第01話 ‐高い金出して情報を買った結果‐
タイトルに異世界が入っているからといって、異世界に突然召喚されて~って感じではありません。
仮想世界だって、異世界と変わらないはず!
という事で、VRMMOを題材に書いてみようかと思います。
本当の異世界に行っちゃうことは多分ない…きっとない…と思いたい……
森の中を、少年は駆ける。
鉄製のヘルムと、全身を覆うプレートアーマー。それに加え、鉄の小手に鉄のグリーブ。盾は所持していないが、背中に大剣を背負い、腰にはロングソードを下げている。
およそ少年の体躯には不釣り合いな装備だが、一見したら重装戦士。しかし、重装戦士のトレードマークともいえる盾は持っていないので、なんともチグハグな装備だった。
そんな少年は、鬱蒼と生い茂る木々を掻き分け、枯れ枝を踏み砕きながら、逃げるように必死で駆けていた。
身に付けた装備がガチャガチャを音を鳴らし、腰に下げていたロングソードが、木の幹にぶつかり激しく振り回されるのも構わず走り抜ける。
「くっそ! ダイアーウルフが出るのはまだ先じゃなかったのか!」
情報屋から買った情報をもとにこの森に訪れたのだが、どうやら嘘の情報を掴まされたらしい。
こういった詐欺がここ最近、流行っているとは聞いていたが、馴染みの情報屋だった為に疑ってすらいなかった。
「あのやろう!帰ったらぶっとばしてやる!!」
少年の脳裏には、札束抱えてほくそ笑む情報屋の姿が浮かんでいた。
「つか、いい加減あきらめろよ! 俺なんて食ったって腹の足しにもなんねーよ! どっかいけよおおおっっっ!!」
数十メートル後ろから追いかけてくる、少年の背丈の倍はありそうな狼に、後ろを振り向きもせず悪態をついた。
しかし、後ろから感じる気配はスピードを緩めようともしない。それどころか、大狼に従軍するかのごとく、森の魔物が集まってきている。
「ハァ…ハァ…ハァ……。もう……げ、げんかい」
追走する大狼は、配下の狼を使い、巧みに少年を追い詰めていた。
徐々に包囲を狭めてくる狼。少年のスタミナはもう尽きかけている。どう贔屓目に見ても、少年が無事に大狼から逃げられるという未来は見えてこない。
持ってきていた秘蔵の高級スタミナ増強剤はもう飲みきってしまった。
それ一つあれば、三日は活動できるという薬だったが、重装備の上に慣れない森という地形が加速度的に少年のスタミナを奪っていた。
「ウオオーン」と大狼が雄叫びをあげた。
そろそろ狼達の狩りも仕上げにかかるといった段階か、と少年は涙目になりながら思った。
四肢を噛み千切られ、頭を潰され、内臓を食い荒らされる数分後の自分の姿が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。
「思えば大した事のない人生だったなぁ」
ヘロヘロになりながら、少年は独りごちた。
重装備で固めても、あの大狼の顎にかかればチーズのように砕かれるだろう。
チーズはチーズでも、あの固いチーズだったらよかったのになぁとか、そのチーズの名前ってなんだっけなぁとか、割とどうでもいいことばかりが頭に浮かんできていた。
「た、たすけて…」
人間、最後の瞬間って案外こんなものなのかなぁとか思っていたら、進行方向の斜め前方から助けを求める声が聞こえてきた。
え? 無理です。僕も助けて欲しいです。
走り過ぎて擦れ気味の視線を、声のする方に向けてみれば、パーティと思わしき三人がいる。
一人は腰を抜かし、一人は横たわっていて、最後の一人は小型の狼数匹相手に剣を構えていた。
たすけを呼んでいたのは、おそらく腰を抜かしているやつだろう。
剣を持ったやつは、懸命に狼を追い払おうとしているが、ビビっているのか妙に腰が引けている。
