表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/200

第十五話「王国への襲撃(後編)」・3

 ここはロムレス学園の中等部三年Gクラス。現在ここでは、豪地彪岩が授業を行っていた。授業内容は超強力な爆弾を用いた戦闘に関して。

 教卓の上には、卵型のオブジェクトが頑丈な容器に厳重に保管された状態で置かれている。そこに片方の手を置いて彪岩は、持ち前のデカい声を教室中に響き渡らせていた。異様に熱のこもった口調で説明をくれるが、別段この授業に限った事ではない。彪岩の素の声量がこれのため、全てにおいて熱が入ったように感じてしまうのだ。まるで熱血教師のようだと思いながら、慌夜と茜の所属するGクラスの生徒達は、彪岩の説明をノートに書き留めていた。

 と、彪岩がその危険性について語りながら、保管ケースから卵型爆弾を手に取り出した。


「ご、豪地先生!? な、何してるんですか!?」


 思わず血迷ったのかと慌てふためく慌夜の声に、彪岩は一瞬きょとんと呆けた顔になったかと思うと、すぐににんまりと口の端を吊り上げて笑い出した。


「がっはっはっは! 違う違う、ケースの中ではこいつの細かい説明がしにくいと思ってだな、もっと実物を間近で見た方が分かりやすいだろうと思った次第なのだ」


 別にケースの中が見えない訳でもないし、ケース越しに見せてもらえばそれでよいと思うのだが、とそう思う生徒達だが、彪岩は構わず説明を続ける。


「こいつをよ~く見てくれ、若干尖っている方が上でな、この上部に制御装置がついている。ちなみに、下部には相当なエネルギーを圧縮して詰め込んであってな、大きな衝撃を受けると凄まじい威力で大爆発を起こす代物だ。一応制御装置で発火装置のスイッチを切ってあれば、爆発はしない設定にはなっているが、それでも過度な衝撃を受ければ爆発するから、使用する際には重々注意するようにな!」


 そう説明をくれた辺りで、彪岩が左端の座席に座っている生徒に卵型爆弾を手渡して後ろに回していくように伝える。


「ちょっと、生徒にこんな爆発物を渡すなんて、何考えてるんですか!?」


 少しでも扱いを誤れば誤爆の可能性のある危険物を、慌てて落とさぬように受け取りながら、生徒の一人が焦った様子で言う。


「なぁに安心しろ! こいつは本物より幾分も威力を落としてあるサンプルだ。流石のおれも、大事な生徒に本物を渡す訳がなかろう!」


「な、なんだ……それを聞いて安心しま――」


「まぁ、それでもこの教室くらいは軽く吹き飛ばせるがな! が~っはっはっはっは!」


 彪岩の説明にほっと安堵しかけたところで、さらりと爆弾の恐ろしい威力を口にし、豪快に笑い飛ばす。

 その衝撃の事実に、思わず呆気に取られて爆弾を落としかける生徒。しかし、すぐさま我に返って瞬時に卵型爆弾をしっかりと掴み直す。


「ふぅ……勘弁してくださいよ、豪地先生。教室一個分吹き飛ばせるだけで十分危険ですって」


 半眼の眼差しで彪岩に文句を言った生徒は、こんなものいつまでも持っていられるかとばかりに、隣の生徒に手渡す。

 しかし、受け取った別の生徒も顔を青冷めさせてすぐに後ろの生徒に押し付ける。

 そうして卵型爆弾のサンプルは、大してゆっくりとその構造を生徒に見られる事もなく、数分後には右端の座席の生徒へと渡っていった。

 と、そんな時だった。

 慌夜が後ろから回ってきた卵型爆弾を受け取った瞬間、大きな地響きが聞こえてきた。


「うわあぁああ!?」


「きゃああああ!?」


「な、なになに!?」


「何事だ!?」


 突然の地震のような大きな揺れ。いきなりの事に教室内の生徒達は口々に声をあげた。慌てて長机の下へと身を隠そうとするが、揺れは思いの外すぐに収まった。地震というよりも、まるで何かの衝撃によるもののような……。あまりに一瞬の出来事だったが、天井から吊られた照明がグラグラと僅かに揺れ続けている事から、今起きた事は現実なのだと認識する。

