ん……そこまでは特に情報を得られてないわね」


「月牙殿、失礼ながら彼奴に関して……頭領の残した遺言に一部情報が残っていやした」


 俺の質問に困ったように首を捻るフィヨを見兼ねたのか、同じく傍に侍っていた虚栄に紛れし殺戮者インビジブル・アサシン所属の大柄の男が情報をくれた。

 彼から受け取った影明の遺言。

 所々赤黒い染みが広がり、読みづらい部分もあるが、確かにそこにはジャックのものと思しき情報が書き殴られていた。

 あらかたまとめるとこうだ。

 ジャック=メルタ=ディートヘイゴス……確証は得られていないものの、生前は騎士ヶ谷剣丞と名乗る凄腕の剣士でほぼ間違いないとの事。

 何でもあの濃霧の森を作り出した女性の弟子らしく、隠密稼業にも精通していたとかで、その実力は他の暗殺集団にも引けを取らなかったそうだ。だが逆に、それが理由でその危険性を恐れた虚栄に紛れし殺戮者インビジブル・アサシンの人間から暗殺されたとの事。


「そういえば、鈴華達は調査の際に対峙したんだったよな?」


「はい、厄介な相手でした。動きも俊敏で、まるで忍者……鎧を身に纏っているはずなのに身のこなしも軽くて、四本の長刀を巧みに操って攻撃してきます。後、これが属性によるものなのかは不明なんですが、分身を使ってきます」


「影明の影分身とは違うのか?」


「すみません、そこまでは……ただ、今のご主人様の話されていた影明さんの情報から推測すると、影属性というよりは霧属性の方が可能性が高そうです」


「霧属性か……相手を幻覚で惑わしたりしてくる事も考慮すると、確かに少々厄介だな」


 鈴華からもらった情報も併せて再び考えを巡らせる。まだ有効打がまとまらないが、この男に関してはそれなりの情報が得られた気がする。影明……お前がくれた情報、絶対に無駄にはしないからな。

 そう心の中で彼女へ感謝の念を送り、俺は次の敵の名を口にする。


「……ドナルド、か」


 その名を口にした瞬間、光蘭が分かりやすく反応を示す。しかし、それは紫音も同様で、失った自身の片腕をぎゅっと押さえ込んでいる。そしてさらにもう一人……直近で彼と戦った乱火だった。


「アタシからいいかい? ヤツはアタシのいろんなモンを奪っていったヤツだからね……同じ鎌使いとしても捨て置けないよ」


 紫音がくれたのは、鎌使いであるという事。それも、ただの鎌ではなく包帯によって形作られた鎌だというから驚きだ。布にそんな切れ味があるとは到底思えないが、現に彼女の腕が切り落とされている事からも、その切れ味は相当なものなのだろう。

 ただ、興味深かったのはここからだった。彼の振るう鎌に炎が纏っていたというのだ。つまり、ドナルドもまた生前は有属性者であり、炎属性の使い手だった可能性があるということ。ただ、不思議なのは炎だけでなく風属性も使用していたという部分。

 つまり、ドナルドは複数属性を扱う事の出来る混合属性所持性者(ミックス)という事になる。

 すると、そこで口を挟むように乱火が声をあげた。


「その炎に関してなんだが、どうもやつは炎がトラウマっぽいんだよ」


「は? どういう事だ? 炎属性を持ってるのに、炎がトラウマって……」


「そこまではわかんないんだけどさ……」


 あまりこれといった役立つ情報が与えられなかった事が不満なのか、納得のいかない顔を浮かべる乱火。だが、これは何かの糸口になるかもしれない。

 と、今度は光蘭が声をあげる。


「そういえば、紫音さんが切り落としたっていうドナルドの手の調査結果……お姉ちゃんの記憶書類(メモリーデータ)は、どうなったんですか?」


「そうだった……猛辣、結果出てるんだよな? 聞かせてもらえるか」


「ヒヒッ、話すタイミングを窺っていたけど、ようやくその時が来たようだねぇ。なかなか興味深い結果が得られたよ」


 雷落が繋いでくれた大事な情報。その解析を猛辣が行っていたのだが、ようやくその結果が聞けるらしい。

 何でも調査によると、ドナルドの本体は肉体ではなく体や武器を構成しているあの包帯自身らしい。付喪神的な感じなのだろうか。だが、道理で体を切断しても中身がなく、さらに頭部がなくなっても声を発する事が出来た訳だ。さらに、切り離しても分かたれた包帯にも意識があるため、居場所もバレてしまうらしい。そのせいで、即座にドナルドの本体に居場所がバレたという事のようだ。

