⑪ 二度目の時空ジャンプ
カグヤはイヨの頭に、ドローン操縦用のヘッドセットを着けてやった。
それはまるで、冠のように見えた。
「カグヤ様、カグヤ・イシュタル様。」
そう言いながら、イヨは涙ぐむ。
「ああ、初めて本名で呼んでくれたわね。そうよ。それこそが、私の本当の名前…そして今夜から、アナタが卑弥呼なのよ。」
次にカグヤは、首に着けた勾玉型デバイスと、腕輪型デバイスを調整して、時空ジャンプの準備を整える。
「時空ジャンプシークエンスに移行します。安全のため、関係者以外は離れて下さい。秒読みを開始します。10、9、8、…」
AIが喋り始めた。
「今までありがとう。弟さんと、祭宮を守ってね?」
「サヨナラ。お姉様!」
「…3、2、1…時空ジャンプ開始」
ヴン!という音とともに、その場からカグヤの姿は消えてしまった。
後には、ただ途方に暮れる"二代目卑弥呼"が残されるばかりであった。
次にカグヤが現れたのは、とある神社の鳥居の前だった。
彼女は、少し亜空間酔いをしてフラついたので、その場に片膝を着いた。
その姿勢のまま、デバイスで座標を確認すると、西暦1796年4月6日15時。場所は日本国京都府の下鴨神社だった。
最終目的地まで、残り200年程か?
「次のジャンプに必要な電力確保まで、24時間です。」
AIがそう告げるのが、聞こえた。
ふと視線を感じて顔を上げると、目の前に若い巫女が、心配そうにコチラを見ながら立って居た。
「あの…大丈夫ですか?」
その巫女が話しかけてくる。
どうやら敵意は無いようだ。
彼女から見ると、カグヤの姿は、随分みずぼらしく、顔色も悪いように感じたらしい。
「良かったら、ウチに来て休みませんか?」
"渡りに船"とはこのことだ。
カグヤはお言葉に甘えることにした。
その巫女に案内されて着いて行くと、すぐ近くの立派なお屋敷に辿り着いた。
「今日はたまたま、お祖母様がお出かけになっているので、ご挨拶が出来ませんが…あの、着替えを用意するので、お風呂に入りませんか?」
「ありがとうございます。そうさせていただけると、助かります。」
カグヤはそう答えた。
「ここのお風呂は、温泉掛け流しなんですよ。どうぞゆっくり浸かって下さい。」
そう言って風呂場まで案内すると、その若い巫女は出て行った。
カグヤがふと脱衣所の鏡を見ると、そこに映し出された自分の姿に、思わずギョッとしたのだった。
「ああ、どうやら、最後の船旅のダメージが大きかったのね。」
彼女は思わず、独り言を呟いた。
顔色は青黒く、竿頭着は随分、薄汚れて見えた。
「流石にこれは、哀れに思われるのも、無理からぬところね。何かしら、良からぬ不幸な目に合った直後のオンナのようにも、見えるわね。」
彼女は遠慮なく、服を脱いで風呂に浸かることにしたのだった。




