表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/174

第一話「赤に染まりし玩具人形」・1

 十人の女性研究員の中で、ある一人の女性研究員が石像に視線を向けてゴクリと息を呑み、恐る恐る口を開いた。


「ま、まさか……この石像が?」


【フンッ、如何にも……儂だ。全く、人様の敷地内に白ネズミが入っていると思えば、焼きネズミに成りおったか。ガハハハハ、傑作だのぅ!】


「くっ、よくもそんなひどいことが言えるわね! 博士がどうしてこんなヒドイ目に遭わないといけないの!?」


【主ら……何か勘違いをしておらぬか? 不法侵入した主らの心配をする必要がどこにあるというのだ? 主らは勝手に人様の敷地に侵入し、挙句の果てに勝手に雷に打たれおっただけであろう? それが儂らと何の関係がある? ……なかろう?】


「くっ!」


 悔しいが、その通りだった。勝手に雅曇皇圓邸に侵入したのは自分達だ。なので、責任を相手に向けることは出来ない。でも、それでもあまりにもひどい仕打ちだった。まるで狙い撃ちにされたようにあの雷は降ってきた。しかも、この邸宅目がけて。狙っていたわけでもないのに、なぜ?


【だが、主らの言うその博士とやらも酷い男よ】


「は? どうしてよ!」


「そうよ! 博士は別に何もしてな――」


【犠牲になるのが、自分でなく部下の者達である、主らになるのだからな】


 その言葉の意味がよく分からなかった。そこでふと、ある人物の存在を思い出す。


「そ、そう言えば、一緒に雷に打たれて感電してるはずのエレーネの姿が……ない?」


 そう言われてみればそうだった。普通ならば一緒に燃えて転げまわって泣き叫んでいるはずだ。それなのに、一言も声が聞こえない。


【ようやく気付きおったか……。だが、今更気づいた所で最早手遅れというもの。主らがこの邸宅に入った時点で、こうなる事は運命(さだめ)であったのであろうな。哀れなものよ……恨むのであれば、主らを連れてきたその焼きネズミを恨むがよい、ガハハハハハハ!】


 高らかに笑い声をあげるゴーレム。そのあまりにも気分を害する笑い声に、腹立たしい気持ちを押さえられない女性研究員達は、戦闘態勢に入ろうと武器を構えようとした。

 が、その時――。


ピチャッ!


 何かが一人の女性研究員の肩に付着する。どうやら上から降って来たらしい。でも、やけに異臭がする。しかも、何だか鉄サビ臭い……ふとそれに触れてみる。


「え――」


 一瞬わが目を疑った。


「ど、どうしたの?」


 隣にいた女性研究員がその手を覗き込む。そして、それを見て絶句する。その手に付着していたのは、真っ赤な血だった。一瞬暗がりでよく見えないからそう見えただけだとも思った。だが、その予想は最悪な事に当たってしまう。


「何よ……あれ」


 真上を見上げると、そこには異様な光景が映っていた。

 見えたのは二つ……真っ黒に焼け焦げた人型の焼死体と、その首筋に噛みついているような格好をしている赤髪の男。問題は、その男にあった。天井に張り付いているその男の背面から両側にかけて、異様に黒々とした蝙蝠の羽が伸びていたのだ。さらに、その双眸は真っ赤に光り輝き、こちらを見ていた。

 無意識に口内に溜まった唾を飲む女性研究員達。その頬を、ツ~ッと冷や汗が一筋流れる。


「ど、ドラキュラ?」


 なかなか開かない口を動かしてようやく出たのは、絞り出したような声音だった。すると、赤髪の男が動きだし、ガッシリ抱き留めていたその焼死体を放した。


ドチャッ!


『きゃああああ!?』


 突如頭上から降ってきた焼死体――もとい、変死体とも呼べるかもしれないその死体は、雷に打たれたことと白衣が燃えたことにより完全に真っ黒になってしまっていて、最早誰であるかを判別することは困難だった。

 だが、現在この場にいるメンバーで唯一こんな状態になっている可能性が十二分にあるのは、一人しかいなかった。


「……そんな、エレーネが」


「先輩」


 信じられないという顔でその死体を見下ろす女性研究員達。

 エレーネの死体からは、プスプスと煙があがると同時に真っ赤な血が出ていた。どうやら先程肩に付着したのは、エレーネの血液だったらしい。

 と、その時、誰かの声がした。


【んっふっふっふ、やっぱり人間の血は最強だな。まぁ、死んでしまっている上に焦げていたから少し不味かったがな……。口直しに貴公らの血を吸わせてはくれまいか?】


 そう言って真っ赤な双眸を一層眩く光り輝かせるのは、先程まで天井に張り付いていた赤髪の男だった。


「よくも、よくもエレーネちゃんを!」


【んっふっふ、おいおい勘弁してくれよ……その言い方だと、まるでこの我が貴公らの仲間を殺したようではないか。貴公らの仲間の女は、我が血を吸う前に死んでいたのではないか? 何せ、あの雷に打たれたのだ。普通ならば死ぬ】


