第04話 -俺氏のチュートリアル(適当編)-
あー、あー、本日は晴天なり。
空を見上げれば、日本晴れという言葉が相応しいくらいの快晴である。
しかし、こんな素晴らしい青空も、あと三十分もすればどんよりとした雲に覆われ、次第に雨となっていくだろう。
今日の予報では少なくともそうなっている。
雨は嫌いだ。
ジメジメとした湿気が肌に纏わりつくから嫌いだ。
雨具を使用していても、身につけているものが濡れるから嫌いだ。
大雨ともなれば視界は悪いし、雨音も五月蠅くなるから嫌いだ。
だから、雨の多い六月は大嫌いだった。
今は十一月の半ば。雨自体そんなに多くはない時期だが、今日は久しぶりに雨の予報が出ている。もちろん予報の為、雨が雷雨になったり嵐になったりするが、基本的に晴れになる事はない。
あ、ちなみに全部ゲームの中の話っす。
FTOというVRMMOには天候が実装されており、この天候次第でプレイヤーやMobに様々な影響を与える。
プレイヤーであれば、雨の日には防水加工のされていないローブなどを装備していると、ローブが雨水を吸って重くなる。重くなる事により装備ペナルティが付き、Agi等にマイナス補正がついてしまう。水の加護が付与されている装備であれば、逆にプラス補正が付いたりする為、プレイヤーはフィールド上で狩りを行う場合は、まずはその日の天気予報を確認しなければならない。
Mobは、その個体の属性で天候に左右される。
火属性の個体であれば雨の日は弱体化するし、水属性の個体ならば強化されるといった寸法だ。
FTOにおける属性は、プレイヤーは装備やスキルによって変化し、Mobは種族によって変わる。例外的に、同じ種族のMobでも突然変異Mobであれば、別属性だったりもする為、油断ならない。
属性は全部で8つあり、基本の[無属性]。五大属性に位置する[火属性][土属性][風属性][雷属性][水属性]。神と悪魔から祝福を受ける[聖属性]と[闇属性]がある。
無属性は全ての属性の影響を受けず、また影響を与えない。デフォルトのプレイヤーがこの属性である。
五大属性は、火>土>風>雷>水>火という感じに優劣が付き、有利属性で攻撃すると最大で1.5倍の攻撃力を得る事が出来る。
聖属性と闇属性は互いに相反し、五大属性にも若干の有利が付く。
プレイヤーは、これらの属性とその日の天候を見て、戦い方や狩り場を厳選していく事になる。
だが、ほぼ初心者と言っても過言ではないアルファルド達は、それらの事を知らずにここまでプレイしてきたらしい。
本来であれば、プレイ開始時のチュートリアルで説明される事なのだが、三人はチュートリアルを無視し、引退したという友人達と合流していた。
そして、友人達からは満足な説明もされていなかった為、今の今まで知りもしなかったという事だ。
正直、おかしいと思ってはいたんだ。
Lv100付近までいっているならば、NPC売りされている属性武器などを使って狩りした方が、無属性のちょっと強い武器を使うよりも効率がいいという事など気付けそうなものだし、狩りをする時の天候も気にするものだ。
しかし、今まで何度か一緒に狩りしてきたが、この三人は天候を気にする素振りも見せないし、精々雨の時に「やっべwww雨降ってきたwwww」くらいしか言わないかった。
だから、今回聞いてみたのだ。
「なぁ、君ら天気とか知ってる?」
「ちょwww乳繰りさんwwww天気とか小学生でもわかるっしょwwww」
「さすがに天気の事は分かりますよ」
「ミッチー、天気知らないとかマジ引くわーwww」
OK、俺の聞き方が悪かった。
俺は再度、FTOにおける天候システムや属性の事を知っているかどうか聞いてみた。
答えは全員、なにそれ状態。
あ、うん。そういう反応になるのは分かってた。分かってたけどさ。
俺が説明しなきゃならないのかな? チュートリアルでやってたあの説明。
チュートリアルで説明を受けた場合、丁寧に教えてくれていたせいもあるが、普通に三十分くらいかかってたぞ?