 慌夜は胸元にしっかり抱いている卵型爆弾を見下ろした。

 実際にこれが爆発したら、今くらいの衝撃では収まらないほどの威力が、この教室を襲うのだろうと、そんな感想を抱く。


「豪地先生……い、今のは一体?」


「分からん……とりあえず、こいつはしまっておいた方が良さそうだ」


 先程までの笑顔は消えていた。いつにない真面目な様子のキリっとした表情を見せる彪岩に、目の前にいた慌夜を含めた生徒達も緊張感を走らせる。

 と、その時、何気なしに窓から外の様子を一瞥した生徒が、恐る恐るというように震えた声をあげた。


「せ、先生……そ、外を見てください」


「何だ?」


 生徒に言われ、爆弾をケースにしまおうとした彪岩が、爆弾を懐にしまいながら窓ガラスへと歩み寄った。瞬間、目を見開く。

 窓ガラス越しに見えた外の様子は、一変していた。青空はなく、どんよりとした鉛空が広がるだけ。眼下に広がる真っ赤な戦火を反射してか、所々赤く色づいて見えた。

 そう、夢鏡王国の城下が燃えていた。何故今の今まで気づかなかったのか不思議でならないが、あちこちからもくもくと立ち上るどす黒い黒煙や小規模の爆発、煌々と燃え盛る炎が、それどころではないと彪岩を正気に返らせる。


「授業は……中止だ」


 戦慄して震える拳をぎゅっと握り直して強引に制止させた彪岩は、生徒達に静かにそう告げた。

 と、景観の変わった夢鏡王国を見渡していた彪岩が、ふと視界にあるものを捉えた。それは、一つの人影だった。段々とそれはこちらに近づいてきて、そのシルエットを確かなものへと変える。


「ま、魔女……?」


 彪岩同様、窓際に座っていた生徒の一人が、シルエットから推測される人物像を口にする。

 箒に跨り、つば広帽子にマント、そのどれもが黒っぽい装束という、まさに魔女そのもののような出で立ち。魔女と呼ぶに相応しく、他に呼称が思いつかないまであるそんな彼女は、気づけばすぐ傍まで距離を詰めてしまっていた。

