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第零話「鉛空に迫りし白き影」・1

 ある夜、淡く光る満月が漆黒の闇に包まれた森を照らしている中を、とある集団が蠢いていた。彼らは純白の衣を夜風に(なび)かせ、ある豪邸を目指していた。忘れられし亡き族種……『皇族』。

 人族を四つに分類した際、一番頂点に君臨するものだ。だが、その名称は人々に完全に忘れ去られていた。それには幾つか説があるが、真相は闇の中だ。そして、彼らが目指している豪邸は、その皇族の一人――もとい一族が“暮らしていた”場所だった。何故暮らしているではなく、“していた”なのか……それは――。


「あれが、暗殺されて滅亡した皇族七家(ヘプタエンペラー)の中でも、唯一生き残っていた最後の一族の家か」


「はい、間違いありません。情報によれば、ここの当主は既に亡くなっていると」


「誰に殺されたか……は、分かっていないんだな?」


 小さな丸眼鏡をかけたその男は、銀白色の髪の毛に黄土色の双眸をしており、その口の端は不気味につり上がっていた。

 天候は曇り……まるで彼らを月明かりから隠すかの如く、その雲は分厚く鉛色で、星一つも見受けられなかった。しかし、その月だけは不思議と雲間から出ていて、煌々と月明かりを夜の地上に降り注いでいた。

 だが、そんなことはこの集団には関係なかった。目的の物さえ見つけられればそれでよいのだ。そう、彼らを満たすものは、探究心からくる満足感、達成感なのだ。


「くく……、にしてもこの曇り空はまさにもってこいの天候だな」


「そうですね、まるでそうであることを知らしめているかのようです」


「さすがは七つの天候の内の一つ――『曇』を授かっているだけのことはありますね」


 そう会話する集団達。

 その昔、皇族がまだ生存していた時代に、第一次神人戦争という神族と人族との戦争が勃発した。多大な被害をもたらしたその忌まわしき黒歴史の終幕は、一人の英雄――神崎王都の手によってもたらされ、神族と人族は和解で手を打った。その際、皇族は神族から天候の力を授かったのだ。また、この皇族は人族の中で一番の力を持ち、その力は神族に匹敵するほどだと、神族と人族の両者から警戒されていた。なので、絶対的な権力を誇り、誰も彼ら皇族七家(ヘプタエンペラー)には逆らうことが出来なかった。その上、彼らが天候の力を授かったとあらば、その力はさらに絶大なものとなる。

 だが、そんな皇族七家(ヘプタエンペラー)の内の六つは、真夜中の内にあっという間に滅び去ってしまった。最強と恐れられたあの皇族が……だ。所詮はその程度だったのか、はたまた寝首をかかれたのか、それすらも分からない。全ては過去に葬られし真相。それを知りうる者は、当事者しかいない。

 皇族……。この皇族は序列によってその権利の上限が定められている。

 順に、序列第一位『皇晴院(こうせいいん)』、序列第二位『加賀皇雨(かがこうう)』、序列第三位『皇雪覇(こうせつは)』、序列第四位『緑皇嵐(りょくこうらん)』、序列第五位『皇雷轟(こうらいごう)』、序列第六位『霧堂皇(むどうこう)』、序列第七位『雅曇皇圓(がどんこうえん)』だ。

 ちなみにその残った一家だが、当然というのであれば皇晴院と誰もが答えるだろう。だが、実際は予想に反するものだった。残ったのは、あろうことか権限の一番低い雅曇皇圓だったのだ。


「まぁ、序列というのも然程意味は成していないからな。実際に必要なのは力だ」


「ではやはり、七代目後継者が一番強かったのですか?」


 研究員の一人の女性が、丸いレンズのメガネにチェーンをかけた銀白色の髪の毛をした男性にそう質問する。すると、その男は含み笑いして言った。


「いいや、そうではない。まぁ、そうだったらよかったのだろうがな……。実際一番強かったのは、やはり序列通り一位である皇晴院一家の二代目後継者だったそうだ。まぁ、生き残れた理由は別にあると見て間違いないだろうな。噂によれば、七代目後継者である男――『雅曇皇圓(がどんこうえん) 景楼(かげろう)』は、ある人物と契約を交わしていたらしいしな」


「契約……ということは、冥霊族ですか?」


 契約という言葉を耳にして別の研究員がそう口にする。何故契約という言葉から冥霊族という言葉が出てきたのか。それには理由がある。この世界には契約にも数種類があり、その中の一つに契約召喚という物が存在する。だが、一般的に知られる中には、この契約召喚では冥霊族としか契約出来ないということになっている。では、実際はどうなのか?

