第02話 -PT狩りするってレベルじゃねーぞ!-
俺は新たに四人のPTメンバーを得て、ウルフの森に再び舞い戻ってきた。
前回は思わぬユニークボスとの遭遇に対して逃げの一手を取るしかなかったが、今は頼もしい味方がいる。
PT狩りにおいては最前線に立ち、敵の攻撃を一手に引き受ける盾の担い手である、竜人族の衛士『スモークチキン』。衛士はまだ下級職であるため、あまり無理な壁役は出来ないが、上級職に転職していく事によって素晴らしい肉壁と化していくだろう。
中遠距離から敵を封殺する事の出来る、PT狩りの火力役の魔人族のアーチャー『アルファルド』。上級職に転職後は、さらに罠や多彩なスキルを使用して、PTを助ける事も可能だ。彼がどの派生上級職になるかは分からないが、おそらく今まで以上にPTに貢献できる火力役となれることだろう。
今回は後方火力役として、人間族のガンナー『メバル』もいる。ガンナーはアーチャーから派生出来る上級職の一つで、アーチャーのスキルの殆どを失う代わりに、さらに高火力と高い命中率を得られる職業だ。しかし、ガンナーのメイン武器となる銃は、流通量が少ない上に、銃専用の特殊システムである『暴発』の危険性も併せ持っている為、結果不遇職扱いとなってしまっている。
そして最後方から様々な魔法スキルによって、PTを支えるエルフ族のマジシャン『みつみね あかね』。マジシャンは派生上級職が豊富で、あかねはPTの支援役と成り得るクレリック志望らしい。ゆえに攻撃系スキルは殆ど取っていないが、下級職である今でも、PTの縁の下の力持ちが如くPTを支えている。
そして俺はソードファイターの上級職であるソードマスターである。今回のPTではスモークチキンと一緒に前衛の壁役となっている。本来であれば、ソードマスターは前衛火力として機能すべきジョブだが、そうしてしまうと火力過多な構成になってしまう上に、今回のPT狩りの目的が俺とメバルさん以外の三人の、上級職転職を目指している。ならば、俺も壁役兼緊急時の火力役として機能するのが一番良いだろうという事になった。
狩りを初めて三十分ほどが経過した。
状況としては、アルファルドとあかねが二乙。スモークチキンは死んでこそいないものの、回復アイテムは無くなっている。
どうしてこうなった。
ウルフの森は、PT3~5人程度であれば、適正レベル帯は80~90くらいの狩り場である。ソロであれば、メインで出現するMobの関係上、Lv100以上は欲しい所だが、今は5人PTで来ている。しかも、上級職が二名もいるにも関わらず死人が出ている。
ウルフは群れる事が多く、さらに仲間を呼ぶ習性もある。殲滅が追いつかなければ、どんどんと増えていくウルフ達に押しつぶされてしまう。AtkやAgiは高いMobだが、HPが低い為殲滅に時間を取られる事はないはずだった。
今回のPTが火力過多気味の構成なのもあって、問題無く狩りを進められるはずだった。ユニークボスに遭遇したわけでもないというのにこの惨状。頭が痛い。
そして、ウルフ五匹との遭遇戦。
回復剤の切れたスモークチキンを後衛の護衛に回し、俺がウルフの前に躍り出る。そして、死んだ直後でHPが回復しきっていないアルファルドも、何故か前に出てくる。
俺がウルフのヘイト上昇を狙って、『挑発』スキルを行使しようとした瞬間に俺の隣に立つ。
どういう事なの?
