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第十二話「各地の調査」・4

「……例の噂、か」


「はい、一夜にして滅んだフレムヴァルトを襲ったのは二体の怪物。怪物は巫女を含めた多くの民を蹂躙し惨殺した。噂の全容を口にするだけでも気分を害する事ですが、それでもあくまでも噂。真実は全て紅蓮の炎に焼かれてしまい灰になったと思われてた。まさかここまで綺麗に人間だと判別出来る状態の死体が残っているとは、思わなかったです」


「それで、死因は分かるのか?」


 竜龍と男が少女の傍に歩み寄って少女が確認を取る姿を見守る。


「……うぅ!? こ、これは酷い……腹部に大きな欠損が見られます。どうやら失血死みたいです」


「そのようだな……しかし、おかしい」


「何がおかしいんです?」


 眉間にしわを寄せる竜龍に、男が片眉を上げて訊ねた。

すると、竜龍が答えるよりも先に少女が静かに口を開いた。


「ないんですよ、子宮が」


「え」


 少女の言葉に男は言葉を失う。


「巫女には神子産みの時代があった。もしかすると、これもその事に関係しているのかもしれんな。まさか他の巫女も?」


「……確認してみます」


 竜龍達はすぐに近場にいる巫女装束を纏った少女達の死体を確認した。そしてそれらを終えると、竜龍の元へ集った。その彼らの顔を見れば、報告を聞かずとも結果は明らかだった。


「そうか……」


 竜龍は思案した。手に入れられる情報はそこそこ集まった。鎧一族が神獣を使った事、巫女達を殺してその子宮を奪っていった事、噂は真実だった事……。

と、その時だった。


「た、大変でさぁ!!」


「どうした! どこにオドゥルヴィアがいるか分からないんだ、静かにしろ!!」


「す、すいやせん……副頭領、こっちに来てくだせぇ」


「ん?」


 男に連れられ彼らが行き着いた場所は、社のさらに奥。そこには、煤けてはいるが明らかに魔法陣と見られる物が描かれた床があった。しかし、もっと彼らの目を引いたのはその周囲に散らばった惨死体だった。


「うっ、こ、これは……鎧一族!? ば、馬鹿な……何故巫女族を襲ったはずの鎧一族が死んでるんだ!?」


「そうなんでさぁ……ほんッと、わけわかんねぇなぁ……お前どう思うよ?」


 男が少女に問う。


「……何故? 答えは至って単純、ですよ? 敵が新たに現れたという事です」


「つまり、第三者と言う事か」


「そうです、きっと鎧一族が巫女族を襲撃した直後に新たな敵が現れたんじゃないでしょうか?」


 推測を立てる少女の言葉に、竜龍は顎に手をやり思案した。


襲撃されたフレムヴァルト帝国。惨殺された多くの巫女族と帝国民。だが、中には生き残った巫女もいた。現に、被害者である彼女らは月牙様のトコにいる。しかし、どうして生き残れた? こりゃ聞きにくいが当人に聞くしかなさそうだな。

問題は、第三者ってのが誰なのか、だ……一人、もしくは複数人。


「……一番怪しいのはヤツしかいない」


 竜龍の言葉に、周囲にいた仲間が一斉に視線を交わした。

そして、彼らの台詞が被る。


『――オドゥルヴィア』


 刹那――生温い風がどこかから吹き込んだ。同時、気味の悪い声が聞こえてきた。


「呼んだか?」


『――ッ!?』


 一番出くわしたくない人物が姿を現した。それも、円状に立っていた彼らの中心に。


「くっ、オドゥルヴィア!?」


「如何にも……我が名はオドゥルヴィア=オルカルト=ベラス。世界最強を目指す男よ」


 拳を強く握り締め、それを天高く突き上げるオドゥルヴィア。同時、その勢いによって生み出された風が天井に穴を空けた。


「う、嘘だろ!?」


 体格的にはオドゥルヴィアよりも大きいはずの男が、彼のその人間離れした芸を見て萎縮する。竜龍も、はなから戦う事はしない腹積もりだったので、恐る恐るというように歯を噛み締めながらすり足で後退した。