 さらに調査の結果、やはりドナルドは風属性と炎属性を持ち合わせた|混合属性所持性者(ミックス)で間違いないとの事。


「次は五男……ボブだが――」


 と、次の敵の名を挙げた刹那――並々ならぬ殺気に包まれた。見れば、今にも神力の暴走を引き起こしそうな闇のオーラを溢れ出させた暗冷がいた。それは、同様に水恋の方からも漂っていて、思わず近くにいた彼女の妹達が畏怖して後ずさってしまうほどだった。


「あいつだけはタダじゃおかねぇ……」


「奇遇ですね、暗冷くん……私もです」


 そうか、確かに四大帝国の内の二つにここまでの甚大な被害を及ぼしたんだ。相当な恨みを買っていてもおかしくはないよな。

 ボブの情報をまとめると、敵は植物を操る草属性の使い手らしい。特に爆弾型の植物をこよなく愛するらしく、種子を人体に仕込んで爆発させたりなどの惨い手段も講じてくるそうだ。何より厄介なのは、一切攻撃が効かない点だった。幽霊のため姿を眩ませることは愚か、あらゆる物理攻撃を通過させてしまう。

 しかし、ここで水恋が気になる事を口にした。


「それなんですが、聖水を使う事で実体化は可能のようです」


「んだとッ!?」


 驚愕とばかりに暗冷が声を荒げてその場に立ち上がる。


「私も水歌さんのおかげで気づいたんですが、敵は冥霊族……不死身の肉体を持ち一見無敵に見える彼らにとって、唯一聖なる物は天敵なんです。ですよね、鈴華さん?」


「うん、その通りよ。だから作戦としては、聖水を仕込んだ武器を用いて戦うのが一番有効だと思う」


 聖水か……確かに霊的なやつにはそれが一番有効かもしれない。

 話によれば、聖水の代わりに海水を使用する事も効果あったそうだが、敵もさらに力をつけてくる可能性はある。そうなった場合海水程度では力不足の恐れもある。やはり、どうにかして聖水を大量に用意する必要がありそうだな……問題はどうやって手に入れるかだが、その辺りは後で鈴華達巫女族に相談するか。

 と、ボブに関する情報をまとめていたその時、同じく図書館で戦った葡豊が気になる言葉を口にした。


「シェルターに入っていたので、よく聞き取れなかった部分もあるんですが、気になるワードがあって……」


「気になるワード?」


「はい、緑皇嵐双葉(りょくこうらんふたば)……って名前なんですけど」


「緑皇嵐!?」


 葡豊の口にした名前に、過剰に反応したのは暗冷だった。信じられないものを耳にしたというように目をオロオロと動かし、動揺のためかその場にしばし硬直してしまう彼に、訝しみながら俺は声をかけた。


「知り合いなのか?」


「……皇族の一人だ」


「皇族!? へ、七皇族(ヘプタエンペラー)の?」


「そうだ……既にちょくちょく報告にあがってる敵の口にしていた景楼は知ってんだろ? あいつは雅曇皇圓家で序列的には七位なんだが、緑皇嵐は序列四位だ。神人戦争による地殻変動で地形が大きく変わってしまって以降、七皇族(ヘプタエンペラー)は四大帝国の各帝国領で匿われてた。緑皇嵐はリーヒュベスト帝国内の大木の森付近に居を構えてたんだが……例の暗殺事件以降、その名前はてんで聞かなくなった。まさか、またこうして耳にするたぁな……」


