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僕らのMMO奮闘記  作者: ぱうぇん
第一章
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第03話 -サカナグルイ-

 『珊瑚礁の洞窟』

 洞窟の壁面や天井を海水で濡らし、地面にも至る所に潮溜まりが出来ている。

 さらに地面は苔むしていて、ツルツルと滑りやすくなっていた。

 そんな洞窟内を、所々に生えている『蛍苔』が淡く照らしている。


 イクシル村の北西に位置するこのダンジョンは、時間によって地面に溜まる海水の量が変化する。どうやら、潮の満ち引きによって変化しているらしく、充分な準備をして向かわないと、とたんに足場が狭くなり、さらに突然潮溜まりから現れるモンスターに襲われる恐ろしいダンジョンであった。

 ダンジョン内部は決して広い訳ではないので、FTOには珍しい、ソロ・小人数PT推奨のダンジョンだった。

 

 FTOにおけるダンジョンは、洞窟や塔など色々あるが、ダンジョンには極稀にMob以外にも『宝箱』がポップし、それを空けることによってそのダンジョンで得られるMobドロップなどがランダムで手に入る。最奥にいるユニークボスを撃破すれば、報償として決して少なくはないお金と、ランダムでそのボスからドロップ出来るアイテムを得られる特別な宝箱と御対面出来るというシステムだった。

 さらに洞窟型ダンジョンには採掘ポイントがあり、道具さえあれば鉱石系のアイテムを掘ることが出来るようになっていた。

 ダンジョンシステムが実装された頃は、プレイヤー全員というくらいの人数が各所に実装されたダンジョンに潜り込んだ為、サーバーに負荷がかかりすぎて鯖落ちからのログインゲーコンボとなる事態が発生したのは思い出深い出来事だった。


 珊瑚礁の洞窟には、ここでしか得られない『海水晶』という鉱石アイテムが存在しているが、海水晶を材料とするアイテムはあまり無く、それ以外のレアらしいレアも無い為、暇潰しやコンプリート趣味の奇人が稀に訪れる程度のダンジョンだった。


 そんな過疎ダンジョンに、五人編成のPTが一つ潜り込んでいた。

 すでに三匹の『半魚人』と戦闘状態に入っており、前衛のスモークチキンが新調した盾を前面に押し出しそのまま突進して、『半魚人』に『シールドアタック』を決めた。

 もう一人の前衛である俺は、スモークチキンの攻撃でノックバックした半魚人に追撃を与えるべく、後ろに控えさせていたアルファルドに『二本撃ち』を指示。続けて、スモークチキンの援護に動いていたメバルに、そのまま射撃で牽制させ、四人の最後方に立っているあかねにそのまま待機しているように指示。わざわざ待機まで指示するのは、そうさせておかないと、勝手に突っ込んで勝手に死んでしまうからだ。

 アルファルドのスキル攻撃で、半魚人の一匹が瀕死状態になり動きが鈍くなる。アルファルドにはそのまま瀕死になった半魚人に再度『二本撃ち』で仕留めるように指示を出し、アルファルドは素直に実行する。

