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僕らのMMO奮闘記  作者: ぱうぇん
序章
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第02話 ‐アイテムロストした結果www‐

 イウカホド国のドナン地方に位置する小さな村[イクシル]。 NPCの数も少なく閑散としている。稀にクエストや狩りに訪れるプレイヤーもいるが、精々数人程度だ。

 昔のアップデートでこのマップが追加された時は、この小さな村に大量のプレイヤーが押し寄せてきた事もあるが、今となっては見る影もない。

 元々、中レベル帯のプレイヤー救済の為に実装されたような場所で、稼ぎが悪い訳でもなく、経験値効率が悪すぎるわけでもない。しかし、レアらしいレアは無く、どこまでいっても中途半端感が漂う狩り場な上に、その後のアップデートで実装された新マップが、ここよりも狩り易く稼ぎも良かったので、殆どのプレイヤーはそちらに流れて行ってしまった。


 そんな過疎化の進んだ地方の如く、寂れた村の中央で俺はボーっと立っていた。

 立っている背後には大木があり、その周囲を石煉瓦で綺麗に囲っている。

 イクシルの村に転移してきた時に出現するポイントで間違いなさそうだ。

 視界の端のゲージを見れば、黒く染まっている。

 どう考えても死に戻りです。本当にありがとうございました

 装備していた、鉄製の鎧や兜は軒並みヒビが入っていて、走り出したら今にも壊れ落ちそうだった。

 早く修理しないとと思いもしたが、どうせならば新しい装備を買った方が安上がりかもしれない。


「転落死とか初めてしたわ……」


 誰に聞かせるわけでもない呟きが、溜息と共に口をついて出た。

 どかりとその場に座り込み、改めて今の自分の状態を確認する。


 死に戻りした為にHPゲージは真っ黒。装備は軒並み要修理状態。腰のロングソードは健在。背負っていた鋼鉄製の大剣は不在。消耗品やその他諸々は全てあった。


「あれ? 火精霊のヴォルギルソードが無い!」


 熟練の職人[スミス]ならば、武器に様々なエンチャントをする事が可能で、この武器は知り合いのソードスミスに依頼して作って貰ったものだった。失敗のリスクはあるので渋っていたが、今日の狩りの為に無理に頼みこんでエンチャントしてもらった。


「まじかよ……。よりによって俺の一番の武器をロストするとかねーよ……」


 俺がプレイしているVRMMO「ファンタジータクティクスオンライン」は、課金アイテムがないと、PK以外で死亡した時に一定確率で所持装備・アイテムの一部を死亡した場所に落としてきてしまう。決して高い確率ではない上に、万が一の時に備えて、少しでも良い物をロストしない為にアイテムインベントリには、ダミーのゴミアイテムは入れていた。

 だが、その努力も空しく、こうしてロストしたくない物をロストしてしまうと、ただ不運だったと一言で済ますほど、俺は人間が出来ていない。

 決して凄く強い訳でも価値の高い武器ではないが、唯一ドロップするユニークモンスターをソロで狩り続けて、ようやく手に入れた思い入れのある武器だ。

 自分のレベル帯にしては充分なほどの性能だったし、さらに火属性エンチャントが成功した武器だったため、悔しさは一層強かった。


「くっそ!くっそ! マジ糞ゲーだわ!! 運営何考えてんだかマジわかんね!! バーカ!バーカ! マジ死ね!死んでしまえ!!!」


 座り込んだまま、大木を囲う石煉瓦に八つ当たりの鉄拳を何度も喰らわせる。十数発ほど拳を打ち込んだ所で、パキンという音と共に両腕に装備していた鉄の小手(指先まで保護しているタイプ)が砕けて消滅した。

