第十三話「変化する雪と失われる影」・1
今回は四部構成です。
鈴華達巫女族一同と雪羅は、風の里を訪れていた。そして、そこで訃報を伝えられた。
「そ、そんな……風浮くんが、死んだ……なんて」
雪羅のショックは大きかった。口元を手で覆い、思わずその場に崩折れる。だが、何よりそのショックが一番大きかったのはその訃報を伝えてきた人物だった。
「やだ、やだよ……風浮!! なんで、何で死んじゃったのよ~!!」
テーブルに突っ伏し嗚咽をあげて泣きじゃくる女性。彼女は『竜田 小乃葉』。風属性を持つ有属性者で、風浮の妻である。里長である風浮を失った今、この里を統率するのは彼女の任になるのだが、どうしても愛する夫の死を認めたくなくて、現状まだ統率が取れていない状況である。里の人間も風浮の事をよく知った人物ばかりだったために、彼を失ったショックは大きかった。
「ここも襲撃を受けてたんですね……犯人はわかりますか?」
「いいえ……ぐすっ、ただ……殺された人間は皆、生気を吸い取られたように干からびていたわ。里の何人かも同じような殺され方だったから、恐らく……ずずっ、同一犯だと思う」
鈴華の問いに、涙を拭いながら小乃葉が犯人の情報を知り得る限り教えてくれた。
「ありがとうございます、小乃葉さん。必ず犯人を突き止めますから、任せてください!!」
まだ敵の主力もよく分かっていないのに自信たっぷりに言い切る鈴華に、少しは気が紛れたのか小乃葉が笑みを浮かべた。
「こちらこそ、ありがとう。少し、元気が出てきたわ。必ず、風浮くんの敵を取って!!」
「はいっ!!」
「雪羅さん……でしたっけ?」
「はい?」
小乃葉が鈴華の近くにいた雪羅に視線を向けて声をかけてくる。
「確か、同じ伝説の戦士でしたよね?」
「……はい、私も大事な家族を失ったので、小乃葉さんのお気持ち、よくわかります。すみません、どうやら敵は伝説の戦士が標的のようで」
大事な人が伝説の戦士であったが故に殺された事で、自分達を憎んでいるのではないかと思い、雪羅は申し訳なく謝罪した。
だが、それは雪羅の思い過ごしだったようで、小乃葉は首を振ってこう言った。
「ううん、いいの。……あなた達が責任を感じる必要はないもの。あなた達のお陰で第二次神人戦争は防がれたんだから。もっと胸を張るべきだわ。応援してる……娘の事、頼んだわよ」
「もちろんです」
憎まれるどころかむしろ応援されている事を知り、雪羅は嬉しくなって笑顔で返事をした。
それから鈴華達一行は、霧矛との連絡が途絶えたという濃霧の森――フォッグ・フォレストへとやってきた。名前通り霧がとても濃く、少しでも離れれば迷子になってしまいそうな場所だった。足場も不安定で、湿度が高いせいかぬかるんでいる所もあった。
「足元気をつけてください。コケたりしたら泥塗れですからね!」
鈴華が後ろを歩く仲間に忠告し、再び前を向いたその時、少し離れた前方に人影らしきものが見えた。
「あ、誰かいます! もしかしたら霧矛さんかもしれません! お~い、霧矛さ~ん!!」
そう鈴華が声を張り上げたその時、その人影方面から何かが飛んできた。それを瞬時に察知した雪羅が、慌てて鈴華の手前に立ち、その攻撃を防御した。
「くっ! 大丈夫ですか、鈴華さん!!」
「は、はい……あ、あれ? も、もしかして霧矛さんじゃなかったんですかね?」
攻撃された事に驚きのあまり思わず呆けてしまう鈴華に、敵を睨めつけたまま、雪羅が静かに口を開いた。
「そのようです……」
と、人影が動いた。足場がぬかるんでいるというのに、まるでそれを気にも留めないというように、敵は真っ直ぐこちらに突っ込んできた。霧の中から姿を現したそれは、白銀の鎧を身に纏った騎士だった。
「鎧一族!?」
ガキンッ!!