「おやおや、我が名を呼んでおいて尻尾を巻いて逃げるつもりか?」


 やれやれと首を左右に振って呆れ返るオドゥルヴィア。


「ふんッ、戦略的撤退というやつだ!」


「くふっ、物は言い様だな。我が逃がすと思うか?」


「是が非でも逃げる!!」


「くふはははッ! 面白い、そこまで必死に逃げの姿勢を見せる敵は初めてだ!! よかろう、ならば是が非でも逃げ果せてみせよッ!! だが、貴様だけは決して逃がしはせんぞ御影竜龍!!」


 竜龍の真剣な目つきと口にした情けない一言というギャップに、たまらず高笑いを始めたオドゥルヴィアが人差し指を竜龍に突きつける。


「――ッ!? な、何故俺の名前を」


「くふふっ……。我がわざわざ滅ぼした国に来て、戦果を思い返すと思うか? 無論、目的があっての行動だ……そう、貴様だ」


 獲物を狙う怪物の紅蓮の双眸に睨めつけられ、竜龍は怯んだ。すると、その竜龍を守らんとするように部下達が彼の前に立ちはだかる。


「ほぅ、人間の壁というなんとも脆い防壁……。逃げるのではなかったのか? 無論逃げて構わんぞ? 貴様らには、はなから用などない。殺す価値もない貴様らに手を下す時間は、残念ながら我にもないのだ」


「用もなく、殺す価値もないなら殺さない? ならば、何故お前はこの帝国を……滅ぼしたのだ!!」


 オドゥルヴィアの発言から浮かんだ疑問。その疑問を率直に竜龍は問うた。


「くふふっ、勘違いしてもらっては困るな……。まぁ、真実を知らない貴様らには分からぬのも無理からぬ事か。よかろう、真実を教えてやろう。此の国はな、鎧一族が滅ぼしたのよ。ドルーミラ伯爵の部下がな……我はその手伝いをしたまで」


「神獣の件は!?」


「ほぅ、そこまで行き着いていたか。まぁ、それも現場に来れば(おの)ずと知れる事か。神獣は彼らが奥の手として持っていた物だ。ここぞという時に使用するようにドルーミラに言われていたらしいな」


 竜龍の次々の質問に、オドゥルヴィアは口の端を吊り上げながら答えた。


「では、貴様は手を出していないというのか!?」


「ああ、我は"手"を出してはいない……さぁ、そろそろ質問タイムにも飽きてきた。そろそろ貴様を手に入れる時だ、御影竜龍」


 真っ白な歯を見せ、不気味に笑むオドゥルヴィア。その彼が片手をかざした瞬間、何かされると直感した竜龍が叫ぶ。


「くッ! 逃げるぞ!!」


『御意ッ!!』


 竜龍の命に、彼らは煙幕を用いた。ボムッ! と黒煙が周囲に発生し、オドゥルヴィアの視界を一時的に奪う。


「くふふッ、無駄な事を……我にこの様な小細工通ずると思うてか?」


 ニタァと笑んだオドゥルヴィアは、手をかざし軽く力んだ。すると、その気迫で煙幕が一気に霧散した。

だが、煙幕が晴れる頃には彼らの姿は煙のように消えていた。


「ほぅ、流石は虚栄に紛れし殺戮者インビジブル・アサシン……。その名は伊達ではない、という事か。だが、どこに隠れようと無駄だ。我には神罰があるのだからな……出でよ我が僕――索冥ッ!!」