しかも、俺のスキルが成立する前に、持ち前の高Agi、高Dexを生かしての『アローレイン』。『アローレイン』は、敵上空から数十の矢の雨を降らす範囲攻撃スキルだ。全ての攻撃が、障害物オブジェクトなどにも有効なゲームの為、こういった森地形の場所では、アローレインで放った矢の大半は邪魔な木々に遮られ、敵に届くのは何本かでしかない。
そして、敵Mobは自分が対象になったスキルによってもヘイト上昇する。もちろんスキルが不発に終わったとしてもだ。
その結果、アルファルドに矛先を向け突進しはじめるウルフ達。
俺は慌てて挑発をキャンセルし、アルファルドを巻き込まないように、大剣で『旋回斬り』を行使。三匹のウルフに攻撃を当て、こちらがターゲットされるように誘導するが、残りの二匹はアルファルドに向かったままだ。
『旋回斬り』は、スキルキャンセル受付時間が極端に短く、廃人クラスの人間でないとまともにキャンセルする事の出来ないスキルだった。その上、硬直時間も長めで、ターゲットを奪う目的では些か都合の悪いスキルであったが、立ち位置の関係上、他の範囲スキルでは味方を巻き込むし、単発スキルをキャンセルで繋いだとしても、五匹のウルフは上手くバラけてしまっていた為、二~三匹は打ち漏らしていただろう。
俺は廃人クラスのプレイヤーというわけではないし、旋回斬りのスキルキャンセルの練習なんぞした事もなかった為、当然の事ながらスキル硬直を受けている。
しかし、さすがというべきか、後衛に居たメバルが『ダブルショット』で、アルファルドに向かっていたウルフのうち一匹を仕留める。さすがの高火力だったが、メバルも焦っていたのか『ダブルショット』のキャンセルをミスって、スキル後の硬直を受けていた。
ウルフに纏わりつかれ、もがくように抵抗するアルファルドだが、もとより減っていたHPはみるみるうちに減少していき、やがてHPバーは真っ黒に変わった。
アルファルド三乙。
某狩りゲーだったならば、この時点でアルファルドは「OTZ」の態勢で失意のまま拠点に強制帰還していた事だろう。
アルファルドを噛み殺して意気揚々としているウルフだったが、スキル硬直の解けたメバルの『ダブルショット』を受けてバタリと倒れた。
残りの三匹は、俺が必死にヘイト管理しつつチマチマ攻撃を続けていた為、あかねのスタッフによる『強打』と、スモークチキンの剣による『ラッシュアタック』、メバルの通常の射撃によりあっさりと倒れてくれた。
「どうしてこうなった」
俺の発言で、メバルは苦笑いを浮かべ、スモークチキンもバツの悪そうな顔。僕らのアイドルあかねちゃんはキャッキャッウフフと、死に状態であるアルファルドをスタッフでツンツンしている。あ、もちろんアイドルというのは皮肉です。
なんていうか、PTを組んではいるがPT狩りをしている感じではないな。
メバルはお世辞にもPT狩りに慣れているという感じではないが、後衛から要所要所に高威力の銃弾を叩き込んでくれる為、確実にMobを倒してくれていた。欠点を上げるとすれば、稀に俺やスモークチキンにも銃弾が当たっていたという所だろうか。超痛かったです。
スモークチキンは比較的頑張っていた方だと思うが、回復剤叩き過ぎ。その結果、早々に回復剤が無くなるという失態。常にHPが8割無いと不安で仕方が無いのだろう。
残る二人は問題外と言える。
後衛火力なのに、ちょくちょく前に出てくるアルファルド。紙装甲で前に来たらすぐ死ぬっつーの!
そして、最後衛に居るべきはずのあかねも酷いものだ。Strが高めで攻撃力が高いのは分かるが、同じく紙装甲な上に支援スキルを使える人はあなただけなのですよ?
それなのに支援そっちのけで、前に出てきてウルフを撲殺とかわけがわからないよ。
倒し切れればまだ文句は出ないのだが、いい感じで倒しきれていない。
まぁ、俺も酷いと言えば酷かった。
重い装備が足を引っ張って、ソードマスターのスキルを有効活用出来なかった。俺の場合は、スタイルから見直せと言われかねないから始末が悪いな。
しかし、なによりの原因は、PTの司令塔がいないという点だろう。
慣れた人達であれば、司令塔がいなくともそこそこ動けるものだが、うちら五人はPT狩り初心者と言っても過言ではないくらいのものだ。
いくら適正レベル帯の狩り場であっても、バラバラに動いていればPTはまともに機能しない。
俺達は、一度態勢を立て直すために村に戻る事にした。
五人の溜まり場となりつつある酒場で、今日の狩りの反省会を行う。
微妙にお通夜状態な五人。
意気揚々と、初めて五人で狩りに赴いたのに、散々たる結果に終わってしまっていたのだから無理もないだろう。
「……えーっと。とりあえず、改善した方がいいと思う点から上げていこうか」
誰も一言も発しないので、仕方が無く俺が仕切り始める。
「とりあえず俺から一つ。皆バラバラに動き過ぎだな」
正直、その一言に尽きる。
帰り際に、三人に今までどうやって狩りをしてきたかと聞いてみれば、共通の友人であったプレイヤー数人に交じって狩りをしていたみたいなのだが、どうやら、主にお座り状態に近いものだったらしい。
友人であったプレイヤー達は、このゲームをかなりやり込んでいて、もう引退してしまったのだが、最後という事である程度までLv上げを手伝ってくれたらしい。
そこで俺は思う。
Lv上げよりも、まずは基本的なジョブによる立ち位置とかを教えようぜ。
三人はレベル自体は、俺やメバルと近いのだが、ほぼ初心者と言っても過言ではないみたいだった。
二週間くらい前にゲームを始めたということも相まって、殆どプレイヤースキルが無いと言っても過言ではなかった。
俺とメバルは、最初の頃こそPT狩りもしていたが、ある程度レベルが上がった段階で殆どソロになっていた為、いまいちPT狩りでの立ち回りを思い出せていなかった。
「思ったんですけど、さっきの狩りで一番動けていたのはミチさんだったと思います。だから、次はミチさんに色々と指示を出して貰いながら狩りを行うというのはどうでしょう?」
この人は何を言っているのでしょう?