 何も装備していない両腕をマジマジと見て、俺はゆっくりとその場に寝そべった。


「鬱だ。死のう…」


 武器をロストした直後に防具破損消滅。消滅した小手に関しては自業自得なのだが、もはやそんな事も考えられないほど落ち込んでいた。

 踏んだり蹴ったりな出来事ばかりなので、今日はもう狩りを続ける気にはなれない。

 ログアウトして、気晴らしに別ゲーでもするかと思っていたら、カツカツと石畳を鳴らす音が聞こえてきた。

 しかし、もはやどうでもよくなっている俺はそちらを見ようともせず、ただただ無気力に地面に横たわっていた。横たわっていたおかげでHPゲージは半分ほどまで回復しているのが、なんとも憎らしく思えてくる。どんなに怒っても、どんなに悲しんでも、どんなに喜んでも腹は減る。それと同じで、FTOではプレイヤーがどんな心理状態であっても、HP自動回復を阻害する状態異常になっていないのなら、座ったり横たわっていれば少しずつHPは回復していく。

 石畳を鳴らす音が俺の側で止まった。

 武器も小手も無くした俺を誰かが笑いにきたのだろうか?

 ネガティブマックスな俺の思考では、そんな事しか思い浮かばなかった。


「あの……」


 その問いかけを受けて、俺は億劫になりながらも声のした方を振り向いた。

 おおぅ、美人さんが目の前にいる。

 当然、ゲームだからキャラクターメイクの賜物なのだが、思わずドキッとさせられてしまった。

 っけ!どうせ、ネカマだろ!

 VRゲームに限らず、古今東西ネトゲの♀キャラの8割はネカマって相場が決まっているってばっちゃんが言ってた!

 その例に漏れず、この美人さんも中身キモメンの俺らみたいな存在だろ。


「ん? 何か用ですか?」


 俺は返事を返しながら、中身キモメンであろう美人さんを見た。

 おっぱいデカイな……。

 腰もくびれて、足もスラッと長いし。つか、ヘソ見えてます。

 わたくしとしましては、どちらかというとヘソチラの方がそそr……じゃねぇ! どんなに綺麗にキャラメイクしたって中身はキモメンだ!(思い込み)

 俺は騙されんぞ!!

 茶Hとか見抜きはしたことがあるが、そん時は別に中身の事なんて気にしない。

 だけど、今はそういう状況じゃない。

 したり顔で近づいてくる♀キャラなんて、地雷臭しかしない。


「あ、いえ。……ちょっと確認したかったんですけど」


 ほぅ? 確認とな。

 わたくしとしましては、その小高いでは済まされなさそうな双子山の感触を……って違う違う。


「えーと……。違っていたら済みません。ウルフの森にいた、ナイトさんですよね?」

「ん? あー。多分そうです?」


 ナイトというのは、俺の名前ではなく(というか、名前はネーム確認というシステムを使えば、そのキャラの頭の上に表示される仕様だ)、ジョブの事を言っているのだろう。

 ちなみに、俺のジョブはソードファイターの上位職である、ソードマスターである。

 しかし、俺が全身重防具で固めている為、よくナイト系の職と間違えられる事が多い。

 このゲームは、どのジョブであっても全ての武器防具が装備可能だ。

 ただ、ジョブに合った適正装備があり、それを装備する事でプラスの補正効果が得られるため、皆適正装備を使うってだけだ。あまりにも職に合わない装備を装備すれば、ペナルティでマイナス補正が若干かかったりするのも理由の一つだろう。

 俺が装備している鉄防具セットはソードマスターというジョブにとってはマイナス補正がかかる。だというのに、俺がこれらを装備しているのにはわけがある。

 だって、怖いじゃないか!

 VRMMOの中でも、リアルさが売りというだけあって、攻撃されれば当然痛みもあるんですよ!?

