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僕らのMMO奮闘記  作者: ぱうぇん
第一章
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第05話 -俺に任せろは死亡フラグ-

 僕達は今、約20体ほどの水系モンスターに囲まれています。

 わーい、僕達大人気。


「かえりたい……」


 『珊瑚礁の洞窟』の5F。前回に俺達が帰還した階層である。

 複数の広間と、そこから枝のように分かれた通路で構成された階層で、広間では大量のMobに襲われる、大変危険な場所だ。

 前に来た時は、運良く大量のMobに囲まれる事は無かったが、やはり早々運の良い事など続かないもので、俺達は広間に足を踏み入れた瞬間に囲まれてしまった。

 一度、通路に撤退しようと思ったが、後ろにもMobが3体湧いた為、絶賛挟撃され中だ。


「乳繰りさん! ヤバイっすよ! ヤバイっすよ!」


 んなこたぁ言われなくても分かっている。

 すでにスモークチキンがMob7体の集中攻撃を受けて倒れてしまっている。起こそうにも、皆が皆手いっぱいの状態だった。

 しかし、このままではジリ貧だ。

 前衛が一人になってしまっている為、俺が大半のMobを引きつけているが、どうしてもヘイト管理しきれずに後衛に何体か流れてしまっている。流れてしまったMobと後方に沸いたMobは、メバルとアルファルドがなんとか捌いている状態だ。

 早急にスモークチキンを起こして体勢を立て直さなければならない。

 手が無い訳ではない。

 賭けにはなるが、俺がソードマスタースキルの『瞬身乱舞』を使って全てのMobのターゲットを自分に向ければ、スモークチキンを起こす時間くらい稼げるだろう。


 『瞬身乱舞』は短時間に広範囲を攻撃できるスキルで、敵のみを識別して攻撃出来る利点がある。その上、スキル発動時間も短い為、後衛に流れてしまったMobを引き剝がすにはもってこいのスキルであった。 これだけを見ればとても便利そうなスキルなのだが、SPとMPの消費が半端ないくらい高い上に、スキル硬直も長く設定されている。


 今回のような状況で使用した場合、ほぼ乱戦の様を呈している為、全てのターゲットをこちらに向ける事は可能だが、その後どうするかといった問題がある。

 スタミナが無くなれば動きに制限がかかるが、この点はスタミナ増強剤などのアイテムを使う事で回避できるだろう。

 スキル硬直も、スキルキャンセルで硬直時間の短いスキルに繋げれば、失敗さえしなければなんとかなる。

 ならば、なにが問題なのか。

 そう、一番の問題は、約20体程のMobから俺が『逃げ切れる』かどうかだ!

 乱戦になっている状態から、一斉に俺の所にMobが集まってくるのである。

 今まで大半のMobを引き受けていてもなんとかなっていたのは、回避の為の逃げ場所が充分に確保出来ていたからだ。それが後方に沸いたMobと流れて行ったMobも戻ってくるとなれば、途端に動けるスペースは少なくなってしまう。

 正直、耐えきれる自信なんてない。

 しかし、もう考えている時間なんてなかった。


 メバルとアルファルドが必死に数体のMobを相手にしていたが、ヘイト管理が慣れていないのと、不得意な近接戦を強いられている為、ついに2体のMobが支援役のあかねの方に流れてしまっていた。

 ここであかねに倒れられたら全滅コース確定である。

 俺は、あかねが悲鳴を上げるかどうかの一瞬に、瞬身乱舞を行使した。

 スキル行使により、自動的に物凄い速度で、範囲内のMobを斬りつけていく。

 斬撃自体は、1体に対して1回だけの為ダメージは少ないが、全てのMobを斬りつけた頃には一斉にMobがこちらを向く。

 本当はメバルとアルファルドに説明してからやりたかったが、余裕も無かった為宣言もせずにスキルを使った。

 もし、俺をターゲットしたMobにメバルやアルファルドが攻撃してしまえば、再びターゲットが移ってしまうので台無しになってしまうところだったが、いきなりの光景に二人はポカーンとしていた。それが功を奏した。


 さてと、問題はこれからだ。

 一斉に集まってきたMobから逃げる為に、俺はスキルキャンセルの為に『バックステップ』をタイミング良く行使。ヒュンと一瞬で体が後方に移動する。俺は再度バックステップを行使し、前方のMob集団から離れすぎないよう注意しながら、さらにもう一度バックステップをして後方のMobに近づいた。