鎧を目にした雪羅は、敵の攻撃を防ぎながらそう一言口にした。
鎧を身に纏った人間といえば鎧一族が出るのは、多くの人間ならば至極当然の回答である。が、鎧一族がこんな辺境の場所にいるなんて変な話だ。何よりも、団体行動を取る事が多い彼らが、単独行動を取るとも考えにくい。では一体、今目の前にいる人物は何者なのか。
「あなたは、誰!?」
敵の攻撃を弾き返した雪羅が、一歩後ろに跳んで距離を取った所で問うた。
すると、敵は身構えていた武器を一旦下ろすと、懐から何かを取り出して手元で何かを始めた。だが、生憎とこの濃霧である。何かをしているのは分かるものの、それが一体何であるかまでは判別出来なかった。
「い、一体何をしてるの!?」
不可解な敵の攻撃に調子を狂わされた雪羅は、未だに発言しない敵に更に質問した。
と、そこで敵が何かを放つ。それは、一本のクナイの様な物だった。
もう一度弾き返すかとも考えたが、ふとその得物に何かがくっついているのを見て、雪羅は今までの闘いで得た洞察力でその得物を掴んだ。
一応の安全も兼ねて、その手に分厚い雪の塊を纏わせる事も忘れない。これも成長の証だ。
「これは……メモ紙?」
くっついていたのは、一枚のメモ紙だった。その紙面に目を落とすと、そこにはこう書かれていた。
『拙者の名前はジャック。ディートヘイゴス一家の者だ。拙者の目的は伝説の戦士の暗殺である』
ご丁寧に名前と目的まで書いてあった。それは、先程雪羅が質問した回答だった。
まさか、この敵は喋る事が出来ないのであろうか。そんな疑問がふと沸いてくるが、それよりも今気になるのは彼の目的の方だった。
「どうして、……私達を、伝説の戦士を襲うの!? あなた達の、せいで……お兄ちゃんは……ぐすっ」
思わず自分を守るために犠牲になった氷雨の事を思い出し、言葉に詰まって手元の彼の形見を強く握りしめた。
だが、聞かずにはいられない。
「伝説の戦士に何の恨みがあるの!?」
と、眼前の敵を強く睨む雪羅の下に、再び何かを書き終えた様子のジャックが、メモ紙を飛ばしてくる。
『拙者達の目的は、主君を殺した伝説の戦士の暗殺にある。先に拙者達の主君に手を出したのは貴方達の方である』
「主君? 一体誰の事? 私達はそんなの全く知らないっ!!」
単に忘れている訳ではない。伝説の戦士として戦ったといえば、オルガルト帝やオドゥルヴィア達だ。冥霊族に関わりのありそうな人間を殺した覚えはない。
『戯言を……。貴方達でないのであれば、誰が景楼様を殺したのだッ!!』
「かげ……ろう? 誰の事……?」
聞き覚えのない名前に、雪羅が首を傾げる。と、背後から声が聞こえた。
「景楼……それって、皇族の……」
声のする方へ向くと、思い当たる節があるのか、暦が難しい顔をして顎に手をやる姿があった。
と、暦が雪羅の視線に気づきハッとする。
「あ、あの……私の記憶が正しければ、確かその方は雅曇皇圓一族の当主様です。行方不明と聞いておりましたが、お亡くなりになられていたんですね……」
静かに景楼について口にした暦の説明に、雪羅はやはり知らないと確信し、真剣な面持ちでジャックにこう告げた。
「やっぱり私達は景楼さんを殺してなんてない!! それに、ジャックさんの仕えていた人って、もう随分前から行方不明になってるんでしょ!? だったら、私達伝説の戦士が結成するよりも前に誰かに殺されてる可能性だって――」
ブゥンッ!!
