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俺の幼馴染み♂が怪しい  作者: シャチ
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修学旅行1@ジ・エンド(まだ続きます)

俺達2年生を乗せた旅客機はゆっくりと動きだし、見事に離陸を決めた。それだけのことにはしゃげるのも修学旅行の不思議のひとつだ。周りでは「おお!」と言って拍手する者もいた。かくゆう隣の変態も先ほどからバカ騒ぎだ。


「おーちゃん!見ろよ!飛んでる!俺たちは今、飛んでいる!!」


こんなのが学年テスト上位の常連なのだから信じられない。


「なあ、トランプしようぜ!前の席の川上達と一緒にさ!」


「え?眠いから俺はいい」


「おーにゃん、おねむなんでちゅか?」


「この野郎!!とっととトランプを出しやがれ!」


朝早起きしたので飛行機で寝ようと思っていたのに、どうやら無理そうだった。


だが、このあと太郎は5回連続で大貧民になり不機嫌になったので、俺は安心して窓側に寄りかかり眠ることにした。


「おーちゃん」


太郎が肩をつついてきた。


「ん、なに?」


「沖縄、海きれいだろうな」


「うん」


俺は再びまぶたを閉じた。


「なあ、おーちゃん」


「なに?」


「外、雲がいっぱい」


「うん」


俺はもう一度、目を閉じた。


「なあ、おーちゃん」


なんなんだ?寝かせてくれよ!


「ん?」


「スチュワーデスがいる」


もういい。無視しよう。


「なあ、おーちゃん」

「なあなあ、おーちゃん」

「おーにゃん?」


きしょ。


「にゃんにゃん?寝ちゃったのか?」


にゃんにゃんだと⁉もはや、原形をとどめてねえじゃねーか!ぶっ殺したい。


「俺のこと無視してるんだな。そんなことすると、くすぐるぞ。いいのか?コチョコチョ…」


「ふざけんじゃねえ!!!触るな!!!」


「大滝ー。静かにしろー」


後ろの方から担任山崎の声が聞こえた。


くそっ。まだ沖縄に着く前だってのに、俺の精神的ライフは半分以下だ。



空港を出てからバスに乗ったときも太郎はあの調子で、かの有名な水族館に着いたころには俺には魚をめでる気力も残っていなかった。「どうしたんだ?車酔い?」と、自分が原因だとは思ってもいない太郎が頭にきてしょうがない。

俺は巨大な水槽の前のベンチで休憩することにした。


「おーちゃん、どしたんたんだよ?元気ねーなー」


お前のせいでな。


「んー…よし!!」


自分の膝をたたいて太郎が立ち上がった。


「いいもん持ってきてやるから、ちょっと待ってろ!」


そう言って足早にどこかに行ってしまった。

ちなみにリア充川上は彼女と水族館デート中で、修学旅行だってのに俺はボッチ状態だ。

まあ、いいや。ゆっくりジンベイザメを見てよう。そう思ったときドタドタと水族館らしからぬ足音が聞こえた。


「おーちゃん!!」


「?」


「ほら、これ!」


太郎は右手に持っているものを俺に見せた。


「スター!これ取ると全身が七色に輝いて無敵になれるぜ!」


それはスーパーマ○オだけだよ!!だいたいお前が手に持ってんのヒトデじゃん!!どっから持ってきたんだ!可哀想だろ!


「いや、太郎、これ…」


「おーい!君!!」


水族館の係員が慌てた様子で駆けつけてきた。まあ、そりゃそうだろう。ヒトデ誘拐犯はあえなくご用となった。




「おーちゃん、なに見てるんだ?」


そのあと俺は太郎と水族館をまわることにした。


「エビ」


「おーちゃんはエビ好きだよなー」


「エビは見るのも食べるのも好きだな」


「こわっ」


「なんでだよ?」


「だって俺は猫見るの好きだけど、食べねーよ?」


そりゃ猫だからだろ!


「…なあ、おーちゃん」


「ん?」


「ごめんな。変なちょっかいばっかり出して。俺、修学旅行楽しみ過ぎてさ。つい…」


「え?…な、なんだよ」


急に謝られたらビビるじゃねえか。それに正直ちょっと気味悪いぞ。


「別にいいって」


いや、よくないが。せっかくの修学旅行だ。こいつに悩まされるなんて馬鹿らしい。


「もうやめるから。機嫌なおしてくれよ?」


「別に不機嫌になってねーって」


「ウソつけ」






しかし、太郎は有言無実行も甚だしく、その後のバス車内や観光名所でもちょっかいを出しまくり、夜、俺はホテルのベッドの上でクタクタになっていた。


「お!!するのか!それでこそ男だ!」


5人部屋の奥の方でクラスメイトが騒いでいる。


「どしたんだ?」


「大滝ー!こいつ今から電話で梅原さんに告るってよー!!」


「へえー」


修学旅行の夜はこれからだってのに、疲労困憊でろくなリアクションもとれやしない。


「阿部ちゃんファイトー!」


ムカつくことに太郎は飛行機のときと変わらないテンションを保ち続けていた。






「おーちゃん」


耳元で忌わしき声が聞こえ、俺は目を覚ました。そこには暗がりの中、四つん這いで俺の上を覆う太郎がいた。

これはヤバい!と俺の全神経が叫んでいる。時計は午前4時をさしていた。


「え、あれ、皆は?」


寝起きの俺の頭の働かなさにはガッカリだ。もっと他に言うことがあるだろう。


「他の奴らは隣の部屋行ってゲームしてる」


そっか、俺もゲームしたかったなと思ってしまったが、その考えを頭から振り払って、俺は太郎の腹に膝蹴りを入れた。


「ぐえっ!なにするんだよ!」


「そりゃ、こっちの台詞だよ!なんのつもりだ!」


「俺、おーちゃんに言いたいことがあって」


「はあ?」


「今じゃなきゃ駄目だと思ったんだ」


「なんなんだよ、いったい」


俺は上体を起こして、足元に座っている太郎を見た。その時俺は自分の左耳に違和感を感じた。手を当ててみるとなぜか湿っている。


「俺、おーちゃんが好きだ」


「いや、そんなことよりさ」


実際には『そんなこと』ではなかった。しかし言ってしまったものはしょうがない。俺は続けた。


「お前、俺の耳…」


「ああ…ごめん」


太郎は照れたように下を向いた。

おいおい、まさか。


「ついな。へへ、ちょっと舐めた」


俺は常識のある人間だ。だから、こんな早朝に大声をあげれば周りの人に迷惑になり、先生に怒られるだろうと思ったし、ここで傷害事件を起こせば、東京に強制送還されることも分かった。なんたって俺は常識のある人間だからだ。


常識人の俺はゆっくりとベッドから出ると、洗面所に向かい耳を丹念に洗った。何度も洗った。そして太郎に今後半径1メートル以内に近付くなと宣告した。






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