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第十三話「変化する雪と失われる影」・2

「!?」


 あまりにも突然の事に、思わず絶句する雪羅。初めて見るその光景に、目を丸くして鈴華を見た。

すると、呼吸を荒くした鈴華が、その場に手を突き肩で息をする姿があった。


「だ、大丈夫ですか鈴華さん!?」


「はぁ、はぁ……だ、大丈夫です。それより、敵は倒せましたか?」


 鈴華が敵のいた場所に視線をやり、それにつられるように他の面々も視線を向ける。

そこには、鎧騎士――ジャックの姿はなく、まさに跡形もないという状態だった。一見倒したように見えるが、ちゃんと確認を怠ってはいけないと、雪羅が恐る恐るその場に肉薄する。

と、何かを見つけ口を開いた。


「どうやら、倒せてはいないようです……」


 そう言って雪羅が何かを鈴華達に見せた。それは、ジャックの残したメモ紙だった。


『拙者とした事が油断した。よもや、巫女族がこんな所にいるとは思わなかった。しかも、まだ間属性の力を使えるとは。今回は分が悪いので引かせてもらうが、次はこうはいかない』


 長々と書かれた言葉の一つ一つに、悔しさが込められている気がした。


「敵はどうやら巫女族がまだ生きている事を知らなかったみたいですね。それに、間属性が使える事も知らなかった……すみません、私の力量不足で存在がバレてしまいました」


「心配ありませんよ、雪羅さん。いつかは私達の存在がバレる事は予感していましたから。それに、久しぶりで少々ペース配分を間違えてしまいましたが、この力も上手く使えば、私達だって十二分に戦えます。もう、やられるばかりではいられないですから!」


 今までフレムヴァルト帝国は、主にエレゴグルドボト帝国から非道な扱いばかりを受けていた。そして、最終的には滅亡してしまい、多くの民を失ってしまった。もちろん滅び行く帝国と共に死んだ民の中には、巫女族である彼女達を憎む者も少なくないだろう。それをよく知っている鈴華は、胸元に手を添え黙祷の意を込めて目を瞑った。


「大事な家族も多く失いました。この七力を全て受け継いだからには、私には大事な役目があります! 決してこんな所で死ぬわけにはいかないんです!! だから、あの時のように助けられ守られるだけでなく、今度は戦いたいんです!!」


 そう強く意気込む鈴華の黄金色の双眸に、燃え滾る炎が見えた気がした。


「鈴華様……」


「ごめんね、皆には迷惑や心配ばかりかけて……。情けない主君よね」


「そんな事仰らないで下さい。私達は、鈴華様が幼い頃よりお仕えしているんです。もちろん、中には経験の浅い者もいますが、皆鈴華様が大好きなんです。最後の最期までお供させて下さいませ!」


 鈴華の言葉に、暦が首を激しく振って己の忠誠心を示した。


「ありがとう……暦」


「わたし達も同じ。皆、同じ血が流れてる。決して他の血を混じらせる事のない純血の一族。鳳凰に愛され、守護を受けるわたし達が、そんな簡単に負ける訳ない!」


 暦に続いて、その隣に立った鑑も口元に笑みを浮かべて言った。


「とにかく、こうなったからには敵の情報を早く伝えなければならないですよ! 早く、水恋様の下へ戻るのです!」


 御守が鼻息を荒くして皆を急かした。


「ま、待ってください! まだ、霧矛さんの安否が確認出来ていません。きっと、この辺りにいると思うんです!」


 一行が来た道を引き返そうとするのを、雪羅が慌てて止める。

まだ目的である霧矛の行方が掴めていないのだ。

それから皆で手分けして捜索を続け、一時間が経過しようかという時だった。


「鈴華ちゃん、見つけたよー!」


 主である鈴華をやけに馴れ馴れしく呼ぶその声は、千歳の物だった。


「本当!?」


「あれ!」


 指差す方を見れば、遥か崖の下に薄っすらと何かが見えた。霧矛かどうかは定かではないが、人であるのは間違いない。

雪羅達は、急ぎ崖下へと向かった。




 崖下に辿り着いた瞬間、その光景に思わず目を背けてしまった。

「そ、そんな……うぅぷっ!!」


 一瞬とはいえ、視界に捉えてしまった嘗ての仲間の亡骸。それも、頭部と身体が離れ、手足も片方ずつ失っている姿を見てしまえば、誰でも嘔吐くのは仕方ないというものだ。


「し、しっかりしてください雪羅さん!!」


 嘔吐く雪羅の背中を優しく撫でながら、鈴華が声をかける。


「うっく……す、すみません。でも……まさか霧矛さんまで」


「そう、ですね……私も、霧矛ちゃんは小さい時に見ていたので。とても……ぐすっ、悲しいです。でも、一番……辛いのは」


 それ以上は口に出来なかった。霧矛の事を心配し、彼女の安否を確認するために自分達をここへ向かわせた人物。その相手にこの事実を突きつけるのは、あまりにも酷だった。

 だが、伝えなければいけない。それが使命だからだ。

暦は、鈴華の指示で霧矛の遺体に布を被せてあげた。


「こんな寒い所でさぞ寂しかった事でしょう。ご安心ください、きちんと運んで差し上げますから」


 無論相手に声は届いていない。だが、かつては神に仕えていた身としては、死した者を弔うのは至極当然だと教えられていたため、その作法に則った。

鈴華達一行は、霧矛の亡骸を即席で作った担架に乗せて運んだ。

 



「……お戻りになられたのですね。お疲れ様です」


 ベッドに入ってはいるものの、見送る時とは違い体を起こしている状態の水恋。そんな彼女の蒼い瞳には、どこか悲しさが滲み出ていた。何かあったのだろうか、そう思った鈴華が口を開き問うた。


