クラスマッチ@奴はとことん止まらない
「おーちゃん、いけー！やっちまえー！」
バカみたいに騒いでる太郎を尻目に俺はコートに向かってボールを投げた。
太郎の言葉を借りるのは嫌だが、ドッジボールは俺の得意科目だ。しかし、トラウマがある。中学の時、勢いあまって女子の顔面に当ててしまい、女子軍団にこっぴどく怒られた。だが、今回は男女別チーム対抗戦なのでその心配はない。始めから外野にまわり、遠慮なく思いっきり投げつけたボールは相手チームの1人に当たり、コートから退場させた。
「よっしゃー！おーちゃんやるー！」
このあとのリレーとバスケに出る太郎は、同じ種目に出る奴らと観戦している。2年生になってから、学校でも謎の言動をとるようになった太郎だが、人気は衰えない。女子からは『頭も良くて、スポーツも出来きて、イケメンなのに気取ってなくてカッコイイ♡』と言われている。
俺には一生、女の思考回路は理解できないと思った。
そうこうしているうちに、またボールが周ってきた。俺はコートの反対側にいる味方の外野に向かってボールを投げた。が、ボールはそいつの横をかすめ、あろうことか、座って観戦していたクラスの女子の頭にクリーンヒットしてしまった。
「あ！！」
終わりだ…。これから俺は女子に呪い殺される。運が良くても、黒板に悪口をびっしり書かれるに違いない…。
「ごめん！ごめんなさい！すいません！」
なんとか罰をまぬがれるため、慌ててボールを当ててしまった井上さんに駆けよった。
ピピッ！
コートを通り抜けたので審判が笛を吹いたが、構うものか！今は俺の生死がかかっている！
「すいません。…あの大丈夫ですか？」
井上さんは痛そうに頭をおさえている。周りのお友達が笑っているのが逆に怖い！
「…大丈夫。ちょっと痛いけど、気にしないで」
それは『お前の殺し方はもう決めたから気にするな』ということだろうか…。
「大滝ー。お前なにやってんだよー」
俎板の鯉になった俺は外野ポジションに戻った。
ドッジボールが終わったあと井上さんを見つけ、声をかけた。
「ほんと、すいませんした」
「平気だよ。心配してくれてありがと！」
なんと。
俺は生き延びることができそうだ。
「頭、大丈夫ですか？」
「「ブハッ」」
井上さんとお友達2人が笑いだした。
「あっ、ごめん！今のはそうゆう意味じゃなくて…」
「うん、大丈夫。なんか大滝くんて怖い人だと思ってたけど、そんなことないんだね」
「…ああ、そうすか？」
え、俺、そんな印象？健全な高校生だってのに…。今期最大のショック。
「おーちゃん！昼飯食おー！」
太郎に呼ばれて俺はその場をあとにした。
「大滝、お前、井上さんとフラグたったんじゃね？」
空になった弁当を片付けながら川上が言った。
「なわけないだろ」
ボールを当てただけでフラグが立つなら俺は美女にボールを投げまくるぞ。
「そうだ。おーちゃんにかぎってそんなことあり得ない」
「それもそうだな」
…こいつら。
「おーちゃん。女の子とイチャイチャするなんて許しませんからね！」
「してねーよ！」
「そうだぞ、大滝。お母さんを悲しませるな」
川上は落ち着いた奴なのだが、太郎を擁護するので困りものだ。
「なあ、おーちゃん。次俺、選抜リレーじゃん？だから『太郎、頑張ってニャン』って言って」
「…お前キモすぎ。くたばったほうがいい」
「うわ、サイテーだな。親友に向かってそんなこと。もう俺はやる気をなくしたね」
最低なのはお前だよ！
異常なまでのウザさだ！！
「大滝、恥を捨てろ！クラスの勝敗がかかってるんだぞ」
この黒ぶちメガネ野郎。ならてめーが言いやがれ！俺はクラスが最下位になろうとも言いたくないね。
その後、何故か不機嫌な太郎をよそに選抜リレーがとり行われた。
なんだよ、あいつ。結局ぶっちぎりじゃねーか。陸上部を差し置いてアンカーをやった太郎を見て女子達が嬉しそうに騒いでいた。
「相変わらずモテモテだな、太郎は。1年の間でも『太郎先輩』って呼ばれてて有名らしいよ」
隣で一緒にリレーを見ていた川上が言った。
「らしいな。俺はあーゆう奴らに太郎の裸エプロン姿を見せてやりたいね」
「え？裸エプロン？お前らいったい、どうゆう関係だ？」
「違う！！俺は被害者だ！！」
あのトラウマは消えていない。朝、お袋が起こしにきたりするとビビることがある。
しばらくすると俺に忌まわしきトラウマを植え付けた張本人が戻ってきた。
「おーちゃん！1位になったぜ！俺の妄想力に感謝しろよ！」
「おつかれ」
「妄想って？」
川上！聞くんじゃない！！
「ちょっと設定が細かいから、話すと長くなるけどいい？」
「川上、行くぞ」
俺は川上の肩を叩いて、その場をあとにした。
最後の全員リレーが終わり、クラスマッチは幕を閉じた。そうなれば、もちろん打ち上げだ。打ち上げ企画者が決めた店に部活後集まることになった。
「もんじゃ食いまくろうな！」
「うん」
今、俺は太郎とその店に向かっている。
「なあ、おーちゃん。俺の活躍もあり、6組は学年3位になりました。その感想は？」
「別に」
「モノマネ下手くそー」
「今のはモノマネじゃねーよ！3位ってのはまあまあの成績なんじゃねーの？」
「そうかもしんねーけど。頑張った俺に一言！」
「おつかれー」
俺はぶっきらぼうに言ってやった。
「ツンデレだな」
はあ？ツンデレってのは突然態度が豹変する奴のことだろ！
「俺はあんな二重人格者じゃねーよ！だいたい俺がいつお前にデレたんだよ⁉ありもしねーこと言うじゃねえ！殺すぞ！」
…なに、こいつ。ニヤニヤしてやがる。
「ツンツンおーにゃん」
クラスマッチの後、部活もあったので、俺にはこの変態を怒鳴りつける気力も、全力疾走で逃げ出す体力も残っていなかった。
なので俺はこいつとは暫く距離をおこう、と心の中で決めた。