 実際には、この契約召喚で契約出来ない種族はほぼないとされている。ただし、条件次第なので条件によっては契約出来ない場合もある。無論それは、冥霊族にしても同様だ。

 ちなみに、契約召喚にて冥霊族以外と契約を成功させている人物が少なくとも有名どころで一人存在している。そう――小七カ国の王の一人である『マーリス・リリルロラストス』である。現在他の小七カ国の王の内、彼女も含めて六人の王が行方不明になっているが、その消息は未だ不明のままである。情報によると、彼らは一人の小さき女の子と、一人の巫女によって連れ去られたと言われている。


「そうだな。ただし、ただの冥霊族じゃあない」


「というと?」


「……くく、冥霊族は元々冥獣族と霊魂族を合併させて出来た種族だ。そして、契約召喚で一番多いのは霊魂族よりも冥獣族であると確認されている。おまけに霊魂族は、どちらかといえば大人しい部類で、一部では愛玩としても知られているくらいだからな。幽霊なんかもそうだ。だが、冥獣は違う。その姿形はほぼ異形とされ、怪物として知られている。まぁ、嘗て契約召喚でこっちに来ていたファントムやフェニックスがそうだな。まぁ、今は亡き物だが……」


「確か、あのエレゴグルドボト帝国の帝王でしたよね?」


「ああ、あのクソジジイだ。まぁ、今頃は冥霊界(あっち)でもがき苦しんでる頃だろうよ。まぁ、本来のジジイはいつの間にか死んで、訳の分からない状態にあるだろうがな……くく」


 研究員の言葉に、何かを思い出したかのようにくつくつと笑い出すその男性は、さらに奥へ奥へと足を進めていった。

 暗くて深い森の最奥には何が待っているのか……。後をついていくだけの他の研究員達は、ただ皇族の家であるということしか知らされていない。ただの忘れ去られた種族の七つの家の内の一つの豪邸だと考えればそれでいいのかもしれないが、そう都合良くは考えられないだろう。一応同じ人族であることには変わりない。これが神族であったならそんなに思い詰めることもなかったと思う。


「……さぁ、着いたぞ。ここが雅曇皇圓邸だ」


 男が立ち止まり、後ろを着いて来ていた他の面々もその脚を止める。目の前には、ぼやぁっと漆黒のシルエットが(たたず)み、周囲には(もや)がかかっていた。そして周囲を見渡すと、この豪邸を取り囲むように深い森が生い茂っていた。しかし、それはある意味囲んでいるというよりも、避けているようにも感じられた。そのあまりにも強い力を恐れて森自体が避けているような……そんな感じだ。


「ゴクッ……ここが雅曇皇圓邸。ここに、皇族の秘密が隠されているんですね?」


「何だか、緊張してきました」


「うぅ……少し薄ら寒くありませんか? 早く終わらせて研究所に帰りましょう」


 研究員の女性達が各々の思いを口にし、それから夜風になびく髪の毛をかきあげながら玄関ドアへと向かう。先頭に立っていた男性は、眼鏡のブリッジを指で上に押し上げニヤッと笑みを浮かべると、ドアノブに手をかけた。


「扉は閉まっているのではないですか?」


「いいや、開いている」


「どうしてそんなこと――」


ガチャ。


 女性の疑問が言い終わる前に扉が開いた。閉まっているという疑惑は解消されたが、逆にどうして開いているのかが余計に気になる。だが、男性は答えるつもりはないらしく、さっさと中に入っていってしまった。眉根にしわを寄せて顔をしかめる女性に、他の研究員が急ごうと目で合図を送り急がせた。

 中に入ると、内装は随分と年月が経った今でもしっかりしていて、少しホコリが被っていたり、蜘蛛の巣だらけになっている程度だった。後は、数枚ガラスが割れて、そこから夜風が吹き込んできたり、傷んでしまった木製のドアの立て付けが悪くなっていたり、閉まりにくくなった部屋の扉がギィギィと古めかしい音を立てているくらいだった。