 明らかにこちらを視認している。それどころか、その視線はただ一点に彪岩を見ているようであった。

 同様に、彪岩自身も魔女から目を離せないでいる。どんな相手かも分からない。彼女の一挙手一投足まで見逃す訳にはいかないという思いからだった。

 そして、彪岩が一瞬瞬きしかけた刹那――。


「っ!? 皆、教室から出るのだッ!!」


 視界に捉えた大量の火球群。瞬間、彪岩は生徒達に避難命令を出して床に勢いよく両手を突いた。

 直後、窓全体を防護シェルターのように岩壁が覆い隠した。

 次々に飛来した火球が岩壁に激突し、大きな揺れを引き起こす。その揺れは教室にも届いて生徒達を恐怖へと陥れる。


「きゃああああ!」


「くっ!? 何をしている、早く廊下に――」


 教室内からなかなか生徒達が減らない煩わしさに、堪らず声を荒げて教室の入り口兼出口へと視線を向け、そこで彪岩は言葉を詰まらせた。

 そこには、既にいてはならない人物がいた。

 マントをはためかせ、青い髪の毛を揺らし、つば広帽子から青い双眸を覗かせる女性――魔女だった。


「き、貴様!? 何故そこにいるッ!?」


【うっふふふ……何故かって? 愚問ね、豪地彪岩……あんたを殺すために決まってるじゃない】


 どうやって侵入したのかを尋ねていたのだが、求めていた答えは得られず、それどころか魔女は杖を振るって攻撃を仕掛けてきた。

 五つの火球が周囲に形成され、彪岩に向かって突っ込んでくる。

 彪岩は瞬時に防壁を周囲に展開して、それを防御した。


【ふん……これくらいは簡単に防ぐか。ま、流石は伝説の戦士の一人といった所かしら】


 鼻を鳴らし、腰に手を当ててふんぞりかえる魔女に、冷や汗を流しながら彪岩は口を開いた。


「貴様、やけにおれ様に敵意を向けているようだが、何者なのだ」


【もう名乗るのも何度目になるか分からないけれど……あたしの名前はアンジェラ。ディートヘイゴス一家の長女よ】


 少々面倒臭そうにしながらも、アンジェラは名乗りをあげた。しかし、その名前を聞いても彪岩は首を傾げる事しか出来ない。全く見知らぬ初対面の相手なのだ、無理もない。


「ディートヘイゴス一家? ふん、聞いた事もないな……何故おれを狙う?」


【明確にはあんた"達"よ。あたし達の主を殺した伝説の戦士を全員殺す……それがあたし達の目的なワケ、わかる?】


「分からんな……おれ達はお前達の主など知らん! 誰かと勘違いしているのではないか?」


 腕組をして唸り声をあげながらしばし思案した彪岩は、首を振ってそう相手に問い返す。


【はぁ~、ほんとあんた達みんなそればっかり……そんなんであたし達が騙されると思ったら大間違いよ。とっとと死んで詫びなさいっ!】


 これまで幾度となく聞いてきた返しに呆れて溜息をついたアンジェラは、再び火球を作り出して彪岩へぶつけてきた。


「はんッ! そんな攻撃、もうおれには効かんぞッ!!]


【でしょうね、ならこれならどうかしら?】


 にやりと不敵な笑みを浮かべたアンジェラは、くるりとその場でターンして杖を持った手を後ろに引いたかと思うと、一気にその杖を彪岩へ向かって突き出した。

 大仰な動きではあるが、どうせ出てくるのは火球に似た何かだろうと、彪岩は高を括ってしまっていた。

 完全に油断している彼に向って飛来したそれは、凄まじい貫通力で彪岩の岩の防壁もろとも彪岩の左脇腹を貫いた。


「ぐぽぉっ!?」


 あまりに予想外の出来事に、彪岩は目を見開き、口から大量に吐血して片膝を突いた。その動きに追従するように防壁が瓦礫となって崩れ去る。


「な、何故水の槍が……」


 自身に大ダメージを与えた攻撃属性が水属性と認知し、彪岩は脂汗を滲ませてアンジェラを見上げた。彼女の周りには、先ほどまであった火球はなく、水の渦が螺旋状に渦巻いている。