「何かあったの、恋ちゃん?」


「……はい。実は、靄花さんが死んだと報告がありまして」


「えっ!?」


 水恋の言葉に、雪羅が声を漏らす。


「私も驚いています。何でも地下の拷問施設から、靄花さんの血液反応が僅かに検出されたらしいのです。まさか封印していたあの施設にいただなんて驚きで……レイニー・ヴィレッジの方の情報によると、真夜中にお仕事をなさっていたはずなのに、朝になったらいなくなっていたらしくて、捜査していたら先程の場所を突き止めたそうです」


「そう、なんですね……」


 説明を聞いた雪羅は、呆けて力を失いその場に座り込んだ。


「どうして、靄花さんまで……」


 ぼそり口にした水恋の言葉に、追い討ちをかけてしまうのではと、鈴華が躊躇いつつ口を開いた。


「あ、あのね? 恋ちゃん……ほんと、なんて言っていいか分からないんだけど」


「どうかしましたか? あ、そういえば、風浮くんや霧矛はどうでした?」


 まるで、僅かな希望に縋り付くような儚い表情。そんな水恋を、鈴華も雪羅も見ていられなかった。だが、嘘を()いてもいつかはバレるのだ。ならば、早い方がいいに決まってると覚悟を決めた。


「ごめん……二人とも、亡くなってたわ」


「……ぁ、そ、……そん、な。なん、で……何で私の大事な人達を……奪うんですか。こ、こんな……ずずっ、……の、こんなの……あんまり、です」


 包帯を巻いた顔の上を、涙が流れた。唇が震え、それを抑えるように上の歯で下唇を噛んだ。無理もない、仲間であり夫となった刻暗、ライバルでありよく喧嘩していた靄花、従妹であり大事な家族である霧矛、旅をしている間よく遊び相手をしてあげていた風浮、その全員を失ったのだ。行方不明の凛も未だに見つかっていない水恋には、もう暗冷や鈴華、霧霊霜一族の家族しか残っていない。


「もう、嫌……これ以上、失うのは……嫌です。どうして……こんな事」


 敵の理不尽な蹂躙。大事な帝国をボロボロにされ、大事な仲間や家族を傷つけ、奪われ、そしてそれにまだ満足出来ていないというように、敵は次の標的を誰にしようか考えている状態なのだ。


「一応、霧矛ちゃんの遺体は持ってきたわ。あのままあの場所に置いておくのは、あまりにも可哀想だったから……」


「ありがとう、ございます。霧矛さんは、寂しくないように皆さんのすぐ近くにお墓を立ててあげる事にします。……あの、一つお願いしてもいいですか?」


「何?」


 水恋のお願いに、鈴華が首を傾げた。


「霧矛さん自身は傷ついた体を見られたくないと思うのですが、せめてお顔だけでも最期に見ておきたいのです」


「でも……大丈夫?」


 相当精神的にもくるものがあるだろうと心配した鈴華が訊ねる。


「覚悟は、出来ているつもりです……」


「……分かったわ。恋ちゃんがそこまで言うなら」


 そう言って霧矛の遺体を水恋の近くへ運んだ。被せられた布を少しずらし、その顔を見て水恋は目を瞑り小さく口を開いた。


「さぞ、痛かったでしょう。寂しい思いをさせて、本当に申し訳ありません。もう大丈夫ですよ、霧矛さん。ゆっくり、休んで下さい」


 優しく別れの言葉を口にした水恋は、ふとその霧矛の髪の毛を以前のように撫でてあげた。


「後の事は、こちらでやっておきます。ありがとうございました」


「うん……」


 そこで場が一気に静寂に包まれた。

と、その時だった。


ドサッ。


「せ、雪羅さん!?」


 突然、雪羅が倒れたのだ。


「し、しっかりして下さい雪羅さん!!」


「す、すみません……急に眠気が……うぉえっ!」


 と、今度は嘔吐(えず)きだした。おかしい、確かに雪羅も霧矛の遺体を見はしたが、そこから時間が経過している。思い出したにしても、その前の突然の眠気が謎だ。


「もしかしたら……雪羅さん、最近何か変わった事はありませんでしたか?」


「か、変わった事……ですか? そうですね、やけにお腹が痛くなったり、頭痛とか……後、大好きな飴が最近美味しいと思えなくて……」


「待って、それって……」


 水恋の問いに答える雪羅の言葉に思い当たる節があったのか、鈴華が声をあげて水恋を見る。


「はい、恐らく雪羅さんは――」


「うぐぅっ!? い、痛い、お、お腹がぁっ!?」


 突然、雪羅が腹痛を訴えその場に蹲るようにして倒れた。


「まずいです! ここの施設は全てやられていますし……鈴華さん、間属性は使えるのですか!?」


「え、ええ。どうにか……あっ、そうか! 空間転移で!」


 水恋の言葉で、間属性を用いた移動手段を思いついた鈴華が声をあげる。


「はい! 時間がありません!! 急いで夢鏡王国へ戻って下さい!!」


「分かったわ、皆準備して!」


『はいっ!!』


 鈴華の指示に、慌てて巫女族の面々が準備をする。


「行くわよっ! 『空間移動術式・空間転移』!!」


 叫ぶと同時、巫女族と雪羅の足元に魔法陣が展開し、眩い光を発光した。

そして、次の瞬間この場から彼女達は忽然と姿を消した。


「どうやら、上手くいったみたいですね……ですが、まさか雪羅さんが……」


 水恋はふと上を見上げ、口元に笑みを浮かべた。

というわけで二部目です。雪羅の身に起きた異変。それは後にわかります。それでは引き続き三部をお楽しみください。

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