 二回目のスキル攻撃で半魚人は倒れ、残り二匹となった敵の攻撃をスモークチキンが懸命に防いでいる。

 メバルも、敵が後方に流れたり、前衛に立っているスモークチキンの側面に回り込まれないように、牽制を続けていた。


「あかね! スモークチキンに『ヒール』!!」


 後ろで暇そうにしていたあかねに対して、壁として踏ん張っているスモークチキンを回復するように指示を飛ばす。

 それと同時に、俺も二匹の内の片方に狙いを定めて『飛燕』で攻撃をする。しかし、寸での所で俺の攻撃に気付いた敵は、ヒラリと身をかわし俺の攻撃を避けた。


「えー」


 後ろから聞こえてくる非難めいたあかねの声。

 まさかここにきての空振り。俺も外れるとか思ってなかった為、大きく態勢を崩してしまった。

 ターゲットをスモークチキンから俺へと移した半魚人が、その水かきの付いた鉤爪を俺の背中に振り下ろす。

 ガギンと鈍い音が響き、鉤爪攻撃が鎧に阻まれた。

 着てて良かった重装備。

 しかし、思いのほか重かった衝撃が身体中に駆け巡る。めっさ痛い。


「ちょ、予想以上に痛い!」

「乳繰りさん、とりあえずそいつから離れてくださいよ」

「え、ちょ、無理」


 そう言いつつ俺はゴロゴロと転がりながら半魚人から離れようとする。しかし、俺を攻撃した半魚人は執拗に俺を追いかけてきて、俺はさらに転がりながら逃げ続ける。

 ガッシャガッシャと鎧が五月蠅いが、俺も必至だ。傍から見れば、凄い無様な光景だろう。だが、そんなのは関係ない。生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから、無様だろうがなんだろうが俺はこのまま逃げる!

 しかし、転がりながらでは周りの地形など確認できず、俺は潮溜まりにボチャンと落ちてしまった。

 万事休す!

 意外と深かった潮溜まりのせいで足がつかず、俺は必死にもがいて水面に顔を出そうとする。

 憎い事に、FTOでは疑似的ではあるが、呼吸も実装されている。つまり、水中では呼吸が出来ず窒息してしまうのだ。

 必死にもがくが、重い装備のせいで体は浮き上がらず、沈む一方だ。

 意識も朦朧となりかけ、ふとHPバーに目をやるとみるみるうちにゲージが減っていっているのが分かった。

 ゲージが無くなれば死亡するしかない。

 FTOではこうやって溺死を再現しているのかと、関心にも似た心境でいると、不意に腕を掴まれ体が浮き上がる。

 俺が溺れている間に、残りの二体の半魚人はしっかり駆逐されていた。

 寸前の所で溺死を免れた俺は、咳き込みながら肺に空気を送り込むように大きく深呼吸をする。まぁ、肺に限らず、臓器関係は再現されてないんだけどね。


「死ぬかと思った」

「そんな装備してるからっしょ」


 ようやくと落ち着いた俺に、あかねがヒールをかけながら呆れたように言う。

 他のメンバーも苦笑いだ。


 折角、PTの司令塔に納まったお陰で、皆の信頼を得られていたのだが、この失態は痛い。

 PT内信頼度 -40くらいの失態だ。

 最高値が100。リア充のリーダーになれるくらいのやつがこの数値。

 最低値は-100。数値がマイナスになると、もはや「あれ? いたの?」ってレベルの認識しかされていない。

 今の俺の信頼度は20くらい。可も無く不可も無くな数値。

 ちなみに、FTOに実装されているパラメータではなく、自分で考えた俺数値。思い込みにより増減します。


「やっぱ危険だなここは。このまま帰んない?」


 ビビり丸出しで提案。しかし、その提案は受け入れられる事は無い。だって、俺以外は皆ちゃんと戦えていたし。俺以外は……。


「何言ってんすかwww乳繰りさんwwwwまだ始まったばかりじゃないすかwwww」


 アルファルドが調子に乗っている。

 この子ちょっとうざい。

 このダンジョンに来る事に消極的だったスモークチキンに目を向けてみるが、思いっきり目を逸らされた。

 ですよねー

 さっきの戦闘でMVPを決めるとすれば、満場一致でスモークチキン君になるだろうしね。

 メバルにも目線を向けるが、何も発言していないが、凄いテンションが高い事だけは分かる。PTメンバーの中で一番乗り気だったしね。理由は分からないけど。

 あかねちゃんは論外。この子はアルファルドと同類だし。


 諦めの境地で溜息を一つ。

 探索を続けるとなると、これ以上無様は晒せない。

 けど、俺、このまま司令塔やってていいんだろうか? 

 皆、動けるようになってきてるし、指示出さなくてもよくね?

