⑭ 式神ソルジャー
そんな、無限にも思えるような、ムサシとの鍔競り合いの後の事だった。
「早朝から、そんなところで、一体ナニをなさっているのです?」
出し抜けに玄関の方から声を掛けられたのだ。
それは貞子の祖母だった。
どうやら外出先から戻って来たらしい。
いつの間にか夜が明けつつあった。
「コレはどういうことかしら、ムサシさん?」
彼女にそう言われてカグヤが振り返ると、いつの間にか、ムサシが庭の地面に頭を着けて、平伏していた。
「申し訳無い。拙者が無理を言って、客人に試合を申し込んだ次第…。」
ムサシがそう言いかけたが…。
祖母が右手を一振りすると、彼は一枚のヒトガタの紙切れになってしまった。
祖母はソレを拾い上げながら、カグヤに話しかけた。
「お客人、アナタも座敷に戻りなさい。新しい帯を
あげましょう。」
そう言われたカグヤは、今更ながらに、はだけた着物の前を押さえた。
対戦相手なら平気なのに…自分の魅力アピールのために、むしろちょっと見て欲しいかも…見知らぬ年長の同性に、裸を見られるのは、人並みに恥ずかしいのだ。
座敷に戻り、帯を貰って落ち着いたところに、貞子と祖母がやって来た。
「この度は、ウチの式神が勝手なことをして、ホントにごめんなさい。」
顔を合わせるなり、貞子がそう言って頭を下げた。
「不用意に式神の聞こえるところで、武人や強者の話はするなと、あれ程言っておいたのにねえ。」
祖母が付け足す。
「あの式神、闘いが大好きで、毎日暇でウズウズしているのです。」
「はあ…。」
「ですから、少しでも強いモノノフの話が聞こえると、もう、居ても立ってもいられなくなるのですよ。」
「そう…なんですね?私は強いオトコを花婿候補にする、一族の者なんですけど、彼も候補に入れてあげたいくらい、魅力的でした。」
「残念ながら、彼は式神なので、生身の者の伴侶にはなれません。生まれ変わったら"江戸時代の剣豪になる"とか言ってますけど…。」
「…では、ソレを楽しみに待つことにします。」
カグヤがそう言うと、皆で笑った。
「さて、朝食の支度をしましょうかね。」
「あ、お祖母様、それは私が…。」
「貞子さんは、お客様のお相手をなさい。」
「…はい。」
この家では、祖母の言うことは絶対なのだ。
仕方無く、貞子は昨夜の話の続きをする。
「あの、サン・ジェルマンさんの下僕の方のお名前は、分からないんですか?」
「そうなんです。なんでも、厳しく秘密にされているらしくて…。」
「因みに、サン・ジェルマンさんご本人も、結構お強いんですよ。だって、さっきのムサシを調伏させて連れて来たのは、他ならぬ彼なんですから。」
「ええっ?そうなんですか。あのムサシを!?」
カグヤは心底驚いた。一体あの腕力を、どう押さえ込んだというのか?