 さすがに、切られたりショック死するような痛みに関しては制限されてるけども、ウルフに噛まれればすげー痛い。リアルで犬に噛まれた事があるから分かるけど、それくらい痛い。イノシシの突進を受ければもう泣きそうになる。

 でも、マイナス補正を受けようとも、装備本来の防御力というものが落ちるわけではない。マイナスの補正は主にステータス面に及ぶ。軽装装備が適正なジョブに重装備をすれば、主にAGI関連でマイナス補正がかかる。

 しかし、AGIを犠牲にしてもありあまる安心感を得られるわけだ。

 ソードマスターというジョブは、高い回避力や受け流しというスキルがあるため、「当たらなければどうということはない」をやればいいのだが、うっかり攻撃を受ければ即死しかねないほどの紙装甲な防具しか適正装備がない。

 ならば、なんで俺がソードマスターを選んだのか疑問に思う人も多いだろう。

 ……うん、別にどうという理由はない。

 何も知らなかった俺が最初に選んだジョブがソードファイターだっていうだけなのだから……。しかも、なんかカッコイイから!というどうしようもない理由も付随している。

 別キャラ作るにしても、そこそこのレベルまで上げるとなれば時間もかかるし、何よりもキャラクタースロットを増やすのに課金が必要だ。

 課金しなくても通常プレイには不都合は無いが、色々やろうとすると限界がある。その救済が課金システム。

 アイテムロストを防ぐのも課金。キャラクタースロットを増やすのも課金。アイテム倉庫拡充も課金。etc、etc……。課金、課金、課金ばかりでとても『心折』設計なゲームだったりする。ちなみに課金する事で、一度決めたキャラクターの性別も後で変更できたりする。


「ああ、良かった間違いではなかったのですね!」

「あ、うん。あの森には俺以外で重装備キャラって見かけなかったしね。で、何か用です?」

「あ、はい。私はガンナーのメバルっていいます」


 あ、誰かと思ったら、あの時助けてくれたガンナーさんか。結果的にMPKみたいな形になったけど。

 こうして話しかけてくるって事は、文句の一つでも言われるかな?

 ならば、先に謝っておこう。別に悪意があってそうしたわけでもないし、進行方向にガンナーさんがいきなり現れたわけだし。オレワルクナイシ。


「さっきはごm「これ、あなたの武器ですよね?」」


 先制謝罪攻撃は失敗に終わった。

 この美人やりおる。こっちの発現に、自分の発言被せるとか…。謝罪なんて聞く耳もたねーよって事か。

 というか、謝罪するのに未だ寝そべったままとかないわ俺。謝罪する気、ゼロと見られても仕方が無い。

 俺は慌てて立ち上がり、メバルさんと向き合う。


「あのぅ? これ、あなたの武器ですよね?」


 ガンナーさんは、大事なものを扱いように両手で大剣を俺の前に差し出してくる。

 ん?武器??大剣???


「こ、これは!? 俺がロストした火精霊のヴォルギルソード!! なんで!?なんで、ガンナーさんが持ってるの!?」

「あ、やっぱりあなたのでしたか」


 ガンナーのメバルさんは、ホッとしたように緊張を解いた。

 あ、うん。そういった仕草も可愛いです。綺麗な容姿と可愛い仕草が合わさり最強に見える。けど、きっとネカマだ!!


「え?なに? 拾ってきてくれたの? 正直、誰かがロストしたものだったら自分の物にするでしょ? 誰だってそうするよ?」


 俺だってそうする。


「大半の人はそうするんでしょうね。けど、ダミーアイテムだったらまだしも、やっぱり無くした本人からすれば、返ってきて欲しいものだと思いますし。何より私が嫌なんですよね。そういうの」


 そう言ってメバルさん、はにかみながらどこか照れた様にトレードの要請を出した。

 俺はそれを承諾し操作を完了したと同時に、手の中にずしっとした重みを感じた。まぎれもなく無くしたはずの俺の武器の重さだった。

 価値としてはそこまで高くはないとしても、一応エンチャ成功品なのだから多少の資金の足しにはなるはずである。それなのにネコババしないとか……、え?なにこの子、天使じゃないの!?

