a refuge ~逃げ道
昨日は当然眠れやしなかった。今日の事で頭がいっぱいで仕事にも集中できないほどだった。横山さんもきっとそうだろう。横山さんとあまり会っては監視員に怪しまれるため三日間はあえて会わなかった。今まで実際完璧なほどに入念に計画を立ててきたが「脱獄」という大きなミッションなのだ。普通の人間は必ず逃げ出したくなるだろう。オレも普通のヒトだ、だから当然オレだってにげだしたい。だけどそんな事、もうここまで来てしまったんだから、言ってられない。まぁこんなこと思おうとしてるだけであって、実際は怖くてこんなこと考えてられるほどの余裕さえもない。自分が逃げ出してしまわないように念を入れているだけだ。
「よっ!昨日はぐっすり眠れたか?眠っておかねぇと体がもとねぇからな。ハハハッ」
横山さんが強がっているのは見え見えだった。オレと会わなくなってからだろうか、それとももう少し前からか、わからないがぜんぜん眠っていないのは確かだった。目の下のクマがその様子を物語っていた。実際のところオレよりビビッていた。
「眠れるわけないじゃないですか~。横山さんも寝れなかったんでしょう?目の下、クマがしっかりできていますよ。」
自分でも言ってて意地悪だなとは思ったが、ついでてしまった。
「ハッハッハばれちゃったか。はぁうまくいくかなぁ、心配だ。で、でも今更後戻りなんかできない。ここまで来たからには成功させないとな!」
「はい!当然です。」
楽しみで仕方がなかった。開放された後、何をしようかなど色々考えていた。うまくいくかも分からないのに。
作戦の内容は班長を眠らせ監視員がそっちに集中している間に廊下に出て、廊下にあるマンホールのような扉から地下に行き、そこから外へ出るというものだ。監視員は一つのことに集中すると他に目が行かなくなるという性質をもっていた。これは国がこんなだからだろうか。班長を眠らせる方法は一番難しかった。なんと言っても牢獄の中にあるものは限られているし、殴ったりしたらキズができてしまいすぐにばれる。だが、横山さんは、この牢獄に入るまでは医者をやっていたこともあり、薬などには詳しいタイプの人間だった。毎日、疲れているからというのもあるとは思うが夕食を食べた後に、急激に眠気が襲ってくる。ここに横山さんは目をつけた。眠気を誘う食材を探すために、少し日を空けながら食材を順々に残していった。するとある条件が見えてきたんだ。それは予想していたとおり、飲み物だった。何かの薬が混入していたんだ。そこからオレたちは横山さんが布団を切り裂いて作った特性の「ろ紙」を使って薬をこっそり抜いて飲んでいった。すると思ったよりも早い一週間で一握りほどの薬を越しだすことに成功した。それを乾燥させ、食材などを練りこみ丸めて団子状の物体を作り上げた。効き目はわからなかったが、おびえている余裕もない。チャンスは一度きりだ。オレたちはこの一つの団子に生命をかけたといっても過言ではなかった。
ついに作戦を実行する時が来た。昼食を食べ終え仕事に戻ってから、一時間ほどたった時、班長は空腹がまだ満たされていないようだった。それも計算のうちだった。
班長は少し太り気味で他人と比べても胃袋がデカかった。
その班長に向かって手を伸ばした。
「あの、これいかがですか?たくさんの食材を練りこんだ団子なんですけど。」
緊張で冷や汗をかいた。背中がびっしょりだ。なんたってこれで断られたら、そこで作戦が失敗になってしまうからだ。だが、心配する必要はこれっぽっちも無かった。
「ほ、本当にくれるのかい?やったぁ、本当に心から感謝だよ!」
そう言って手から勢いよく取り、ムシャムシャ食べ始めた。遠慮しなさすぎて、成功で喜ぶべきなのに何故かイラッとしてしまうほどだった。
まずは成功。だがしっかりと倒れてくれるだろうか。
五分後、急に班長の手が止まりこちらにゆっくり体を動かした。
「き…さま…ら…」
そう言って勢いよく地面に体を打ちつけた。幸いにも自分たちに向かって「貴様ら」といったのは、誰も気がつかなかったようだ。
「どうした~さっさと働け!!」
警備員がやってきた。
(シナリオ通り…)
心の中で小さくガッツポーズをした。計算どおり。よし今だ!二人はアイコンタクトで指示を出し合い、ゆっくりと動き出した。機械と機会の間を通り、人目を避けた。誰にも見られなかった。ここまでだけで本当に尋常ではないほどの冷や汗をかいていた僕らは廊下に出たとたん風が体に当たり、凍え死んでしまうほどの寒さにすら思えた。
廊下には出たものの、ここでつかまれば元も子もない。後には引けない。ゆっくりあたりを気にしながら右にカーブしている廊下を進んだ。
―――――――――――コツコツコツ
後ろから足音が聞こえる。もう目の前に扉はあった。急いであける。開いた!
「オイ君たち、何をしている!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」下に飛び降り中からふたを閉めた。
マンホールのような扉越しに監視員の声が聞こえる。
「おい!そこにいるんだろ!お前らはもう死ぬしかない。悪あがきはよせ!王の怒りを買ったらただでは死なせてはくれなくなるぞ!」
背筋が凍ったのと同時にオレたちは棒をはめ込みふたを開けられなくした。そして四つん這いにならないと通れないほどの小さなトンネルを進んでいった。
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