端折って、細かい所は実際にその天気になった時に確認してもらえばいいだろうが、それでも天候と属性の説明をするってなると、何分かかるかな。
面倒くさいな。
説明はもう後でいいや。
そうこうしているうちに、空は段々と太陽が厚い雲に覆われ、辺りが暗くなってくる。やがて空が完全に雨雲に覆われると、雨粒がポツポツと落ちてきて、次第に大雨へと変化していった。
「おおっと、話しているうちにもう雨か。ちょうどいいや。あかね、自分のステータス確認してみ?」
装備の関係で、雨の影響をPTの中で一番受けているであろうあかねにステータス確認を促す。
あかねはぶつぶつと小声でステータスウィンドウを表示させて驚いていた。
「あ、本当にマイナス補正ついてる」
「え、マジ?」
「俺もついてる! マジか、全然気付かなかった」
あかねが確認しているのを見て、他の二人もステータス確認をしていたようだ。もっとも、金属鎧であれば雨を弾く事が多いのでそこまでマイナス補正は受けないが、革製の鎧であれば若干補正を受けているだろう。
「こういった感じで、その時の天候で補正がつくから気を付けるように! まぁ、道具屋で防水スプレー買って使えば、何時間かは雨の影響受けなくなるから、覚えておくといいよ」
「「「らじゃー」」」
三人揃って返事を返す。
うん、素直なのは良い事だ。
今回の狩りではメバルが不在の為、大雨の中狩りを続けるのは得策ではないと判断し、皆に帰還を促した。
三人とも、この雨の中狩りを続ける気は無かったらしく、打てば響くように了承し帰還準備を開始する。
「あー、天気の事は知らなくても昼夜の事は分かるだろうな……さすがに」
FTOには、天候システム以外に、時間経過で[昼・夕方・夜]と移り変わるが、これは四時間で一周する為、さすがに気付いているだろう。 昼夜によって出現するMobも変化してくるので尚更だ。
と、そう思っている時期が俺にもありました。
結論から言うと、それすらもこいつらは知らなかった。
昼夜があるって事はさすがに気付いていたが、その時間帯によって出現するMobやMobのレベルが変化している何てことは知らなかった。
どこまでいっても初心者レベルだな!こいつらは。
そろそろPTからの脱退も考えるかなぁ。
元々、人付き合いとか得意じゃないし、中級者成り立ての自分が偉そうに講釈垂れるのも限界を感じてきてたし……。
しかし、目に見えて知識を吸収していく三人を見ているのは楽しいものだったから悩みどころである。
せめて、転職出来るようになるまで一緒にいた方がいいのかなぁ。
そんな事を思いながら、俺は三人の後ろを歩きながらイクシル村へと帰った。
☆★☆★☆
「もう一度、私と一緒に珊瑚礁の洞窟に行ってください!」
五日ぶりにPT全員が揃った席で、メバルからの唐突なお願い。
以前に珊瑚礁の洞窟に行った時は、5Fまで進んだ後、やんごとなき事情で帰還してしまった。
という理由だけではないだろうな。メバルのこのお願いは。
だから俺は言ってやる。
「だが、お断る!」
俺はノーと言える日本人です。
ぶっちゃけ言ってみたかっただけだが、本音を言えば遠慮したい。
ビビり仲間のスモークチキンも同様に頷いている。
「どうしてもだめですか?」
うっ…、その上目遣いは反則やでぇ。
「お、お断る!」
レーザー並の威力で突き刺さってくるメバルの上目遣い攻撃から逃れるために、俺はサッと目線を外す事で防御する。
「でもでも、魚ちゃん達可愛いですよ?」
いや、その理屈は分からん。
ノーマルな俺には、サカナグルイの気持ちなんて分かるはずもない。
というか、ニヤニヤ笑ってないで助けろよ! 三人衆!!
「今週のアップデートで、ついに青ちゃんがテイミング出来るようになったんですよ! テイミングする為のアイテムだってこんなに! これだけあれば、皆の分もゲットできますよ!!」
そう言ってメバルは、アイテムインベントリとなっている道具袋から、テイミング用のアイテムを山のように取り出して見せた。
確かにこれだけあれば、よほど運が悪くない限りPTメンバー全員分のブルーメタルスナッパーをテイミングする事も可能だろう。
いやいや、そもそも前提として、魚のペット貰っても嬉しくない。
メバルからの贈り物という補正を付加したとしても、ちょっと困る贈り物だ。
これに関しては三人衆も頷いてくれる事だろう。
「魚のペットっすかwwwCOOLっすねwww俺も欲しいっすwww」
「あかねね。昔グッピー飼ってたよ」
あ、うん……。
君達はそういう子達だってね。
なにがCOOLなのか分からないし、ブルーメタルスナッパー ――名前長いからもう青鯛でいいや―― はグッピーとは似ても似つかないからね?
やはりスモークチキンだけは俺と同じで、ちょっと顔が引き攣っていた。
このPTで仲間と呼べるのはチキン君だけだな!
御遠慮願いたい俺とスモークチキンを他所に、メバルと二人は魚の事で盛り上がっている。尤も、基本魚の事を話しているのはメバルのみで、後の二人はどこか的外れな事を話しているのだが……。
結局、ここ最近の狩りが好調だったのも手伝って、アルファルドとあかねがダンジョンの再探索に賛成。スモークチキンが条件付きで賛成。俺が反対。
おのれ! 裏切ったなスモークチキン!!
そして、俺もメバルの執拗な上目遣いレーザーに折れて、しぶしぶだったがダンジョン探索を了承した。
願わくは、スモークチキンの出した条件である、魚系Mobが出現しても絶対に取り乱さない事を祈るばかりだ。