 オドゥルヴィアが手を掲げると、その手首についていた楔が怪しく光り輝き、地面から純白の怪物が姿を現した。


【うごぉおおおおおおおおおおッ!!】


 高らかに咆哮をあげ、天井の穴がさらに大きく口を開く。


「くふふッ、さぁ索冥……餌の時間だ。見つければ食べて構わん」


 完全に自我を失っていた索冥は、瞳を紅蓮に輝かせその場から瞬時に姿を消した。


「さぁ、かくれんぼの始まりだ……」




「はぁはぁ、皆無事か!?」


「へ、へい……しかしこのままじゃマズイですぜ? 早いトコ逃げねぇと!」


 壁に片手を突き、振り返って仲間が一人も欠けていないかどうかを確認する竜龍に男が答え、それから逃げる催促をする。


「でも、一体何故オドゥルヴィアは副頭領を?」


「んなもん、どうだっていいだろ! 今は逃げるのが先決だ!! 行きやしょう、副頭領!」


 少女がどうにも敵の目的が不可解だと首を傾げると、男は焦った様に彼らを急かした。それほどまでに彼はここから逃げたかったのだろう。

と、その時、轟音と共に地響きが起こった。


「う、うわぁ!?」


「な、何だ!?」


 突然の事に体勢を崩して膝を突く竜龍達。と、そこに姿を現したのは純白の神々しい光を放つ怪物だった。


「で、でたぁ怪物だぁ!?」


 デカい図体の割に小心者の男は、腰を抜かしてその場に尻餅をついた。


「何をしてる、立て! 早く逃げるんだ!!」


「へ、へいッ!」


 竜龍の言葉に、慌ててその場に立ち上がった男は、怪物に背を向けるようにして駆け出した。

だが、それを許さぬように怪物が咆哮をあげてその豪腕を叩きつけるように地面に振り下ろした。その衝撃波が背中を向けている虚栄に紛れし殺戮者インビジブル・アサシンのメンバーを次々襲った。


「ぐわぁ!?」


「きゃあ!?」


「うっく!? だ、大丈夫かお前ら!!」


 一番最前を走っていた竜龍が倒れた仲間の下へ駆け寄る。


「あ、ああなんとか……大丈夫でさぁ。い、行きやしょう!」


 激痛の走る足をどうにか動かしてその場に立ち上がった男。

と、仲間の少女が片足に深手を負ってしまい立てずにいる姿を見つけた。


「くっ、何やってんだおめぇは!! おら、逃げるぞ!!」


 少女を軽々と肩に担いだ男は、急ぎその場から駆けた。足を軽く負傷したとはいえ、走るのに少々影響があるくらいだ。逃げられなくはない。

竜龍は仲間が予想以上にダメージを受けている事に怒りを覚えた。狙いは自分だけ。仲間はそれに巻き込まれているだけだ。ならば、何も彼らと一緒に逃げる必要はない。そんな事分かっていた。だが、自分はどこかで恐れていたのかもしれない。一人で死ぬ事を、孤独を。

しかし、ここにきてようやく分かった。本当に恐れるべきは仲間を失う事だ。仲間を失うくらいならば自分一人が犠牲になった方がマシだと、思えた。


「……お前達だけで逃げろ」


「なッ、何言ってんですかい!? 副頭領は逃げねぇつもりですかい!? 御頭にはなんて言えば!!」


「……すまない、御頭には俺から言っておく。だから逃げろ、誰か逃げ果せるやつがいなければ、得た情報が無駄になっちまう。それだけは絶対に阻止しなけりゃならない。……わかるだろ? 殿(しんがり)ってやつが必要なのさ。早く行けッ!!」


 ここまで自分の事を想ってくれる部下を持って幸せ者だと、竜龍は思った。


「くぅ……すいやせん、副頭領!! 今までありがとうございやした!!」


「ふっ、やめろよ……これが今生の別れみたいだろ?」


 それがフラグである事は、この場にいる誰もが理解出来た。だが、敢えて口にする事はしなかった。もしも奇跡が起きたら……そんな淡い期待を抱いたのだ。


【グルゥゥ、ウグァアアアアアアア!!!】


「ちっ、こんな怪物と対峙するってのは初めてだが、いい腕試しだ。仲間を守るために時間稼ぎさせてもらうぜ!! さぁ、かかってきやがれ!!」


 竜龍は仲間が逃げる方向とは別方向に駆け出した。


「へっ、何も時間稼ぎするために戦う必要なんてねぇんだよな……。あんま派手な動きも出来ないしな」


 建物の物陰を利用して上手く索冥の目を掻い潜る竜龍。相手の目を盗み、ひっそりと影を移動するのは忍ぶ者として特技とも言える。だが、なかなか姿を現さない事に苛立ちを覚えた索冥が、荒々しい捜索を始めたのは計算外だった。周囲に散らばった障害物を、まるでゴミを周囲に追いやるようにどかす。その作業によって動かされた障害物の一つが竜龍を襲った。