「きゃっ!?」
あまりにも突然だった。雪羅が最後まで口にしようとした瞬間、それを認めないかのようにジャックが長剣を振り下ろしてきたのである。
「何するのっ!!」
と、敵の不意打ちに怒る雪羅に、再び紙が飛んでくる。
『断じて認めんッ!! 貴方達が、貴方達が拙者達の主君を殺したのだッ!! でなければ、一体誰が、誰が主君をッ!!』
相当な忠誠心だったのだろう。それだけに、仕えていた主を失ったダメージはデカいようだ。恐らく、自分達を復讐するべき相手だと定める事でその報復心を向けていたのに、勘違いだとなればいよいよ仇を失う事となり、誰に溢れんばかりの殺意をぶつければいいのか分からなくなるという事だろう。
「くっ! 少なくとも私達じゃない!! だから、これ以上私達の仲間を傷つけるのはやめて!!」
これ以上犠牲を出したくない、精一杯の雪羅の思いを叫んだ。
だが、ジャックは聞く耳持たずというように攻撃を続けた。腰に下げた四本の得物をどうやって振るっているのかは謎だが、次々と剣戟が雪羅達を襲った。
鈴華を守るため、暦達巫女族も雪羅の加勢に入る。
「薺、後ろだっ!!」
「ひぃっ!? な、なずなに攻撃しないでくださいぃ~!!」
朱雀の声に、背後から攻撃されようとしていた薺が慌ててそれを躱しながら悲鳴をあげる。
「敵の動きが早すぎます! 鈴華様、如何致しましょう?」
暦が、主である鈴華を守るように前に立ち、判断を仰ぐ。
「……う~ん、そうね。微弱ではあるけど、空間系の力を使えばどうにかなるんじゃないかしら?」
「なるほど、確かにあの力は私達全員の力を集結すれば出来なくはないと思いますが……鈴華様に比べると、私達の力は七力が一つしかない分もっと弱いですよ? それでも、大丈夫でしょうか?」
顎に手をやり思案した鈴華が出した提案に、暦が頷いた。が、自分達の力が微力である事に、ふと心配の声を漏らす。
その言葉に、彼女は優しく笑んだ。
「雪羅さんの手助けになれば、大丈夫よ。とりあえず、雲雀と朱雀以外の皆は、私を囲むように円陣を組んでちょうだい!」
『はいっ!!』
鈴華の指示に、巫女族達が声を揃えて応えた。
「す、鈴華さん!? い、一体何を――」
「安心してください、私達は鳳凰に守られる身ではありますが、仮にも元は巫女族……。弱まっているとはいえ、間属性を用いた封印術の応用くらいならば!」
そう言って鈴華が瞑目すると、周囲を手を繋いで円陣を組んだ巫女族も次いで目を瞑った。
刹那――彼女達の足元に陰陽魔法陣が出現し、薄い桃色に光り輝いた。
「雲雀! 朱雀! 行くわよ!!」
『はいっ!!』
鈴華が合図を出し、両手をそれぞれ雲雀の左手と朱雀の右手に重ねる。そして雲雀と朱雀が、余ったもう一方の手の平を合わせた。
「『空間術式・対象固定』!」
そう叫ぶと同時、ジャックのいる足元が四角に光り輝いた。
突然の事にジャックも冷静さを欠いている様子だ。だが、すぐに彼はその場から退こうと横に跳んだ。が、それを許さぬが如く鈴華が目を見開く。
同時、その目と呼応するように雲雀と朱雀の片方の黄金色の瞳が発光した。
すると、先程いたジャックの足元の四角が形を変えて、ジャックの移動した方へ伸びた。正方形から長方形へと形を変えたその光は、次の瞬間地面から飛び出して上空へと伸びていた。まるで、ジャックを囲むように。
四角い透明の箱に閉じ込められたジャックは、左右をサッと見渡し今の自身の状況を瞬時に理解した。すると、くっと身を屈めて腰元の長剣を抜刀した。そう、この謎の透明の箱を切り裂こうとしたのだ。が、箱はぐにゃりとスライムのような感触をしており、高速で動く剣を容易く受け止めた。
これにはさしものジャックも怯んだようで、何度も何度もその箱を切り刻もうとした。が、その連続切りも全くの無効化だった。
「……す、すごい」
ぼそり一言、雪羅が単純な感想を口にした。が、それも無理からぬ事だ。先程まで苦戦していた相手が、今目の前で逆に苦戦を強いられているのだ。
「これが……間属性の力。刻暗さんと同じ……時空間系能力。こんな事が出来るなんて」
まさに規格外とも言える力だった。これで本来の力よりも弱まっているということは、本当の力は一体どれ程の力を持っているのか、雪羅は思わず震えてしまった。
「どうせなら、ここで仕留めてしまいますよっ!!」
そう言って鈴華が再び叫んだ。
「『空間術式・封間消滅』っ!!」
瞬間、ジャックを閉じ込めていた薄い桃色をしたやや透明の箱が、一気に収縮してその場から消滅した。
というわけで、新年初投稿です。何気に新キャラが出たりもしますが、恐らく今回だけでまた出る予定は未定です。また、何気に巫女族が活躍したりします。それでは、引き続き二部をお楽しみください。




