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緑降り

掲載日:2026/05/21

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ふ~、ようやくひと心地着いたって感じだねえ。

 ここのところ、仕事でカンヅメな状態が続いていたしなあ。やはり、外に出て緑色とふれあわないとだよ。

 そういえば、緑色といえば目に優しい色としてよく取り上げられるけれど、なぜだか知っているかい?

 ……うん、波長の影響だといわれているね。

 波長が長いほうが赤、短いほうが紫と認識され、人間にとっての可視光はその間で様々な色に見える。

 緑はその中でも中間的な位置に相当する色だ。どちらの側に極端に振れるわけでもなく、自然と目にかかる負担は少ないものになる。なにかと多いほうから少ないほうへ流れ、バランスを取りたがる自然の法則にのっとっているかもしれない。

 私個人としても緑は好きな色……と、言いたいところだけれども、あまりよくない思い出もあったりして、ちょっぴり複雑な気分にもなる。


 ――その話、興味がある?


 物好きだねえ、君も。本人としてはあまり気が進まないんだが……整理する意味でもいいか。


 あれは高校に通っているころの、5月だったかな。

 その日の午前中は空が晴れ渡っていたのに、午後に入るやどんどんと黒雲が湧いてきて、ほどなく大粒の雨が校舎を叩き始めた。

 幸い、外で行う予定だった授業はなく、みんなして教室で授業を受けていたのだけど、雨の勢いはますます強まる。しまいには、雷も鳴り出してしまった。

 雷は苦手な人は苦手だからねえ。空へとどろくや、身を縮こまらせてしまう子がクラスに何人もいた。ピカッとしてから鳴り出すまでの時間を測って、やれ遠いの近いのを語り出す子もいる。

 私としては音がどのタイミングで響こうと、光を観測できる範囲にいる時点で等しく危険だと思っているのだけどね。

 雷に打たれる人の死因は音ではなく電流で、電流の伝わる速さは光と同じと聞いている。

 距離的にたとえ地球の裏側へ逃げようと無駄だ。音はたまたま響く条件が整った箇所が鳴らしているのみだし、近い遠いでびびるより、電気の影響を受けない場所へ避難するのが肝要……とはいえ、好き嫌いに理屈はいらないのだが。


 降りも雷もゲリラ豪雨といったところで、一時間もするとすっかりおとなしくなったのだが、今度は新たな問題が浮上する。

 臭いだ。窓を閉め切っているにも関わらず、暑中に長く放置された水槽さながらのものに、生徒たちは顔をしかめざるを得なかった。それは授業をしている先生も同じで、終わりまでの時間でしきりに鼻をひくつかせていたよ。


 その日最後の授業だったこともあり、続いて清掃の時間となるのだけど、このときは特別だった。

 普段はあらかじめ決められた担当に分かれ、校舎の各所を掃除していくのだけど、この日は校舎内もそこそこに、多くの生徒が外掃除に駆り出された。

 理由は一目瞭然。雨が降る前はなんともなかった学校敷地内の各所に、水たまりのほか、緑色をした長い帯のようなものが散らばっていたからだ。

 身体に巻きつけるようなサイズを想像しちゃいけない。遠目には大蛇のそれと思わせるような、何メートルもうねった図体と大人二人分はあろうかという幅。

 雨水の残りがそこかしこで「てかり」を放っていたものの、それ以外の汚れなどをいっさい表面にとどめていない。ただし、例の特徴的な臭いがこいつらから放たれているのは間違いなく、みんなして鼻つまんだり、息を止めたりしていたよ。


 重さそのものはさほどでもなかったが、一人二人程度ではどうしても引きずる箇所ができてしまうので、軍手をした三人以上で捧げ持つような格好でゴミ捨て場へ連行していったよ。

 臭いが臭いだし、抱え込むような真似はしづらかった。ジャージに着替えているとはいえ、こいつがしみ込んだものは手元へ置いときたくないものだから。


「これは、天の排泄物のようなものだ」


 学校内で一通りの処理が終わったあとで、先生がそう話してくれた。

 人間が一日のうちに、様々なものを外へ出すように、天もまた外へ出す。その周期は人間のそれよりずっと長いから、毎日というわけではないようだが。

 空から降ってくるものの、空の排泄物ではなく天の排泄物とたとえるのは、科学的な知識ではかれない、不可解なものが混じっているためらしい。空では身近に感じられるが、天だとどこか遠くにあるニュアンスだと。

 あの集めたものに関しては、ゴミ収集の車が運んでいくものの、他のゴミのように処理場へは持っていかれず、どこかの研究所送りになるのだとか。いくらかお金ももらえるとのことで、臭いなどに目をつむれば臨時収入めいたもので、むしろありがたいのだと。

 私たちには、学校の食堂メニューが一時期、期間限定で豪華になる程度の還元だったのだけど、あれらはどうなるのかなあ……といまもふと考えたりするよ。

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