「そんなこと、分からないじゃない! もしかしたら、万が一でも生きてたかもしれないのにっ! それなのに、あなたがトドメを刺したのよっ!! この人でなしっ!!」


 目尻に涙を浮かべる女性研究員の一人が、赤髪の男――ドラキュラに向かって文句を言う。その言葉に、ドラキュラは肩を竦めてやれやれという風な動きを取る。


【んっふっふ、そこまで言われるのは心外だな。まぁ、最もそもそも人間ではないのだがな? だが、この姿を見られたからには生きて外には出さん。貴公らの生き血をたっぷりと心行くまで堪能させてもらうぞ】


 そう言ってドラキュラは突如姿をくらました。同時、複数の赤黒い蝙蝠が出現する。


「きゃああ!」


「皆、しゃがんでっ!!」


【んっふっふっふっふっふ、どうだ? 我が分身の術は? さぁ、貴公らの中で一番に生き血を吸ってもらいたいのは誰だ? 口直しも兼ねているが、どうせならば絶品の生き血を飲みたいものだ。……そうだな――】


 そう言って値踏みするように宙を飛び続ける複数の蝙蝠達は、生き残っている女性研究員達を見渡していった。そして……。


【んっふっふっふ……貴公が一番美味そうな血をしているな】


 蝙蝠の姿はしているが、舌なめずりをしている姿が容易に想像できる研究員達。狙われていたのは、研究員の中でも一番最年少である十二歳の少女研究者、ミリィだった。


「ミリィ、逃げてっ!」


「う、うん!」


【んっふっふっふ、逃がすと思うか?】


 素早く逃げ行く道の先を阻んでいく蝙蝠達。その数が多いのもあって、ミリィの行く先々に蝙蝠が先回りして邪魔をしてくる。


「きゃっ!」


 思わず出っ張っていた石に足をつまづかせてこけてしまうミリィ。


「危ないっ!」


「あっ!?」


【んっふっふっふ、チェックメイトだ……貴公の負け、諦めろ】


 そう言って白衣を強引に掴みあげるドラキュラ。いつの間にか複数いたはずの蝙蝠達は姿を消していて、先程の赤髪の男がいた。

 ドラキュラは、その八重歯を妖しく光らせて、真っ赤な双眸を光り輝かせてミリィを見つめた。


「い、いや……いやだぁあああ! 死にたくない、死にたくないよぉぉぉぉ! やめてぇぇ! 助けてぇ!」


「ミリィっ! 今行くわっ!」


 いの一番に駆けだす研究員の一人。しかし――。


ズドンッ!


【ウゥ? この先、行かせない。兄ちゃんの邪魔、させない。するなら、殺す】


 やけに抑揚のない声音、だが心の奥底に響き渡るようなその声に、思わず後退する研究員達。


【随分と騒がしいわね……久しぶりのお客様かしら? それなら、お茶を出さないといけないわね】


 またしても別の声。さっとそちらに顔を向けてみれば、そこには髪の毛が蛇の女性がいた。その顔にはサングラスのような物をかけていて、服装は漆黒に包まれていた。思わず息を呑んで脳裏にあの言葉が思い浮かぶ。


――蛇女……ゴーゴン。


 その能力は言わずもがな分かっている。相手の瞳を見ればこちらの終わりだ。


「先に行って! ミリィを助けて!!」


「わ、分かったわ!」


「私も残るよ!」


「でも……」


「一人より、二人の方が心強いでしょう?」


「ふっ、ええそうね」


 そう言って二人が残り、残りの七人がミリィを助けに向かった。


【……待ちなさいよ】


 突如聞こえてきた女性の声に思わず足を止めてしまう研究員達。厳密的に言えば違う、止まったのではなく止められたのだ。そちらに何とか顔を向けると、そこには一目で分かる女性がいた。……魔女だ。


