バレンタインデー@天然が解き放つ嫌味の破壊力
俺の名前は大滝次郎。
長男、ひとりっ子に“じろう”とは…親のネーミングセンスには感服せざるを得ない。
まあ、名前なんざどうだっていい。両親以外は誰も俺のことを次郎とは呼ばないんだからな。
「おーちゃん!」
廊下で俺を呼び止めたのは、幼馴染みの渡辺太郎。名前こそ日本人だが、アメリカ人とのハーフなので茶髪にライトブラウンの瞳、色白で鼻が高く名前に似つかわしくない容姿をしている。
え?太郎に次郎だって?
分かってるさ。でもつっこまないでくれ。
今まで散々からかわれたんだから。
太郎の親父さんは日本のジョンの意味でつけたらしいけど…。
で、その日本のジョンは学校の鞄を肩にかけ、手には大きなピンクの紙袋をさげて近づいてきた。
「おーちゃん。チョコ貰った?」
そう今日はバレンタインデーなのである。
この野郎。
これ見よがしにチョコがつまった紙袋をちらつかせておいて、それを聞くか?
ああ、貰ったよ。5個もな。
クラスの男子には配っておこうっていう優しい心の持ち主の女子から1つ。たまに話す女子2人から友チョコ(強調された)を2つ。所属してるハンドボール部のマネジャー2人から1つずつ。どうだすごいだろう?最高記録を塗りかえたぜ!高校生万歳!
なんて思ってた自分がバカらしい。
「まあ」
俺は無愛想に答えた。
「えっ?貰ったの!?」
なんだその失礼なリアクションは。
この世にこいつにチョコを渡す女子がいるなんて!みたいな反応すんじゃねえ。
お前も知ってるだろうけど中学の時には告白されたことだってあるんだからな!
…まあ、その、どういった女子だったかは聞かないでほしい。
とにかく、太郎は馬鹿みたいにモテる。それは高校生になってますます助長されたってのは一目瞭然だった。だいたいその可愛い紙袋だって女子から貰ったものなんだろう。
『太郎くん、チョコいっぱいで大変だね。これあげる♡』
みたいな感じか?ちっ。
「誰から貰ったの?」
俺の無言の抵抗もよそに太郎は聞いた。
「別に誰だっていいだろ」
「ふーん。よかったな!」
太郎が俺の肩を叩いた。
「ムカつく奴だな!なんで上から目線なんだよ!」
お返しに俺も太郎の肩を叩いた。
「俺はてっきり、おーちゃんは義理チョコは貰わない主義なのかと思ってた」
なんだそれ?嫌味か?嫌味なのか?
「俺もおーちゃんに作ればよかったなー」
太郎はスポーツ万能、学業優秀だけに飽きたらず料理も得意なのだ。特にスイーツを作るのが好きらしい。女子か!とツッコミたくなるが、それで今後二度とうまいものを食わせてくれなくなったら困るので黙っている。
「いや、そりゃおかしいだろ。新手のイジメか?」
「えー?友チョコって女子同士で配ってたりしてるからいいじゃんね?」
「俺たちは女子同士じゃねーだろ!」
そんなことを言って俺たちは下駄箱に向かった。
ドサッ。
靴を履き替えるために太郎が床に置いた紙袋がいい重量感のある音を出した。
「すげーな、それ。いくつ貰ったんだ?」
少し気になったので聞いてみた。
「んー?わかんね」
くたばれ。
「この中のいくつかにはさあ、メアド書いた紙が入ってたりしてさ、いつもチョコがついて解読困難だよなー」
…はあ?それはイケメン、モテ男あるあるなのか?だとしたらお前は共感を得ようとしてる相手を間違ってる!
「へえー、そりゃ大変だなー」
俺は感情を込めずに言い放った。
「あっ、ごめん!今の俺、嫌味っぽかった?そういうつもりじゃなかったんだ!」
分かってるさ。お前に天然が入ってるってことは。
「あのさ…」
ばつが悪そうに太郎がきりだした。
「今日も俺ん家来るだろ?」
「え?なんで?」
「?おーちゃんのクラスでも英語のプリントの宿題出なかった?」
「ああ!すっかり忘れてたよ」
「おーちゃんはすっかり屋さんだな!」
つっこむのが面倒なので放置することにする。
で、だ。なんで宿題があると太郎の家に行くかというと、まあ、ようするに俺が頭悪いからだ。1人じゃとてもじゃないけど勉強できないので、部活が無い日は太郎の家に行き、宿題のわからないところを教えてもらっている。(うつしている、とも言う)
俺と太郎は自転車に乗り、家に向かった。
俺の家も太郎の家も高校の近くにある。俺はわざわざ家から遠い高校に通う奴の気がしれない。近くの高校にすれば、朝ゆっくりできるのに。まあ、そんなのバカの考えなんだろうけど、俺が無事に朝のゆっくりライフを送れているのも、高校受験のときに助力してくれた太郎のおかげだ。そして、挙げ句の果てには、自ら率先して宿題をうつさせてくれている。
いい友達に恵まれたな。
自転車を漕ぎながら、俺らしくもないことを考えていた。
「太郎、なんか、いつも悪いな」
「あっ!!子猫!子猫がいた!!」
聞けよ!!
ザザーッ
太郎は急ブレーキをかけた。
「おーちゃん。見える?あそこに子猫がいる!」
太郎の指さす先に家の塀を渡る茶色い子猫がいた。
「見えるよ。俺にも目があるからな」
「ニャンちゃん〜。どうちたんでちゅか?」
お前がどうしたんだ。
子猫も太郎の言葉にビックリしたのか、ピャッと塀をおりて路地に消えていった。
「あー、やっぱ猫ってかわいいよなー。猫は正義だよ!」
そう言うと太郎はまた自転車をこぎ出した。
「で、さっきのなに?」
太郎の家の庭先に自転車を停めたときだった。太郎はニヤニヤしながら俺に聞いた。
「え?」
「さっきの!『いつも、悪いな』って」
げえー聞いてたのかよ!それでもって子猫がいたからスルーか!
つーか掘り返すなよ。恥ずかしいだろ。
「なんか、長年苦労かけた妻に言うような台詞だよな」
「ちげーよ!いつも勉強みてもらってっから…」
「え…?なに急に改まって?え?もしかしておーちゃん…死ぬのか?」
なんでそうなる。
「勝手に人を殺すな。俺はただ、自分の時間割いてまで人に勉強教える奴なんてそういないだろうなって思っただけだよ」
「まあ、そうだろうけど…」
太郎は自転車の鍵を指でクルクル回し、こちらに笑顔を向けながら続けた。
「俺が勉強できるのもおーちゃんのため!って言っても過言じゃないからなあ!」
ん?
あれ?
って思うだろ?
俺もそう思うよ。
ずっと勉強みてもらってながら言えることじゃないけど、こいつ頭イカれてるのかな?って感じることがたまにある。もちろん本人に聞くことなんか出来ないし、俺もあまり考えないようにしてる。
考えたくねえんだ。
でも、やっぱり俺の幼馴染みは怪しい!
怪しいんだよ!!