「まさか……混合属性所持性者(ミックス)!?」


 思わず声をあげる慌夜に、アンジェラが反応を示してそちらを振り向き、にやりと笑んだ。


【へぇ~案外勉強してるのね……ちょっと感心したわ。ええ、その通りよ……まぁ、あたしの場合は異例だけど。御覧の通り、炎属性と水属性を使えるの】


「ほえ~すっごい、本当にいるんだ」


 慌夜の隣にいた茜が、感嘆の声を漏らして興味津々という顔を浮かべる。


【くすくす、にしてもまさかこんなところで標的の子供に会うだなんて……案外、あたしってばラッキーなのかも】


 すぐ傍にいる二人が、暗冷と乱火の子供だと気づき、ペロリと舌なめずりするアンジェラ。

 しかし、すぐにその二人の前に立ちはだかる人影が一つ――彪岩だ。


「こやつらには指一本出させん!!」


 地属性とは思えないほどの熱血さ。まるで炎熱系属性持ちなのではと勘繰ってしまうほどの暑苦しさと鬱陶しさは、まさに嘗て自分達を指導していたあの男を彷彿とさせた。

 だが、それは同時に嫌な出来事を思い出させる引き金でもあった。アンジェラは項垂れるように顔を伏せると、身体をプルプルと震わせた。


【……あ~うっざ。ほんっと、あんたを見てるとあいつを思い出してイライラすんのよ……あ~ムカムカしてきた】


 恨みがましい低い声音。怨念というか怨恨にも似たそれは、おどろおどろしいオーラとなってアンジェラから溢れ出した。


【……決めた、あんただけは絶対に殺す……例え、刺し違えてでも……それが、あの子のためだから】


 己の右手に灯した赤い炎。まるで何者かの魂であるかのように揺らめいたそれは、アンジェラが握り拳を作ると同時に消失した。


「こいつは凄まじい威圧感だな……おいお前達! 何をぼうっとしている! 速くここから出るんだッ!!」


 彪岩のただならぬ焦りと叫びに、生徒達も異常事態だと察したのだろう。逃げ出そうとしながらも硬直していた体の自由を取り戻し、急ぎこの場から逃げ出した。

 そうして残り後数人になったというところで、禍々しいオーラを溢れさせ続けていたアンジェラに異変が起きる。

 オーラが瞬時に消えたかと思うと、指を弾いて水の防壁を展開して逃げ出せないようにしたのだ。


「ぬわっ!?」


 弾力性があるのか水の防壁に弾かれた慌夜は、盛大に弾き返されて地面に尻餅をついた。


「いってて……くそ、これじゃ逃げられない」


「こー君、大丈夫?」


「あ、ああ……なんとか」


 茜の手を借り、ゆっくりその場から立ち上がった慌夜は、異様な様子を見せるアンジェラに向き直った。目の前の敵をどうにかしなければここからは脱出出来そうになかった。

 水属性に有効な有属性者がいれば話は別だっただろうが、生憎とこの場にいる面子は地属性、闇属性、炎属性しか持ち合わせていない。どれも相性は微妙であった。


【うっふふふ……あんた達三人まとめて殺せば、十分な功績だわ。お父さんにも怒られずに済む……何としてでもあたしが勝つ】


 再びあの禍々しいオーラが溢れ始めた。

 と、項垂れていた頭を起こし、アンジェラがこちらを見据えた。瞬間、彼女の周囲に炎と水の渦が出現し、周囲を渦巻き出した。


「くっ、おいお前達は後ろに下がっていろ! お前達に何かあれば、暗冷や乱火に会わせる顔がないからな!」


 そう言って彪岩は拳と拳をぶつけ合った。同時、その拳に武器の籠手が顕現する。


「うぉおおおおおおおお、先手必勝だぁあああ!!」


 彪岩は開口一番叫ぶや否や、裂帛の気合に乗せて激しい連打の連続攻撃をお見舞いした。


【ぐふ……はぁ、はぁ、やってくれたわね……あんたのせいで、あんたのその無茶な鍛錬のせいで、あの子は死んだのに……なんであんたはのうのうと生きてるの? 許せない……絶対に殺す! あの子からもらった、この力でっ!!】


 アンジェラは既に我を忘れているようだった。彪岩を見ているようで見ていない。まるで、彼の雰囲気に似た誰かに重ねているかのように、彼女は負の感情を力に変えて、猛威を振るった。