 ようやく落ち着いてきたのか、説明し終えた辺りでゆっくりとその場に再度着席する暗冷。

 二人目の皇族の名前……。全くの無関係とは思えないよな。


「でも、どうしてボブがその名前を?」


「分かりません……ただ、草植系属性にただならぬ恨みを抱いている様子からも、きっと彼女が関係しているんじゃないかと」


「ってことは、生前は緑皇嵐家の関係者だったって事か?」


「まじかよ……ただでさえ厄介だってのに、皇族の血を引いてたりしたら、尚更厄介だぜ」


 皇族当主は、属性とは異なる天候の力というものを使えたという。その力はあまりに絶大で、だからこそその力を恐れて暗殺事件が起きたとも謂われている。

 暗冷が忌々しいというように歯噛みするが、今は考えても仕方ない部分もある。とにかく、まだ全員の情報をまとめ終えていない。次へ進もう。


「ええ、次は……六男オリバーか。ここにいる面子だと、唯一猛辣だけ出くわしたんだったな」


「ヒヒッ……ああ、そうだねぇ。なんとも腐敗臭の堪らない相手だったよ……ヤツが傍に現れればまず臭いで気づくんじゃないかねぇ? ただ実力までは測り切れていないというのが率直なところだ。ほぼ初手で聖水で追い返してしまったからねぇ。ヒヒッ、でも、さっきの話にも出ていたけど、冥霊族に聖水の攻撃は大いに有効だといえるだろう……ヒヒッ」


「うぅん、今のところ一番謎だらけなのはこいつか……単なるゾンビってことなら、色々方法はありそうだな」


 他の五人に比べてあまりに情報が少なすぎるのが少々気になるが、一旦はここまでにしておこう。


「次は長女のアンジェラだな……炎属性と水属性を扱う混合属性所持性者(ミックス)って事だったが、それで問題ないか?」


 俺は彼女と戦闘になった砕狼と砂唯に訊ねた。二人は互いに視線を交わし首を縦に振った。


「ああ、相違ない。だが、気になる点はある。やつの場合、最初は無属性者で、後から有属性者になったらしいんだ。しかもあくまでベースは水属性で、炎属性はあまり使いこなせていないみたいなんだ」


「本来は水属性しか使えないって事か?」


「う~ん、私もよく分からない……けど、ガローくんの言うように炎属性よりは水属性に長けているような感じがして……」


「人には得手不得手があるし、単にそういう事なんじゃないのか?」


「それならいいんだけど……」


 どうにも敵の使用する二属性に関して、何か引っかかる点がある様子の砕狼と砂唯。にしても、敵に混合属性所持性者(ミックス)が多いな……。本来一人でそんな幾つも属性を扱う事はないはずなんだが。

 それに、似通った類似属性ならまだしも、相性的に相反するような二属性を持つだなんて聞いた事がない。

 確かに二人の言う通り、何か訳アリなのかもしれないな。

 にしても、産まれながらにして有属性者じゃない? 何の力も持たなかった無属性者が有属性者になったのは、最初も最初……人族が有属性者と無属性者に分類されるようになった時だぞ? その時代の人間が冥霊族になったってことか?

 まだこの辺りは情報が少なすぎるな。


「後、体力はあまりなさそうだった」


「そうだな、俺らが戦う前にも何人かと戦闘になってたみたいでよ、力の使い過ぎか疲労してる様子だった」


「なるほど、持久戦には弱いかもしれないと……それは超重要だ。いざ相手が混合属性所持性者(ミックス)の力を駆使してきたら、最悪持久戦に持ち込めばこちらにも勝機があるかもしれない」


 ついで二人が口にした重要な情報。相手のスタミナがどれくらいあるかは、戦いにおいて確かに大事だ。それがある程度判明しているだけでも対策の仕様はある。


「よし、お次はレイラだな……」


「彼女に関しても学園での被害が相当出ていたわ。主に男子生徒の被害が多く、発見された死体はどれも精気を搾り尽くされていて干からびた状態だったそうよ。まさに夢魔と呼ばれるモンスターの特徴そのものね」


「風浮と刻暗もレイラにやられたって話だったな……他に何か情報はあるのか?」


「目撃情報によると、桃色ブロンドのセミロングヘアに青い双眸の少し童顔の少女ということよ。夢魔という名の通り、翼と尻尾が生えていて怪しい妖艶な肢体をしてるから分かりやすいと思うわ。詳細はあまり分かってないけど、瞳術を使うらしくて、幻惑と魅惑の力が使えるそうよ。後、数があまりに多いからさっき男子の被害例は挙げたけど、決して女子生徒の被害がなかったという訳ではないから、女の戦士を戦わせれば優位という訳ではないかもね」


「そうか……一瞬その手も考えたんだが、難しそうだな。そういえば、報告によると茜、慌夜、七海がアンジェラ、レイラ、ジャックと接触したって事だったが、それに関して詳細を教えてもらえるか?」