ああ、あれじゃあ駄目だなぁ。[ウルフ]相手にビビったら負け。群れる事の多いウルフを相手にする時は毅然とした姿勢で威嚇するくらいじゃないと……。
まぁ、ダイアーウルフにビビって現在進行形で逃げている俺が言えた義理じゃないけどね。
「そこの二人! 伏せなさい!!」
今度は、進行方向前方から声がする。
意外と大きな声にビビって、そちらに目を向けてみると、ガンナーと思わしき女性が三人パーティの方に向かって、銃身の長いライフルを構えていた。
一発、二発、三発と撃つたびに、パーティを襲っていた狼が一匹ずつ倒れていく。生き残った狼達は、仲間があっさり倒されたのを見て、我先にと逃げ出して行った。
命中精度の高い(と、俺は聞いている)ライフルとはいえ、こんな木々が密集している森の中でこの芸当。さぞ、高位のガンナーなのだろうと少年は思った。
ついでに、僕の事も助けてくださいお願いします。とも思った。
つか、気づいて下さいよ。あのパーティと俺、どっちかって言えば俺の方が危険度が高いし、ガシャガシャ、バキバギ、稀にウオオーンと五月蠅いはずなのだが。
このまま走っていけば、あのガンナーさんにダイアーウルフをなすりつけちゃうじゃないか。MPKしちゃうじゃないか!
「!?」
ガンナーは、自分が助けたパーティの所へ向かおうとしたところで、ようやくと俺の存在に気付いた。
ちょっとビックリした様子は見受けられたが、ガンナーは慌てずにライフルを構え、こちらの方に銃口を向けた。
待って!待って!
なんで俺に銃口向けんの!?
俺は敵じゃないよ!
鉄の塊みたいな恰好しているけども、[彷徨える狂騎士]とか[アイアンウォーリアー]とかじゃないからね!?
そんな心の叫びも、当然のことながらガンナーには届かず、あの狼達を一発で屠った無慈悲な銃弾が銃口から吐きだされ、少年の髪を掠めて後ろへと飛んでいった。
よかった、外れた……。と、思ったのも束の間、ガンナーは再び弾を込めこちらに狙いをつけてくる。
「そのまま走り抜けて、私の後ろに!」
二発目の銃弾が発射されるのと同時に、ガンナーが叫ぶ。
どうやら、さっきの銃弾は少年のすぐ後ろまで迫っていた大狼[ダイアーウルフ]を狙って撃ったものようだった。
少年はこれで助かるという思いから、最後の力を振り絞って全速力で走った。
それはもう、[ゴールデンプチプリット]も真っ青なほどの速度でガンナーの横を走り抜けていった。
「え?」
ガンナーの横を通り過ぎた後、それは予想しなかったとでも言うように、ガンナーの困惑するような声が聞こえた気がした。
しかし、少年は助かったという思いから、そんな声は気にせず走り去っていった。
というか、止まれなかった。
ダイアーウルフに追われずっと走っていた為か、はたまた助かったという思いからか、少年はガンナーの後ろで止まるという思考が抜けさっていた。
必死に走り抜けた末の気の緩みとでもいうべきか、少年は周りの地形を認識しきれていなかった。
ただただ、助かった。もう食われずに済む。生存万歳!ガンナーさん最高!素敵!結婚して!! と言った感じに意識は別世界にトリップしていたのだった。
その結果、不意に襲いかかる浮遊感。
直後に感じる空気を蹴散らすように猛然と落下する感覚。
そして衝撃。
崖から落ちて地面に激突したという認識も出来ないまま、「地面気持ちいいです^^」と言わんばかりに少年の意識は遠のいていった。
休日出勤、ちょっと暇だったんでプロットや設定も何も作らずにかいちゃいました^^;
苦手なコメディ風味でやっていけたらなぁって思ってます。
先日投稿した「零の新章」と違って、書き溜めがあるわけでもないので更新は遅いかと
あと、一つ一つの話を短めに区切って、色々な人の視点で書いていこうかなって思ってます。