「ぐぅッ!? 重い一撃だ……だが、おれは負けんッ!! 眠れる赤き獅子の真骨頂はこれからなのだッ!!」


 両の手を強く握りしめ気合を溜めた彪岩は、床を殴打していき岩の足場を形成した。それを足蹴にしてスピードを上げた彼は、身を捻って左ストレートをアンジェラにきめた。

 鋭く刺すような一撃に、アンジェラの頭は激しくシェイクされて床に衝突した。

 激しい揺れに脳震盪を起こしたようで、アンジェラは失神して倒れ伏した。


「はぁ、はぁ、これで倒れてくれ……」


 先程受けた脇腹へのダメージが思いの外大きかったのか、傷口からの出血が激しい。少し視界がぐらつくが、どうにか頭を振って倒れ掛かる体を起こす。


「先生、止血しないと! 茜、手伝ってくれ!」


「う、うん!」


 彪岩の足元に形成されていく血溜まりを見て、慌てた様子で慌夜と茜が駆け寄る。


「ぐっ……これくらい大した事ではない……ッ! それよりも、見ろ」


 顎でしゃくって何かを伝えようとする彪岩。手近にあった布で彼の脇腹を覆い、一時的な止血の処置を行いながらそちらを見やると、あの弾力性のあった水の防壁が消えていた。


「そうか、アンジェラが気絶したから……」


「……あの防壁がやつの管理下にあって助かった……でなければ、彼女を倒しても防壁が消える事はなかっただろうからな……」


 苦し気に顔を歪ませながら、彪岩がそう説明をくれる。


「よし、とりあえずこれで一旦止血は出来たと思います。急いで逃げましょう!」


「あ、ああ」


 流石の彪岩も分が悪いと察しているのだろう、悔しそうではあるが、慌夜の提案にぎこちない頷きを見せた。

 が、それを許さぬものが一人、逃がさぬとばかりに目を覚ました。

 ぐったりと床に倒れ込んでいたアンジェラの指先がピクっと動いたかと思うと、ゆっくりその場に両手を突き、気怠げに身を起こしたのである。


【許さない……待ちなさいよ、豪地彪岩……眠れる赤き獅子が聞いて呆れるわね。はぁはぁ、こんなあたしに負けて、尻尾を撒いて逃げるのかしら?】


 明かな挑発である。それは慌夜も茜も分かっている。それは無論、当事者である彪岩も同様であっただろうが、その通り名を出されれば反応せずにはいられなかった。


「赤き獅子が……眠れる、赤き獅子が……逃げる、だと?」


「豪地先生!?」


「だ、ダメですって! あんな挑発に乗らないでください! 今は逃げないと!!」


「……はぁ、はぁ、ぐぅッ……すまんな、二人とも。眠れる赤き獅子と謳われたこの豪地彪岩……例え勝てぬ相手であろうと、一矢報いる事なく敵前逃亡など許されぬッ!! 許せ……負けたままでは、己の通り名が泣くのだ」


 そう口にすると、肩を貸してくれていた二人を廊下へと突き飛ばし、床を今までにないパワーを籠めて殴り飛ばした。

 瞬間、二人の目の前に今までとは比べ物にならない程の分厚い岩盤が出現し、教室の壁全体を包み込むように展開された。


「くっ! 先生! 豪地先生ッ!!」


 岩盤の向こうから慌夜の声が聞こえてくる。次いで、既に廊下に避難を完了していた生徒達も心配そうに声をかけてくる。そんな彼らの声を声援と感じた彪岩は、嬉しそうに瞑目し左手を胸元へ掲げ、拳に力を籠めた。


「ありがとう、皆……お前達の無事のためにも、こいつは……ここでおれ様が食い止めるッ!!」


【ふざけるな……あんたなんかに、今のあたし達は倒せやしないっ! あたしは強くなったんだ……もう、生前のあたしじゃないっ!!」


 アンジェラはそう言って両手にそれぞれ水属性と炎属性の力を付与する。それから、箒に跨っているにも拘わらず、両手放しでこちらへ突っ込んできた。

 すぐさま彪岩は片足を後ろへ引いて両手をクロスし、防御態勢を取る。


【ほらほら、炎と水の攻撃の応酬をお見舞いしてあげるわっ!】


 まるで復讐の相手と対峙出来て嬉しいと言わんばかりに輝かしい笑みを浮かべ、炎の火球と水の槍を連続でぶつけてくる。最初は防壁で耐え抜いたり、攻撃を弾き落としたりで対応出来ていたものの、せっかく止血してもらっていた傷口が開いた辺りで、彪岩の動きが大きく鈍り始めた。

 それをアンジェラが見逃すはずがない。

 好機とばかりに、さらに攻撃の量を増やした。今までの量でどうにか対応しきれていた彪岩も、流石に数が倍増した事と傷口からの出血による貧血症状で眩暈を起こす。

 直後、右横腹に火球が直撃する。


「ぐぁああああああ!?」


 身を焼かれるような凄まじい激痛に、堪らず彪岩は叫んだ。その叫び声は無論、廊下にいる生徒達にも聞こえていた。既に廊下の周囲には他のクラスの生徒や教師人も集まり始めている。