「んだとッ!?」


「な、七海が!? げ、月牙さん、あの子達は無事なんですか!?」


「お、落ち着いてくれ二人とも! 勿論無事だ、そこは安心してほしい。慌夜達に関しては彪岩が、七海に関しては自分で未然に防いでいたらしい」


「ほっ……それを聞いて安心しました」


「彪岩の野郎……言葉通り体を張って守ったってのか……くそ、返せねぇ借りなんか作りやがって……」


 自分達の大事な子供達が襲われたと聞き、思わず反応してしまう暗冷と水恋。無理からぬ事だ……こうして集まる前に乱火にも伝えていたが、その時の動揺っぷりも尋常ではなかった。

 と、俺からの指示に答えようとした所で二人が割り込んできたため、話し出すタイミングを窺う羽目になっていたフィヨが恐る恐るというように声をあげた。


「ええと、詳細に関してなんだけど……報告によれば、アンジェラは概ね既に幾つか出ていた情報以上に有益になりそうなものはなさそう。レイラに関しては、異様なくらい七海に執着している様子だったわ。どうやら、美人の女性に何かしらの恨みがあるみたい」


「そりゃえらくはた迷惑な話だな……七海もよく不意打ちに反応出来たな」


「何でも周囲に展開していた水の防御結界で防いだみたい」


「七海は、私と比べても魔力の扱いが相当上手いんです。武器を用いた戦い方よりも水を使った特殊攻撃の方に長けていると思います」


 フィヨの報告に次いで、七海が持つ力に関する詳細をくれる水恋。


「なるほどな……流石は水恋の娘ってところか」


 彼女の説明に、頷きながら彼女の持つ素質を上手く使えないものかと考えを巡らせる。


「あはは、そう褒められると照れてしまいますね……」


 本人ではないにせよ、大事な愛娘を褒められて嬉しくなったのだろう、上擦った声音で水恋が小さく笑う。

 大分時間がかかってしまった。ようやく襲撃者最後の一人……ローラに関する情報だ。


「さて、三女ローラに関してだが……これに関しては未來が気になる事があるって話だったが……」


「うん、ちょっと皆にこれを見て欲しいの」


 そう言って真剣な面持ちで未來が水晶玉に何かを映し出す。流石にこの場にいる全員で一気に覗き込むのは無理があったため、まずは伝説の戦士全員で覗き込んで驚愕した。


「え……こ、これって……す、鈴華!?」


「わ、私ですか?」


 不意に名前を呼ばれ、素っ頓狂な声をあげる鈴華。彼女が驚くのも無理ない。自身を指さし、目を丸くして数回瞬きを繰り返す。

 しかし振り返りざまに改めて鈴華の顔を見たが……やはりそっくりだ。

 もう一度水晶玉に視線を落とす。

 見た目は鈴華が少し成長した姿だろうか……今の鈴華は二十代前半とかだったはず……こっちは二十代後半くらいか? 黒髪に青い双眸……この辺の特徴は違うが、それ以外は巫女装束というのもあって、あまりに酷似しすぎている。ドッペルゲンガーとか、その類の冥霊族か?


「確かにこいつぁ……鈴華だな」


「はい……幼馴染である私達から見ても、この方を目にしたらイメチェンした鈴華さんにしか見えないと思います」


「ちょ、ちょっと私にも見せてください!」


 幼馴染二人の呆気にとられた様子を見て、気にならざるを得なかったか、鈴華が俺達の間に割り入るようにして水晶玉を至近距離で覗き込む。


「こ、これは……た、確かに、わ、私ですね……え、私って二人いたんですか?」


「いやいや、そんなはず……ん? そっくり……二人、クローン……まさか――」


 あまりに馬鹿げた事を言う鈴華に、呆れた顔で俺は否定の言葉を口に仕掛けるが、その話を聞いてある存在が脳裏に過る。


「レプリカ=鈴華……」


 水恋がぼそりとその名前を口にして、他の戦士も以前第二次神人戦争の際に出会った事を思い出す。


「で、でもあの人は神崎妃愛が連れた偉大なる七冠(セブンズ・クラウン)の一人でしたよね? それがどうして?」


 葡豊の質問だ。確かに彼女の言う通り、偉大なる七冠(セブンズ・クラウン)の一人がどうして冥霊族のディートヘイゴス一家になっているのかは謎だ。もしかすると、あいつらにも何かがあったのか?

