第十二話「各地の調査」・3
「うっ……ぐす、お姉ちゃあ~んっ!!」
今まで堪えていた物が決壊した。水歌は目から涙を溢れ出させて姉のベッドに顔を押し付けて泣きじゃくった。
嗚咽をあげ、姉をこんな姿にしてしまった自分の愚かさ情けなさを恥じて懺悔の言葉を重ねた。
そんな妹をあやすように優しく頭を撫で続け、赦しの言葉をかけてあげる水恋。
「もういいのですよ、水歌。私が油断したのがいけないのです……私とて全員を助ける事が出来ませんでした。彼女達に向ける顔もありません。ですが、こうして助かった者もいる。私達は、命を失った彼女達の分も生きねばなりません……それが、せめてもの彼女達への償いです」
「れ、恋ちゃん……襲撃してきた敵の事、分かる?」
姉妹水入らずの会話に割り入るのは悪いと思いタイミングを窺っていた鈴華が、恐る恐るそう尋ねると、「お久しぶりですね、鈴華さん」と言って、水恋がヒビ割れた窓ガラス越しに外を一瞥し答えた。
「敵は一名ですよ、既に幾つかの情報は得ているのでしたら被るかもしれませんが、敵は爆弾使いですね。ただ、どうやら敵の目的は私達のようですからね。他の伝説の戦士も襲撃されているようです。……刻暗さんは、殺されてました」
「えっ!?」
驚愕の声を漏らしたのは、同じ伝説の戦士の仲間である雪羅だった。
周囲の人間を見渡すが、各々顔を俯かせている様子から本当の事のようだ。
と、そこへ扉が開いて何者かが入ってきた。
「人命の救助はまもなく終わります。お母様の容態は――っ!? お、お母様っ!!」
入ってきて報告を終えたかと思うと、視界に目を覚ました母の姿を見つけてその場に一気に駆け寄った一人の少女。そう、現二代目ウォータルト帝国の女帝である霧霊霜鳴海だ。
「すみません、鳴海……ご心配おかけしました」
優しく頭を撫でてあげる水恋。
目に涙を浮かべた鳴海は、周囲の目に気づいてハッとなり、慌ててその場に立ち上がった。
それから、やけに人が多い事を再認識して見渡す。そして行方不明になっていた鳳凰一族の面々がこの場に集結している事に疑問を浮かべた。
「どうしてここにいるんですか?」
単刀直入に鳴海が質問する。
「調査に来たんです、月牙王様からのご命令で」
答えたのは鈴華だった。
「あ、すみません……来訪予定でしたのに。こんな状況ですっかり……」
申し訳ないとばかりに頭を下げる鳴海に、帝族の身分である彼女がそんな簡単に頭を下げてはなりませんとばかりに鈴華が声をあげた。
「いえ、この事はすぐに王国に連絡する予定なので。その点に関してはご心配なさらず……」
「とりあえず、他の伝説の戦士を訪ねた方が良さそうです。霧矛とも、連絡が途絶える直前に何かあったみたいですし……無事ならばいいのですが」
水恋の危惧に、鈴華は皆と視線を交わした。
「恋ちゃん、私達行ってみるよ。何か分かったらすぐに連絡するから」
「はい、こちらもまた何か情報が入ったら連絡します。申し訳ありません、こんな体では何も出来なくて……」
「ううん、今は回復に努めて。私達も出来る事は精一杯やるつもりだから!」
幼馴染の二人の対話が終わり、ここへ案内してくれた少女に連れられて鈴華達巫女族一同はこの場を後にした。
――▽▲▽――
一方、場所は変わってエレゴグルドボト帝国。
エレゴグルドボト帝国の帝城内を、宵闇に紛れて影が蠢いていた。
「御頭、どうやら鎧一族に動きはなさそうです。あの五人にもそれといった動きはありませんでした」
そう言って壁に背をつけていた影明の傍に片膝をついて報告したのは、彼女の夫でもある御影竜龍だった。その竜龍の報告に、影明は視線をある一点に注いだまま口を開く。
「うむ、そうでござるか……。あのオルガルト帝亡き後、大公イーグニロ=マドゥーエ=ベラスが部下を統率しているそうでござるが、ドルーミラ伯爵の件があるでござるし、フィラーデル公爵やヴァルーディア侯爵やロスパー子爵、ドルトムント男爵の事が気になって……結果は収穫なし。拙者達の杞憂だったのでござろうか?」
「分かりません、しかし鎧一族が関与していないとなれば、考えられる可能性は……例の――」
「まさか、オドゥルヴィア? いやしかし、あれはあくまでもそれらしき人物……本人かどうかの確認はまだ済んでいないでござる。もしかしたら他人の空似という可能性もありえるでござるよ」
竜龍の口にしたある可能性……。それは以前、彼女から月牙に報告した内容だった。
フレムヴァルトで目撃されたオドゥルヴィアらしき存在。
確かにあの時、自分達はレイヴォル並びにオドゥルヴィアを奇しくも取り逃してしまった。今頃どこかで力を蓄え、もう一度自分達に何かしら攻撃してくる可能性も否めなかった。
もしかすると、今回の一連の襲撃がその第一歩なのかもしれない。