 俺は小躍りしそうになるのを必死で抑え、メバルさんに必死でお礼を言った。

 お礼を言うだけじゃ駄目だな。なんらかの形でお返ししないと!

 何がいいだろう?

 あいにくと金は無い。武器をエンチャした時と、情報屋に払った情報料で殆ど失ってしまった。

 ああ、あの情報屋にはきっちりお礼参りしなきゃならんな!

 何かしらのレア物と考えたが、まともなレアなんて持ってなかった。

 中級プレイヤーの悲しい現実だった。狩り場のレベルがあがれば、装備を新調しなければまともな狩りなんて出来ないし、かといって下位の狩り場ではレベリングも金策も捗らない。

 マジどうしよう……。

 分かっていたけどもぼくびんぼうでした。

 うーんうーんと唸っている俺を、メバルさんは嫌な顔一つせず待ってくれている。

 やっべ、凄い気まずい。

 金銭やレアの代わりにレベリング手伝いますよって言ったところで、さっきの逃走劇+転落死を目の当たりにしているのだから、普通だったら遠慮するところだろう。

 本当に返せる物が何もない。

 いっそのこと全裸土下座でもしようかと考えていると、向こうから提案がきた。


「えーっと、唐突にこんな事を言うのもなんですが、もしよろしければ一緒に行動しませんか? ずっとソロでやってきたんですけども大変になってきましたし、何よりも一人だと詰らないものですから。あ、あの森にいた3人のパーティとも一緒なんですが……」


 お礼の提案では無く、PT狩りの誘いだと!?

 正気か!? この女!!?

 俺のあの大失態を間近で見ていただろうに……。

 お礼の要求ならまだしも……。あ、そもそもお礼したいって言ってなかったっすね。どうもありがとうとは言ったけども、ただそれだけでした。

 改めて思う。俺、クズだな!

 そんなクズな俺が、PTで役に立てる人間なはずはない。でも、クズだけどPT狩りはしたい!

 というか、レベル帯はあってるのだろうか? 公平分配するにはレベル差20以内じゃないとダメなんだぞ?

 どう見ても、メバルさんは俺よりも高レベルのような気がするんだが……。

 まぁ、公平じゃなくてもいいか。

 俺もソロ飽きてきてるし、一緒に始めた友人達はもうとっくの昔に上級プレイヤーだし。

 そう思って俺はその提案を快諾した。久しぶりのPTが見知らぬ人達っていうのは怖いけども、まぁなんとかなんべ!


「あ、はい! こちらこそ宜しくお願いします!! お名前は『荘厳なる乳繰り』さん? え?」

「私を呼ぶ時はミチとかミッチーとお呼びください!!後、その名前は忘れてください!!」

「あ、はい。分かりましたミチさん」


 キャラ名『荘厳なる乳繰り』。キャラメイク時に弟に勝手につけられたものだ。そして数日の間、俺はその名前に気付かないままプレイしていた。

 時、すでに遅し。

 以来、知り合い連中からは乳繰りさんと弄られ、赤面を続ける毎日。

 この名前を勝手につけた弟を〆ようにも、空手2段、柔道初段の弟に敵うはずもなく泣き寝入り。

 もう、このゲーム止めようかと思った事も一度や二度ではない。

 そんな俺の気持ちを察してか、メバルさんは俺に笑顔を向ける。


「では、他のメンバーも紹介しますので行きましょうか!」

「う、うん」


 PTL(パーティリーダー)は別の人らしいので、PT申請はこなかった。

 俺はメバルさんとはぐれない様、壊れそうな装備をガチャガチャと鳴らしながら後をついていく。


 あ、咄嗟に言った「ミチ」はリアルで呼ばれてるあだ名です。本名『川道 邦弘』と申します。

序章・完!

第1章に続く……の前に、多分補足回を挟む予定。

FTOのシステム面とか人物紹介とかその他諸々。

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