 床に敷かれた赤い絨毯もすっかり黒ずんで、本来の色がどんなものだったのかが分からない状態である。


「随分……こほっ、ホコリっぽいですね」


「くく……まさしく年月を感じさせる場所ではないか。それに、こういう豪邸――いや、屋敷は、最早お化け屋敷と呼ぶに相応しいだろう?」


「え、お、お化け屋敷……ですか?」


 少し動揺して挙動不審になり始める女性研究員。


「くく、なぁに案ずるな。ここにいるのは、恐らく景楼と契約を交わした冥獣族共だろうからな……」


 天井を見上げながらそう口にする男に、一人の研究員が口を開いた。


「まさか、この豪邸が今もなお残っているのは、契約を交わした冥霊族が残っているからということですか?」


「恐らくな……。さしずめ、豪邸を壊させるなとか命令していたのではないか? もしくは、何か壊されたくないものがあったか……だな」


 そう言って再び歩き始める男。

 白衣を身に纏う白き影達は、とある広間へとやってきていた。

 そこには鏡や棺桶、石像が置いてあった。特にその石像がとてつもなく威厳たっぷりで、今にも動き出しそうなくらい躍動感に溢れていたのである。


「何だか、今にも襲いかかってきそうですね」


「ああそうだな。一気に……ぱっくり! ――食われてしまうかもな」


「んひゃあっ!? ち、ちょっと驚かさないでくださいよ、レイヴォル博士ぇ~!」


「くく……すまんすまん、思わずからかいたくなってしまった」


 ぷんぷん頬を膨らませて文句を垂れる研究員に、男――レイヴォルは苦笑しながらそう言った。


「それよりも準備を始めろ。この辺りが一番怪しいからな。もしかすると、まだ痕跡が残っているやもしれん。冥霊族と本当に契約召喚を交わしていたというのであれば、霊力反応があるはずだ」


 レイヴォルの指示により、さっそく準備が進められた。他の研究員達が急いで器具を設置していき、霊力探知機的な物が準備される。


「レーダー、準備完了しました」


「ご苦労……くく、さぁ……闇に身を潜めた肉体を失いし異形よ、今こそその姿……この私の眼前に曝け出せッ!!」


 そう言ってレーダーのスイッチを入れるレイヴォル。

 と、その時だった。突如ゴロゴロと大音量で轟音が聞こえた。


「は、博士……どうやら外は激しい豪雨みたいです。これも何か特別な力が作用しているんでしょうか?」


「いや、そんなはずはない。第一、それならばこの豪雨は雨の力を授かった加賀皇雨のものということになる。あそこの八代目後継者である『加賀皇雨(かがこうう) 瑞姫(みずき)』は既に死んでいると情報がある。ならば、この力は別の物だ……。まさか、神族か?」


 その可能性は低いと思っていたレイヴォルは、顎に手をやり唸った。だが、これは神族のものでもなかった。では一体何が原因なのか? そもそもこの豪雨に伴う轟雷には明確な理由があった。それは宇宙で起こっていた。

 惑星ウロボロス……人族が住むこの星は、本来は人間などではなく、神族の中でも特に邪悪な存在――邪神とも呼べる忌むべき存在達、魔族を収容する場所が魔界だけでは足りなくなってきたために利用する予定(作った当人である大神はそんなつもりなど毛頭なかった)だったのだが、大神が誤って生命の種を蒔いてしまったために、今の様な状態になった。そして、そのウロボロスの周囲には七つの衛星があった。通称――ヘプタゴンと呼ばれるこれは、磁気を纏い最近では電気を帯びるようになったという。そして、それが限界を迎えた時、とてつもない大嵐を巻き起こすらしいのだ。無論、それを防がなければならないのも一つなのだが、一番の問題は、発生して溜めに溜められた電気エネルギーである。それが衛星から放射される。それは即ち――巨大落雷を意味するのだ。

 そして、それがもう間もなく起きようとしていた。しかも、落下地点は……よりにもよってこの豪邸だった。だが、そんなこと露知らずのレイヴォル達一行は、少し外の様子に怪訝しながらも作業を続けた。


「博士……この石像から強い霊力反応が!」


「くく、そうか」


 研究者の言葉に不敵な笑みを浮かべたレイヴォルは、白衣のポケットに手を突っ込みツカツカと歩いていく。そして、その石像に近寄ると、その石像の足元――大きな壺の様な物の中を覗き込んだ。まるで招かれるような、吸い寄せられる様にしながら入室した研究者達……。そんな彼らがこれからどんな目に遭うとも知らずに……。