だが、それならばなぜ直接攻撃してこない? わざわざこのような回りくどい方法を取らずとも一斉攻撃を仕掛ければいいものを。
あまり難しい事を考えるのは得意ではない影明は、頭を悩ませ唸った。その様子を見兼ねた竜龍が口を開く。
「御頭、ちょいと調べたい場所があるんですが……」
「申してみるでござる」
「……フレムヴァルトです」
「――っ!?」
竜龍の口にした場所に影明は思わず絶句した。
「お願いします、どうしてもあれがオドルヴィアだったのか確認したいんです」
そう頼み込む竜龍に、影明は腕を組んで思案した。確かに伝説の戦士に対してここまでの恨みを抱く人物は考え得る限り彼らくらいしか存在しない。それを確認して確実なものにするには、確かにフレムヴァルトへ赴くのは必要事項であろう。だがしかし、この少数精鋭で向かってもしもオドゥルヴィア本人だった場合、勝てる自信は悲しいかな、微塵もない。杞憂に終わってくれれば幸いだが、今までの人生でそんな上手く行った試しがなかった影明は、どうにも不安だった。
「……拙者も調べたい場所があるのでござる」
「御頭も?」
「トゥインクル・ギャラクシー天文台。あそこには、希少属性の星属性を持った赤星慧殿と、それを守護する双龍の鱗堂聖龍殿と俊龍殿がいたはずでござるが、彼らとも連絡が取れないのでござる。慧殿は天界の天使九階級とも繋がりがあったでござるし、もし会えれば彼女達からも、この異常事態について何か知ってる事を聞こうと思っていたのでござるが……」
影明の考えを聞き、竜龍はゆっくりと頷いた。
「なるほど……どうします? 二手に分かれますか? それとも片方ずつ潰していきます?」
「……襲撃の話を聞く限り、敵は伝説の戦士だけでなくその関係者までも標的にするという広範囲を狙っているでござるし、それを考えるとあまり時間はかけられない……各地に散らばった伝説の戦士の安否の確認を終えるには、不本意ではござるが分かれた方が得策でござろうな」
顎に手をやりしばし考えた後結論を出した影明は、そう言って部下達と共に鎧一族の砦を後にした。
「良いでござるか? オドゥルヴィアだと判断したら深追いを直ぐに止めて引き返すでござる。決して敵に姿を見られてはならないでござるよ? 向こうには封印しきれていない分の神罰があるでござる。それを使われればどうなるか、想像も出来ないでござるよ……報告も逐一するように!」
「御意! それでは行って参ります」
「健闘を祈るでござる」
こうして虚栄に紛れし殺戮者の面々は二手に分かれ、頭領である影明率いる班はトゥインクル・ギャラクシー天文台へ、副頭領である竜龍率いる班はフレムヴァルト帝国の鳳凰一族の鳳凰大社へと向かった。
――▲▽▲――
黒く炭化したたくさんの家屋。焼け落ちたそれらの建物は、原型を留めない程に酷い状態にあった。家屋の周囲にゴロゴロと転がっている黒い塊。そのシルエットから、ヒトの焼死体である事がうかがえる。
そう、ここは数年前襲撃を受けて滅びた帝国――フレムヴァルトなのだ。
そこを歩くのは、闇夜に紛れる数人の黒い影。虚栄に紛れし殺戮者のメンバーだった。
「副頭領、ホントに御頭と別行動して良かったんですかい?」
そう言うのは同じ仲間の一人だった。口元を黒いマスクで覆っているその男は、周囲の惨状を見渡しながらそう口にする。
「心配ない、御頭にも許可はもらっている。お前が心配するのも分かるが、遭遇したらすぐに逃げればいい」
「上手く行けばいいんですけどねぇ……」
頭をかきながらネガティブな思考に陥る男。
歩けど歩けど周囲の惨状は変わらなかった。転倒した鳥居が道を塞ぎ、先へ進むために遠回りを余儀なくされる事もあったが、どうにか彼らは鳳凰大社へとたどり着いた。
「こりゃひでぇ……鳳凰の巫女達が皆殺しにされてら」
「……おかしい、これはどういう事だ?」
「どうしたんですかい?」
鳳凰一族の死体を、目を背けるどころか凝視しながら唸り声をあげる竜龍に男が訊ねる。
「これを見ろ」
そう言われて竜龍の手にしている物を見ると、そこには鎧の一部と見られる金属物があった。
「……こりゃ、一体?」
「鎧一族の物だ。だが、ただの人間のじゃない。これは四霊獣の物だ」
「――ッ!?」
竜龍の一言に男は驚愕した。聞き慣れない言葉ではあるが、一応の知識はある。
「それって確か――」
「冥霊界とこの世を隔てるために使われたとされる四体の神獣の事ですね」
男が答えるより先に答えを発したのは、同じく黒い装束に身を包んだ漆黒の少女だった。
「その通りだ。だが、どうしてその四霊獣がエレゴグルドボトではなく、フレムヴァルトにいたのか……」
「謎ってヤツですなぁ……何か用でもあったんですかねぇ?」
「副頭領……この娘達、どうやらその神獣に殺されたみたいです」
別の巫女の死体に触れて死因を探っていた少女が、そう静かに口にした。