 周囲を警戒しつつ見渡す生徒達も、どうやらここに襲撃してきたのはまだ魔女アンジェラだけなのだと、一旦安堵の色を示すが、それでも目の前にいる敵がまさに一人の師の命を奪い取ろうとしているのだ。自分達に何か出来ないかと気が気ではない。


【痛い? 痛いでしょう? 分かる? でも、あたし達はもっと痛かった……辛かった! あんた達の企てた無茶な鍛錬のせいで、あの子は夢も何もかも失って苦しみながら死んだの……きっとあたし達の主だって同じ。あんた達に殺されたんだ】


「ぐ、ぅ……何度も言わせてもらうが、俺は貴様の師ではないし、貴様らの主とやらも知らん! ……だが、貴様の恨みや無念は分かる、つもりだ……どれほどの過酷な鍛錬を潜り抜けてきたのか、想像することしか出来んが、少しくらいは分かってやれるつもりだ」


【……あたし達の、師じゃ……ない?】


 そこで、ようやくアンジェラは正気を取り戻した。数回瞬きを繰り返し、頭を押さえながら首を振る。それから、しっかりと目の前の相手を注視する。

 ボロボロの体。たくさんの火傷の痕と刺し傷。それだけではない……数々の戦いや修練によるものか、古傷のような細かい傷がいくつもその体に刻み込まれていた。

 息を乱し、既に満身創痍という状態であろう彪岩が、こちらを哀し気に見つめていた。


【やめろ……やめろやめろやめろ、あんたがあたしをそんな目で見るなっ!! イライラする……少しくらいは、分かってやれる? 赤の他人だというなら、思いあがるなぁあああああ! 当事者ならともかく、第三者だというならあたし達の気持ちなんか分かるはずないっ! あたしが話した事だけで全容を知ったつもりでいるんなら、とんだお門違いよ! 偽善者ぶらないでっ!! そうよ……あたしとした事が何を勘違いしてたのかしら、あんたは伝説の戦士の一人、豪地彪岩であってあの男じゃない……。あたし達のご主人様の仇であって、あたし個人の復讐の相手じゃない】


 激しい怒りの感情を噴き出し、アンジェラは再び大声で叫び声をあげたかと思うと、ぶつぶつと何かを呟き始めた。

 さっと彪岩に向かって左手をかざすと、彪岩の周囲の床が赤く煌々と光り輝き、次の瞬間火柱があがった。それは彪岩をその場に閉じ込めるように回転しながら勢いを増していく。

 それから今度は水の渦が細長く渦巻き、彪岩の全身に絡みつき縛り上げた。


「くっ!? う、動けんッ!!」


【もういいわ……疲れた。あんたに八つ当たりしたってあの子は戻って来ない。それに、復讐の相手はもういないの……だから、あたしは当初の目的だけを果たす。標的――豪地彪岩の抹殺だけを成し遂げて、ね】


 そう妖しく笑んだアンジェラが手を横に薙ぐと、空中に浮いていた水の泡が形を鋭利な槍状に変えて、一気に四方八方から彪岩に向かって発射された。


「がッ!?」


 あの時、脇腹を貫通していった槍より遥かに細長いそれは、細さの代わりに頑丈さと長さを兼ね備えており、彪岩の体に突き刺さったまま居座り続けた。

 別に刺し貫くのが目的ならばそのままにしておく必要はない。何か他の企みでもあるのかと思っていると、周囲を囲んでいた火柱の灼熱の熱風を受けてか、徐々に水の槍の水温が上がり始めた。それにより、突き刺さって体内に侵入し続けている水の槍が熱水となって外側からだけでなく、内側から彪岩の体を灼いた。味わった事のないじりじりと肌を焼かれるような感覚とも異なる痛み。堪らず引き抜こうとするが、身体は既に縛り上げられており、その水の縄も水温を上げて外側から彪岩の体を焼いていく。