 そんな気持ちが胸の奥に湧き起こるが、口には出さなかった。



 『珊瑚礁の洞窟』5階。上層の1~4階は基本的に迷路のような構造をしていたが、ここはそれとは異なり、通路を抜けた先に広間のような空間が点在していた。点在する広間の中には、中央に洞窟湖があったり、複数の通路があったりと今までとは様相がかなり違っていた。


「ちちk……ミチさん。こういう広い場所でMobに襲われたら、俺らだったら結構不味くないですか?」


 いくつかの広間と通路を抜けて、かなり広めの空間に出た時、隣を歩くスモークチキンが、他の人には聞こえないくらいの小声で俺に話しかけてきた。

 いちいち呼び方言い直さなくてもいいよもう。なんつーか、諦めたわ。お前らからの呼ばれ方。

 

「まぁ、テンションの高い後ろの三人には言うべきがどうか迷うけど、果てしなく不味いな。今までは、一度に遭遇するMobも多くて四、五匹ってくらいだったから何とでもなったけど、ここではそれなりの数に襲われる事になるだろうね」


 俺の言葉を受け、スモークチキンは顔が引き攣る。

 今まで、壁役としてここのMobの攻撃を一身に受けてきていた為、その恐ろしさを一番実感しているのだろう。

 攻略サイトから事前に仕入れた情報によれば、この広間が出現する階層は5階と6階のみで、それ以降は再び迷路のような階層になるらしい。

 Mobの強さは一段階上がるみたいだが、大量のMobに囲まれる事態にならなければなんとかなるだろう。故に、一番の難関はここと次の階層というわけだ。

 広い場所では、前後左右どこから敵が襲いかかってくるかなかなか分からない為、PTの並び順も変更すべきかどうか思案していると、後ろから「キャーキャー」という声が聞こえてきた。

 まさか、後ろから敵が来たのか! と思って俺とスモークチキンは慌てて振り返る。

 振り返った先には、やたら艶やかで真っ青な平べったく、人の上半身ほどはありそうな鯛のようなMobが一体だけいて、そいつは攻撃してくる素振りも見せずに、ふわふわと漂っていた。


「な、なんだこいつ」

「『ブルーメタルスナッパー』ですよ! まさか、こんな所で出会えるなんて!」


 俺の疑問に、メバルがやたら興奮しつつ教えてくれる。

 メバルさん、目が血走ってますよ?


「ああ! もう我慢できません!」


 そう言ったかいなや、メバルは突如鯛型のMobに抱きついた。

 両腕でガッチリとホールドした為、抱きつかれた鯛はバタバタともがくが抜け出す事が出来ないでいる。

 奇行に走ったメバルを俺達は唖然と見続けていたが、当のメバルはそんなのお構いなしと言わんばかりに頬ずりしていた。


「ミチさん! この子持って帰っていいですか!! いえ、誰が何と言おうとも連れて帰ります!! さぁ、帰りましょう!」

「「「「ええええええ!!!」」」」


 唖然としていた四人がハモって驚きの声を上げる。

 そりゃそうだろう。

 いきなりMobに抱きついたかと思えば、今度はお持ち帰り宣言だ。叶うならば、俺もお持ち帰りされたいが、今はそんなことはどうでもいい。

 一体、持って帰ってどうするというのか。

 魚系のMobは稀に『魚肉』アイテムを落とすが、それらは料理スキルや然るべき店に持ち込めばゲーム内でも調理して食べる事が出来る。しかし、まだ生きているMobを解体して食べるなんて事は聞いた事がない。


「この子の名前何にしましょうかね? 鯛チャン?それとも、青君? ああ、早く村に帰って添い寝したい!!!」


 あ、食べるんじゃなくて、もしかしてペットですかそうですか。

 依然壊れたままのメバルは、うっとりとした顔のまま頬ずりを続けている。


 さて、どうしよっかね。

 帰還には全面的に同意だが、生臭そうなそいつを連れて帰るとか勘弁願いたい。そもそも、テイミングされてないMobを連れまわすとか不可能である。ていうか、そいつテイミングできんの?ってレベルの話だ。