 だが、分からない事が多すぎてそれ以上考えても無駄になりそうだ。

 今は分かる事だけをまとめてしまおう……そう思い至り、俺は白板に書かれた文字を今一度見返す。


「今は考えても仕方ない……未來、他にローラに関する情報はあるか?」


「武器は薙刀などの長物を扱ってた。後、普段は般若の仮面をしてて……あ、後極端に素顔を晒すのに抵抗している様子だったわ。これも、素顔が鈴華さんにそっくりなのと関係あると思う」


「なるほど、サンキュー。仮面を破壊して隙が生まれた所を突くってのが良さそうだな……正攻法と言っていいかは分からないが」


 長い時間をかけてようやく襲撃者――ディートヘイゴス一家の情報をまとめ終えた。


「現状分かっているのはこれで全部か……」


 この場にいる全員が、その文字列を重々しい表情で眺める。


「問題はここからどうするかだ……正直な話、各国相当な痛手を受けていて、復興作業に追われているのが現状だ」


「あぁ、リーヒュベストも帝国内はともかく、城内の復旧に手が回ってない……しばらくは城を離れられなくなりそうだ。今は潤夜の指揮の下、復旧を進めてるはずだ」


「私もそうですね……ウォータルトは特に町の方が壊滅的被害を受けてますから……まだ被爆者の捜索も完全には終えてなくて……今も鳴海が中心になって捜索部隊を動かしてくれてます」


「各国似たような状況か……こっちも学園の修繕や城下の復興、虚栄に紛れし殺戮者インビジブル・アサシンの頭を失ったから、次の頭を決めないといけないしな」


 リーヒュベスト、ウォータルト、夢鏡……どこも被害の大きさは計り知れないか……ここにはいないから全容の確認のしようがないが、この分だとエレゴグルドボトとフレムヴァルトも被害は相当か……。


「雪羅もこの状態じゃ戦わせる訳にはいかないし、王国にいる戦士が動かせないとなると、残っているのは各国に散っている戦士になるが……水恋は当然無理だし、暗冷も紫音も厳しい……」


「誰も動けないって事だね……」


 光蘭が気落ちして肩を落とす。


「復興班と討伐班に分かれるのがいいんだろうが、どちらにせよ戦力に欠ける……何より不意打ちを受けたとはいえ、敵にこちらの情報はほぼ伝わっていると思って間違いない。となると、こちら以上に戦略を立てられている可能性が高い。となると、向こうも想定していない戦力を投入する他ない」


「ん? それってつまり、どういうことだ?」


 乱火が訝し気に首を傾げる。


「新しい伝説の戦士を結成する!」


「ちょ、ちょっと月牙!? まだ戦闘経験を積んでいる子が殆どいない状況なのですよ? それなのに、まだ早すぎますっ!」


 母さんが焦った様子で俺に駆け寄り説得しようと試みてくるが、生憎と考えを改めるつもりはない。


「勿論大きな賭けになるのは分かってるさ……だからこそ、出来得る限りの事前準備とバックアップは取るつもりだ……フィヨ、乱火、砕狼、葡豊、猛辣……悪いが、至急この十人と連絡を取りつけてくれ。それと各々の実力評価成績表も頼む」


「え、こ、この十人って……」


「おい、月牙……お前、どういうつもりなんだ?」


「ったく、お前の考える事は相変わらずぶっとんでんな」


「何かの考えがあっての事……ですよね?」


「ヒヒッ、これはこれは……面白い事になりそうじゃないかい、喜んで用意しよう」


「勿論質問や意義申し立てがあるのは分かってる……だが時間がない、早急に頼む」


 フィヨ、乱火、砕狼、葡豊、猛辣が各々思い思いの言葉を口にするが、それを全て一蹴するように俺は真剣な面持ちで命令した。

 こうして俺はロムレス学園の教職員でもある彼女達に命を下し、本日は解散となる旨を伝えた。

というわけで、しばらくぶりの投稿です。

まぁサブタイでネタバレになっていますが、いよいよ二代目に本格的にスポットが当たり出します。

また、今回ずっと出ていなかった結成メンバーの最後の一人も初登場します。

引き続き、二部に続きます。

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