【うふふふ、苦しい? 苦しいでしょ? まるで拷問でしょうからね……熱血教師のあんたには相応しい最期なんじゃないかしら? 文字の如く、暑苦しい最期を迎えるのだから……】


「ふっ……暑苦しいか、よく言われたものだ……それも悪くはないと思っていたのだがな。だが、ここでじわじわと弱りながら散っていくのは赤き獅子に相応しくはないものよ。散り際も暑苦しく、鬱陶しく、往生際が悪くいこうではないかッ!!」


 そう言うと、彪岩は拘束された状態で思いっきり片足で床を踏みつけた。

 直後、彪岩の眼前に小ぶりの岩山がせり上がる。よく見れば、そこには何かが乗っかっていた。一体それが何なのか全く知らないアンジェラは怪訝そうな表情を浮かべて放心してしまう。

 そんな彼女の隙を狙い、深く深呼吸した彪岩は、意を決して真摯な面持ちとなった。


「せいぜいその目に焼き付けるがいいッ!! これが、貴様の忌み嫌う熱血漢の、華々しい散り際よッ!!」


【ま、まさかそれは――】


 彪岩の覚悟を決めた表情と、今しがた口にした最期と思しき口上で、さしものアンジェラもそれが爆弾である事を察した。

 が、気づいたところで時既に遅し。

 アンジェラが手を伸ばして食い止めようとした刹那、拘束されて両手の自由が利かない彪岩は、勢いよく上体を反らして反動をつけ、一気に頭を眼前のせりあがった岩山に置かれた卵型爆弾に向かって渾身の頭突きを繰り出した。

 瞬間、周囲一帯が真っ白な閃光に包まれる。

 突如、大轟音と共に授業中に感じたあの揺れとは比べ物にならない程の大震動が辺り一帯を襲った。震源地は明らかに目の前の教室内からだ。しかし、岩盤はまるでビクともせず多少亀裂が入ってパラパラと小さな瓦礫が崩れ落ちてくるに留まっている。

 きっと、あの爆弾が爆発したんだと、先刻まで授業を受けていた生徒達は即座に察した。この岩盤防壁がハナからそれを想定して出現させたものかまでは見当もつかないが、少なくともそのおかげですぐ近くにいた自分達は助かった。たった一人の教師の力で、多くの命が救われたのだ。

 授業の説明を聞いていた生徒達は、勿論その威力がどれほどのものであるか、理解している。だからこそ、中で何が起こったか、彪岩がどうなったかは、嫌でも分かってしまう。

 その場に力なく座り込む者、すすり泣いたり嗚咽をあげて泣き出す者もいた。中等部はまだ戦闘訓練をそこまで積んでいる訳ではない。明らかにあの場にいては足手纏いにしかならないのは百も承知だった。だからこそ力を持っているのに、その力を存分に発揮する事が出来ずに大切な恩師を失ってしまった事が辛く悲しくて仕方がなかった。

 その時、この異常事態に教師人も対策を取り出したのだろう。一人の教師が声をあげた。


「みなさん、急いで体育館へ移動してください! ここは危険です! 王国警備隊の方達が駆けつけてくれていますが、敵がどこから襲ってくるか分からないので、決して油断しないように!」


 教師の声に、生徒達は互いに目を合わせると不安そうな表情を浮かべながらも急ぎ体育館へと移動し始めた。


「一体、この王国に何が起きてるんだ?」


 まだ敵の詳細が上手く掴めていない慌夜は、顎に手をやりしばし思案した。しかし、あまりに得ている情報が少なすぎて思考が上手くまとまらない。


「わからない……とにかく、あたし達もいこう?」


「ああ、そうだな」


 結局、茜のその一言で一旦考えるのはやめにして、慌夜は他の生徒同様体育館へと急ぐのだった。

というわけで三部めです。

ロムレス学園へとやってきたアンジェラ対彪岩の対決。彪岩の熱血教師っぷりが、アンジェラの過去のある人物を想起させ、悲惨な結末を迎えます。ちなみに地震のような揺れに関しては、図書館の爆発の影響です。

引き続き四部に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