 自分の世界に入ってしまったメバルを他所に、俺達四人は顔を突き合わせ相談し始める。


「ミチさん……どうします?」

「どうするって言われてもなぁ」

「俺は勘弁願いたいっすよ、乳繰りさん」

「あたしもー」


 どうやら全員反対のようだ。

 しかし、ここで全員で「嫌だ」と言っても、メバルは聞いてくれないだろう。

 下手な事を言えば、メバルに射殺されかねない。

 マジどうしよう。

 テイミング云々を言っても今のメバルは聞いてくれない気がする。

 マジ困った。


「ギャン」


 バリバリと空気を裂くような大きな音が背後でしたと思ったら、メバルの短い悲鳴。

 驚き、俺達はメバルに目を向ける。

 メバルが居た付近を中心に水蒸気が蔓延していた。

 もしかして、知らない間にポップしたMobに襲われでもしたのだろうか?

 あの状態のメバルならば、鯛Mobに夢中になりすぎてて、他のMobの接近に気付かないとか普通にありそうだった。

 水蒸気が晴れてくるにつれ、現状が明らかになっていく。

 俺達四人はゴクリと喉を鳴らし、水蒸気が晴れるのを待つ。

 完全に水蒸気が無くなったそこには、恍惚の表情を浮かべたままピクピクと痙攣しているメバルの姿だけがあった。

 どうやら麻痺しているようだ。


「なにやってんすか?」


 皆の気持ちをアルファルドが代弁する。


「あおひゃんひ、おほらへひゃっひゃ」

「いや、意味わからないっす」

「あおひゃん、ほこひっはの?」


 ダメだこいつ、早くなんとかしないと……。

 俺はため息を吐きながら、あかねに『キュアー』をかけるように指示を出す。

今思いついたとでも言わんばかりに、ピョコンと前に躍り出ると同時に詠唱を開始する。

 ん? 詠唱?


「癒しの神[エルヘス]よ。神の使徒たる我が祈りを聞き届け給え。この者の穢れを清め給え!『キュアー』」


 詠唱が終わると同時に、メバルの体がボウっと淡い光に包まれる。数瞬、光が瞬いたと思ったらすぐ消え、今まで麻痺で痙攣するばかりだったメバルの体に力が戻り始める。

 むくりと上体を起こしたかと思うと、グリッと顔をこちらに向け、凄い勢いで掴みかかってきた。

 ちょ、おっかないよこの人。


「ミチさん、青ちゃんは!? 青ちゃんはどこ行ったの!?」

「ちょ、待ってメバルさん。青ちゃんってなに?」


 青ちゃんって何さ? もしかしてあの鯛です?

 そんな疑問も口を挟めず、俺はガクンガクンと頭を揺さぶられている。お陰で頭が痛い。結構、力あるんだなこの人。


「青ちゃんにげちゃったあああああ。うわああああああああん」


 あの普段は冷静なメバルさんはどこ行っちゃたんだろうか?

 まるで子供が駄々を捏ねるように泣きわめくメバルに、俺達四人は途方に暮れた。

 メバルが落ち着くまであやし続ける。なんか保父さんになった気分だよママン。

 やがて落ち着きを取り戻したメバルだったが、その後はどこか放心していて戦闘になっても指示が聞こえていなかったり、ボーっと立っている事が多かったので、俺達は已む無く探索を中断し帰還した。

 帰還途中、あかねにキュアーを使った時の詠唱はなんだったのかと聞いてみたが、「ヒ♡ミ♡ツ♪」とか言われたので、一発叩いておいた。「なんで叩くのよー」って怒っているが無視。理由なんてイラっとしたからに決まってるだろう!

 ちなみに、FTOで魔法を行使する時に詠唱なんて必要ありません。



 一番まともだと思っていたメバルは重度の魚愛好者だったし、アルファルドはDQN風味だし、あかねは中二病に侵されてるっぽいし、スモークチキンだけだな、常識的なのは……。

 しかし、そのスモークチキンにも問題があったなんてこの時の俺は疑いもしていなかった。

2話目で次は戦闘描写頑張るって言ったけどあれは嘘だ!

すみません、書き進めてたら先にメバル氏のサカナグルイの一端を書きたくなったので書きました。

あれだ、ボス戦あたりで頑張ります>戦闘描写

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