【ふふ、バケツの水……誰が勝手に使ったワケ?】


「わ、わたしだけど……」


 訊かれて思わず答えてしまった研究員。


【ふぅん、あんたが……うっふふふ。あんた、名前は?】


「? ナトリだけど?」


【じゃあナトリ、あんたには残ってもらうわ。他のには用ないし……どっか行っちゃっていいよ? てゆーか、どっか行ってくんない?】


 そう言って指をパチンと鳴らす。同時にナトリ以外のメンバーが解放される。


「な、ナトリ……」


「行って」


 ただ一言そう告げるナトリに、他のメンバーは心配そうな表情を浮かべた後、ミリィを助けに向かった。

 と、ミリィに後一歩で届くと思ったその時、またしても邪魔が入った。


【なぁ~んだ、男の人いないんだ~。じゃー興味ないやー。まっ、でもでも久し振りに起きたんだし、それに訊きたいこともあるし、誰か話し相手になってもらおっかな~? ねぇ、あなた達の中で一番カワイイのって、どの()?】


 その姿を見て一瞬驚愕する。あまりにも露出度の高い服装。胸元が思い切り開いていて、下手をしたら見えてしまうのではないかと思ってしまう。この場に男性がいたら卒倒していたかもしれない。だが、生憎とこちらは全員女性。意味が無かった。


「……私?」


【なにそれ、あなた自分で自分のことカワイイとか思ってんの? えへ♪ ――マジウザイんですけど】


 途中まではまだ可愛らしい声をしていたそのグラマラスな女性は、先程の赤髪の男とは異なる羽を羽ばたかせ、明らかに先程までとは異なる眼差しと声音で手を横薙ぎに振るった。


【あなた、名前は?】


「フローラ」


【ふぅん、生意気ね……その名前。他のはいいよ、わたし……あなたにしか用ないから】


 そう言って先程の魔女同様に他の五人を解放すると、半眼に不敵な笑みを浮かべてフローラを見た。


【その顔……わたしよりも醜くしてやるから】


 その声はあまりにも殺気めいていて不気味だった。


「ど、どうしよう! 皆どんどんバラバラになってるよ!」


「いいから走りなさい!」


ヒュンッ!


 突如何かが飛来する。


「躱してっ!」


 指示を受けてそれぞれ散開する五人。何が飛んできたのかを確認すると、それは一本の長剣だった。


「剣?」


 と、何か足音が聞こえてきた。


カシャンカシャン。


 金属の足音。そちらに目を向ければ、そこには鎧騎士(メタルナイト)がいた。すると、現れて早々にその鎧騎士は何かを取り出した。まさか、新たな武器かと警戒態勢に入る五人だが――。


「へ?」


 取り出されたのは、ペンとメモなどに用いるものだった。そして、それにサラサラと何かを書き出す鎧騎士。それから数分して、メモを向けてくる。筆圧が薄いのか少し近づかないと見えないためにそうすると、そこにはこう書かれていた。


『ここから先は進まない、拙者が相手を務めよう』


 それを見て、思わず半眼になる五人。


「あの、言わない方がいいのかもしれないんだけど、“進まない”じゃなくて“進ませない”じゃないの?」


「ああ、慌てて書いたから脱字しちゃったんだ」


 その指摘に、鎧騎士が驚愕して自分のメモを確認する。そして、ハッとしたような動きを取る。


「どうやら、喋れないみたいね。あれで筆談するみたい」


「何か、面倒なのもいるね」


「一気に緊張感抜けちゃったんだけど……」


「とにかく、ここは私に任せて行って!」


「でも!」


「大丈夫! こんなドジなやつにやられたりしないって!!」


「分かった!」


 そう言って他の四人は先へと進んだ。


「さぁ、どこからでもかかってきなさい!」


『拙者はドジなどではない』


「そのやり取りはもう過ぎたわよっ!」


 思わずツッコんでしまう女性研究員だった。




「ミリィ! しっかりして!」


「み、みんな……ぐっ!」


【んっふっふっふ、ほぅ……仲間のお迎えか? まぁ、無駄だがな】


 そう言ってミリィの細くて白い首筋をペロリと舐め上げる。


「ひぃっ!?」


「やめなさい、変態!」


【んっふっふ、何とでも言え……それと、一言言わせてもらおう。足元には気をつけろよ?】


「ふん、それで足止めするつもり? そんな手には引っかから――」


ビタンッ!!


 思いっきり顔面を地面に強打するメンバーの一人。


【言わんこっちゃないな】


 そう言って嘲笑する吸血鬼(ヴァンパイア)


「だ、大丈夫? な、何で急に躓いたの?」


「な、何かに足を引っ張られて――」


 と、ふと足元を確認すると、そこには地面から何者かの腕が突き出して研究員の足をガッシリ掴んでいた。

というわけで、サブタイ通り真っ赤に染まっています。女の子達が次々冥霊族のやつらに殺されていきます。しかも惨殺というグロテスクな感じです。しょっぱなからこんな感じですがこれがもうしばらく続きます。

ちなみに、一話は四部構成でお送りします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