「ぐぁっ!?」


 吹き飛ばされた竜龍は壁に叩きつけられると同時に壁を突き抜け、さらに奥の床に強かに背中を強打した。


「いってぇ……んだよ、あのパワー。さすが神クラスってか? くっそ……あ、あぁ……」


 腰に手をやり、激痛に耐えつつその場に立ち上がる。それから顔を激痛に歪めながら目の前に迫る索冥を見上げた。


「へ、へへ……完全に腹を空かせてやがんな。だが、お前なんぞに俺はやられやしない!!」


 そう言って竜龍は次の手を考えた。が、その前にあの声が聞こえてきた。


「くふふっ、追い詰めたぞ御影竜龍……さぁ、覚悟はいいか? 我の崇高なる計画の一部となれ」


「けっ、嫌なこった。お前の計画に利用されるくらいなら死んだ方がマシだ!!」


「……くふふっ、なかなか見上げた心意気だ。だが、殺させはせんぞ。絶対にな」


 歯噛みしてオドゥルヴィアを睨むが、無駄な事だと分かっていた。だが、有属性者とはいえ大した力を持っていない竜龍はどうしようもなかった。


「何故貴様が狙われるのか分かるか?」


「さぁな、皆目見当もつかん」


「ならば計画に利用される者としての権利として教えてやろうではないか」


 そう言って口の端を吊り上げたオドゥルヴィアが説明を始めた。

 

「この世には時空元という要素が存在する。時間、空間、次元、どれが欠けてもこの世界は成立しない。つまり、なくてはならない存在。そして、それを体現した存在がいた。それが時空元の祖と呼ばれる人物だった。そんな彼女は、ある事がきっかけで三人に分かれた。彼女達はそれぞれ鎖神、巫穹、玄朧と名前を変えて子孫を残した。まさかその子孫がここまで影響力のある存在になるとは思わなかった。だが、まだ見つかっていない祖がいる。そう、玄朧だ。我は彼女の力が欲しい。次元を操る力……是非とも我が力の一部にしてくれる!」


 長々と語られたオドゥルヴィアの企む計画。だが、その何処にも今回の伝説の戦士襲撃については語られていなかった。


「伝説の戦士を襲撃したのはお前達ではないのか?」


「ほぅ、何の事やら? ……我の目的は玄朧の持つ元属性を手に入れる事だ。そのためには貴様の力が必要なのだ。協力してもらうぞ? まぁ、拒否した所で強制させるだけだがな……」


 強制……恐らく捕らえられた後、奴隷の首輪(カラー・スレイヴ)でも取り付けられるのだろうと考えた。


「分からんな、俺にはその玄朧とやらのいる次元の間に行く手段はない。一体、俺に何をさせようと言うのだ?」


「くふふっ、貴様が知らぬのも無理からぬ事か。貴様は知らぬだろうが、ほんの少し龍属性が眠っているのだよ。なんせ、貴様は龍竜族とのクォーターなのだからな」


「――ッ!?」


 自分以外殆どの人間が知りえない事を、まさか敵であるオドゥルヴィアが知っているとは思っていなかった竜龍は、驚愕して目を見開いた。 


「驚いているな……貴様らの情報などすぐに手に入る」


 最早敵に情報は筒抜けという事なのだろうか? とにかく、得られた情報だけでも伝えなければ。

竜龍は得た情報を記し、連絡用の影烏に運ばせようとした。

が――。


「――精神支配マインド・コントロール


「ぐぅッ!?」


「チッチッチ……甘いな。我が気づかぬとでも思ったか? まだ知られる訳にはいかん。情報は決して流させはせん。本当は余計な情報も得てしまった場合、止む無くあの者達も殺す所であったが、そこまで重要な情報は得られなかったのでな……貴様に免じて逃がしてやる事にした。まぁ、貴様が死んだ事を影虎影明に伝えてもらう役目も必要だったのでな。さぁ、参ろうか我らの居城へ――」


――す、すまない皆。御頭――影明……琥竜、後の事は頼む……。



 こうして御影竜龍はオドゥルヴィアによって呪縛洗脳にかけられ、彼らのアジトへと連れ去られたのだった……。

というわけでオドゥルヴィアの計画のために連れ去られてしまった竜龍。果たしてオドゥルヴィアは色んな人を浚ったり仲間にしたりして何を企んでいるのか微妙にナゾに包まれる今回。

次回予告、まだ確認しに行っていないメンバーを確認し、調査を進めるメンバー。そしてそこに現れる敵の影に、雪羅が動く? 一応次回で調査を終えて、十四話からいよいよ王国がメインになる感じの予定です。例によって更新予定は不明ですのでご了承ください。それではまた次回。

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