 そこで、俺のスタミナはレッドゾーンに突入する。

 あと一回、ステップ系のスキルを行使したらスタミナは無くなりバテてしまう。

 俺は後ろから向かってきていたMobに目もくれず、アイテム袋からスタミナ増強剤を取り出し飲みほした。と、同時に後方2体のMobから水弾攻撃を喰らい、さらに3体のMobから体当たりを受けた。

 酷い衝撃が体を駆け巡るが、続けて高級スペシャルポーションを惜しげも無く2本飲み干す事で続けて襲ってくるであろうMobの攻撃に備える。

 

 通常の回復アイテムは、使用すれば一度に規定値まで回復するわけではなく、1分かけてn/秒で回復していく。つまり、HPを600回復するポーションであれば、1秒に10ずつ回復していく計算になる。しかし、アイテム名にスペシャルなどが入っていれば、瞬時に規定量まで回復できる。その分、価格も通常品に比べて相当高い上に、NPC売りはされていない為、プレイヤー間の取引でしか満足に買う事は出来ない。


 高級スペシャルポーションは、今回の探索に於いて俺のとっておきだったが、ここでケチってしまえば元も子もない。


「メバル! スモークチキンを今の内に起こすんだ! こいつらは俺に任せろ!!」


 俺は、近くのMobの攻撃を必死に避けながら、仲間に向かってスモークチキンを起こすように指示を飛ばす。

 俺の指示を受けて状況についていけていなかった三人は、慌ててスモークチキンに近寄り、アイテムを使ってスモークチキンを起こす作業に入った。

 それを横目で見届けてから、目の前の半魚人に『三連斬り』を叩き込みなんとか倒した。続けて、『雷閃』でキャンセルしもう一体の半魚人も屠る。

 後方に居たMobは、メバルとアルファルドの攻撃ですでにHPが削られていて、一度ずつのスキル攻撃で落ちてくれた。

 Mobを2体倒した所で、Mob集団が俺に追い付いてきた為、後はヘイト管理しつつ逃げ回るのみだ。

 まだ、スモークチキンは起き上がっていないが、このまま時間を稼げればなんとかなるだろう。


 ホッとしたのも束の間。

 追いついてきたMob集団から一斉に水弾やら氷矢やらの攻撃が飛んでくる。

 俺は慌ててバタバタと逃げ回って攻撃の回避を試みるが、何発かの水弾をその身に受けてしまった。衝撃で吹っ飛ばされて、そのまま地面を転がり通路の壁に激突して止る。

 「カハッ!」と肺から空気が抜ける感覚を覚えたかと思うと、すぐに全身が痛みに襲われた。

 いたいいたいいたいいたい。

 え? これ死ぬんじゃね?

 そう思って、自分のHPバーを確認するがHPは半分ほど減った所で止まっていた。

 この痛みで死なないとか、まじ狂ってやがる!

 出てこい運営! ちょっと仕様おかしいんじゃないの! 別に死にたいわけじゃないけど!!

 と、理不尽な訴えを吐きだしながら立ち上がり、サイドステップやバックステップ、ダッシュを駆使しながら俺はMob集団を引き連れてメバル達から離れて行った。


 ん?

 離れたらダメじゃん!

 しかし、ステップ系で逃げた結果、すでに逃げ道は広間の方にしか無くMobの攻撃を回避していくには広間に突っ込むしかない。

 あ、俺、絶対絶命。

 メバルとアルファルドが何やら叫んでいるが、もう聞こえない。

 さて、どうなる?