良く言えばソロプレイヤーだが、実情はただ単に、俺の友人達の狩りについていけなくなったぼっちプレイヤー。
そんな俺にPTの司令塔をやれと?
冗談が上手いね奥さん。
「あ、それは僕も思いました」
スモークチキンも同意する。
いやいや、ねーから。俺が動けてたとか。
「乳繰りさんのおかげで、俺もあんまり死なないで済んだし」
アルファルド、お前はちょっと黙れ。
PT狩りがほぼ成立しなかったのは、お前の意味不明な行動に占める割合が高いんだぞ?
「あかねも、ちちk…ミッチーとメバルっちは上手かったと思うけど、なんでミチさんはソードマスターなのに、そんな装備をしてるの?」
「あ、それは僕も思いました」
「おま、きっと俺らには分からないほどの凄い理由があんだよ! 乳繰りさんには!」
それを言っちゃあダメですよお嬢さん。
凄い理由なんてまるでないし、ただ単なる臆病が高じて重装備してるだけなんだからな。
俺が何も発言できないでいると、さらに俺の装備に対する議論が三人の中で加熱していく。どうでもいいけど、スモークチキンのやつ、「あ、それは僕も思いました」しか言ってねーぞ?
「ま、まぁまぁ、三人とも落ち着いて。このゲームでは、どういう装備をするかは人それぞれなんだし、皆が皆同じような装備してても面白くないし、きっとミチさんもそういった理由からだよ」
あれ?
メバルさんには言わなかったっけな、俺が重装備している理由。言ってなかったかもしれない。
だからといって、今ここで真相を明かすと、折角皆が俺の事を見直し始めてくれているのに、一気に信用を失いかねない。だから黙っておこう。
「とりあえず、次の狩りの時はミチさんの指示に従って行動してみましょう」
「「「うぃ~っす」」」
メバルの発言に対して三人衆が即了承する。
俺おいてけぼり。
まだ指示出しなんてやるって言ってないよ?
しかし、なんか場の雰囲気が断ることを拒否している。
俺は渋々と言った顔はせずに、苦笑いを浮かべながら頑張ってみることをパーティメンバーに言った。
どうなってもしらないんだからね!
そして、数日後に狩りに赴いた時、俺の指示でなんとか基本的なPT狩りの形には出来たと思う。思いたい。思わせてください。
正直、指示出しとか疲れた。
最後の方はちゃんと聞いてくれていたけど、初めの方なんてホント聞いてねーんだもん。
でも、なんとか誰も死なずに終了したんだから良くやったと自分で自分を褒めてやりたい。
そんな感じで何回かPT狩りを行い、気を良くしたアルファルドが、イクシル村近辺に存在する『珊瑚礁の洞窟』に行ってみたいとほざいた。
えー、こいつまた何言ってんの?
ちなみに『珊瑚礁の洞窟』は、13階層からなるダンジョン型のマップで、適正レベル帯は五人PTだと110~120前後。
どう考えても、うちらにはまだ早いダンジョンです。
アルファルドの提案に、当然というべきかあかねが賛同する。
驚いた事に、PTの調停役であり、割と冷静な発言をするメバルもその提案に賛成していた。
難色を示しているのは、俺とスモークチキンの二人。ビビリ二人。
多数決の結果、ダンジョンに行ってみる事が決まり、最初はとりあえず様子見って事で決着が付いた。
納得の上での決着というよりも、アルファルドとあかねの押しの強さと、メバルの執拗なまでの説得により、俺とスモークチキンが折れるしかなかったというのが実情だった。
次に集まれるのが三日後ということで、各自情報を集めるとともに準備をしておくことを決め、その日は解散となった。
ホント、このレベルでダンジョン行くとかどうなってもしらないんだからね!
途中、自分で何を書いているのかわからなくなった
次はもう少し戦闘描写を密にしてみたいと思います