「おぉ、素晴らしい……」


「これは……石像ではなく、ゴーレムですか?」


「そうだ。やはり雅曇皇圓景楼は、冥霊族と契約を交わしていたらしい。まぁ、これではっきりしたな。問題は、こいつを起こす方法だが……」


「え?」


 レイヴォルの口にした台詞に思わず耳を疑う研究員の女性。


「どうした? まさか、怖いのか?」


「い、いえ……そういうわけでは……。ただ、相手はゴーレムですよ? 下手したら握り潰されてしまう可能性が」


「くく……案ずるな。私はそれほど愚かではない。まぁ、多少の犠牲が出るやもしれんが、それはやむを得んだろう。それより、例のブツは?」


「あ、アレですか? ですが……」


 あまり、アレと呼ばれる代物を出す気が起きない女性研究員は、渋って顔を俯かせる。だが、その出し惜しみするような姿に苛立ちを覚えたレイヴォルは、舌打ちしてその女性研究員の荷物に手をかけた。


「あっ、ちょ――や、やめてください博士っ! その中には見られたくない物が――」


「ほぅ、何だ? この私にナイショで、何かイケナイ物を作っていたのか?」


「そ、そういうわけでは……ありませんが」


 ニタ~ッと、いやらしい笑みを浮かべるレイヴォルに思わず後ずさる女性研究員だが、レイヴォルは然程それを気にすることもなく、例のブツを取り出した。


「まぁ、お前が何を作り何を私に隠そうとしていたのかは……今は保留にしておいてやろう。さて、こいつを使う時がついに来たな……」


「博士、それは何なんです?」


 別の研究員が、首を傾げてレイヴォルに尋ねる。


「これか? くく……お前達も覚えているだろう? レプリカ=鈴華のことを……」


「あの鳳凰一族の?」


「そうだ」


「ですが、それとこの発明品に一体何の関わりが――」


 と、二つの関連性にイマイチピンとこない女性の疑問が口に出されるのを遮るようにレイヴォルが口を開く。


「その昔――そう、冥霊族大戦が繰り広げられていた時代だ。その時、やつらを止めるために一人の人間――巫女族の女が立ち上がった。それが、巫女族の初代――鳳凰輪廻だ。やつは絶大な力を持つとされている、七体の最恐であり最狂の魔豪鬼神を呼びつけ、彼らに協力を要請した。だが、やつらは聞く耳を持たず、相手がか弱き女性であり小柄な人間であろうと、容赦なくその肉体を蹂躙した。しかし、それがやつらの最期だった。輪廻はあらかじめやつらがそういうやつらだと分かった上で協力を仰いだというのに、やつらは最後まで改心することはなかった。輪廻はその七体の力の源を胎内へと封じ込め、そこで自らの持つ強大な霊力を結晶化させた。それにより、魔豪鬼神の持つ七つの力は、胎内から出て来た時に七つの結晶――七力として姿を現した。これにより、輪廻の子孫には七力の力が現れるようになったというわけだ。……ここまでで関連性があるのはなんだ?」


「鳳凰輪廻は巫女族で、その巫女族の人間が霊力を用いて冥霊族に立ち向かおうと――はっ!」


「そうだ。巫女族はゴッド・レジスタンスに襲撃を受けた際、名前を変えた……鳳凰一族という名にな。そして、その鳳凰一族は今や壊滅状態……だからこそ私は、そうなる前に手を打った……」


「まさか!?」


「そうだ、私がこうなることを予想してあらかじめ用意しておいたのが、レプリカ=鈴華だ。おかげさまでやつの霊力サンプルも手に入った。くく……しかし驚いたな。やつめ、約半分も霊力を拝借したというのに、それでもあれほどの力を持っていたとはな……さすがはオリジナルが七力全ての力を持っていただけはある。今となっては、あの存在を手元から失ってしまったのは惜しいところではあるな」


 レイヴォルの言葉に、他の研究員達は息を呑んだ。

 もはや、この男はレプリカ=鈴華を人として扱っていないのだ。ただの存在――そう、物として考えているのだ。まぁ、それも無理からぬことかもしれない。レプリカ=鈴華は、その名の通り人工的に作られた存在であり、その製作方法は難しいようで実は単純明快なのだ。つまり、簡単に作れていくらでも作れる量産的な存在。そう、オリジナルに代わりはいないが、レプリカはいくらでも代わりがいるのだ。

 これが事実。そんなレプリカ=鈴華にも一応は心があるというのに、それをこの男――レイヴォルは何とも思っていないのだ。それに対して、彼女達はレプリカ=鈴華に同情したのだ。

というわけで、今回はクロノスも関わりながらの冥霊族がメインになります。といっても、一部の冥霊族しか関わりませんが。まだ二代目十二属性戦士は出てきません。二部構成でお送りします。

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