[1]:イケメンな俺はMob殲滅のアイディアを思いつく

[2]:スモークチキンを起こしたメバル達が助けにきてくれる

[3]:現実は非常である。Mobに蹂躙されて死ぬ俺


 願望的には[2]を選びたい。[1]はそもそもイケメンじゃないので論外。まぁ、[3]だよなぁ。

 今も、Mobから色々と攻撃が飛んできていて、俺は回復ポーションを飲みながら減っていくHPを補い逃げ続けている。

 回避しながらなので、受けているダメージも少なく、通常のポーションでも回復が追いついているのは幸いだが、そろそろ防具の方がヤバイ。

 ヒビ割れが目立ち、あと数回攻撃を受ければ破損消滅してしまうだろう。

 防具が破壊されれば、生身で避け続けなければならない。攻撃を受ければ即死もあり得る。

 俺、どっかで死亡フラグ立てたかなぁ。

 あ、それっぽいのをちょっと前に立ててたな。

 このMob軍団を俺に任せろとか正気のさたじゃねーし。


 ダッシュで逃げていると、水弾と氷矢がカスった時に装備しているプレートアーマーと鉄のグリーブが崩れて消えた。盾と小手ももう限界だろう。兜は、通路で壁に激突した時に脱げてしまっていてすでに装備していない。

 後ろを振り返ってみれば、なんだかMobが増えている気がする。

 Mob集団の密度が上がってるから、気がするじゃなくて確実に増えているな、うん。

 スタミナ増強剤ももう残り少ないし、回復ポーションも後2個しかない。

 俺氏の命運ここで尽きる!

 その後、荘厳なる乳繰りの姿を見たものは誰もいなかった。

 というテロップが頭の隅を過ったが、正直嫌だな。こんな名前で某RPGみたいなゲームオーバーは。

 しかし、これはもう一人ではどうしようもないし、メバル達の助けが間に合う保証もないし、彼女らを危険に晒すくらいなら、いっそ潔く死んで死に戻り報告した方がいいかな。死ぬのは嫌だけどね!


 そうと決まれば話は早い。

 残り少ない回復ポーションを一気に飲み干し、俺は反転してMob集団と向き合う。

 その数は最初に比べて倍にも増えているだろうかってくらい多い。

 今も雨霰と敵の遠距離攻撃が降り注いでいるが、俺は盾で防いだり横に飛んで避ける。3発の水弾を防いだところで、ついに盾が破壊されついでに小手までもが破壊された。

 その光景を見て「なんでやねん!」と一人突っ込んでみたが、おそらく盾で防いだ場合のダメージ計算は、[盾と腕装備の防御力を合わせて減少する]って感じになっているのだろう。だから、盾に入るダメージと一緒に小手にもダメージが蓄積され、盾が破壊されると同時に小手も壊れてしまうという現象が起きたのだと仮定しておいた。

 くそ仕様だ! 運営に抗議だ!!

 悪態を吐きつつ、俺は迫りくる集団に向かって突進を開始した。

 俺の最大最強の攻撃をみせてやんぜ!

 剣を構え、スキル『明鏡止水』を使う。このスキルは、三分間の間「AgiとDexの増加」と「一部のスキルを使用可能にする」といった効果がある。

 明鏡止水使用後に使えるスキルこそ、現段階の俺が行使可能な最大の攻撃スキル『秘剣・雷華衝』である。

 スキル効果により強制雷属性となるこのスキル攻撃は、大きく踏み込むのと前方に巨大な稲妻と衝撃波を生み出すのが特徴だ。その威力もかなり高く、強制雷属性もこのダンジョンでは非常に有効だった。

 しかし、これを放てばキャンセルするだけのSPもMPも残らない為、莫大なスキル硬直を受け、討ち漏らしたMobに無防具状態、所謂『全裸』状態の俺は蹂躙されてしまうだろう。

 ま、どうせ死ぬなら派手に散るか!

 剣を大きく後ろに引き、スキルモーションに入る。

 あとは自動で攻撃を放ってくれる。

 俺はそれが終わるのを待って、死ぬだけだ。

 前方に強く踏み込み、振りかぶった剣で何も無い空間を斬れば、それで稲妻と衝撃波が発生する。

 ――はずだった。


 強く踏み込んだ瞬間、地面が陥没し奈落の底へと続く穴が口を空けた。

 しまった、落とし穴だ!!

 重力によって俺の体は当然のことながら、その落とし穴へと転落していく。

 慌てて剣を穴の壁面に突き刺そうとしても、スキル硬直のせいで体は動かない。

 ヒューッと間抜けな格好で落ちていく俺の上空で、バリバリズガンっと雷華衝を放った後の音が聞こえてきた。

 落ちていく途中、穴の上に目を向けてみれば、雷華衝の衝撃から逃れたMob達が穴に落ちていく俺を見つめていた。

 Mobはすでに空いた穴には落ちません。FTOでは常識です。

微妙に修正

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