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撃たない国の戦争  作者: 霧島レイ
14/17

使われる火

宗教国家の声明から、三日が過ぎた。


世界は驚き、

一度だけ騒ぎ、

そして、落ち着いた。


それが、周辺諸国にとっての合図だった。



外務省。

非公開の連絡会。


各国の代表は、

一様に同じ言葉を使った。


「緊張が高まっています」

「誤解が拡大しています」

「偶発的衝突を避ける必要があります」


偶発的。

まだ、誰も衝突していない。



「宗教国家の発言は、

 確かに挑発的です」


周辺国Bの代表が、

慎重な口調で言う。


「しかし」


そこで言葉を切り、

資料を一枚めくった。


「彼らは、

 武力行使を宣言していない」


事実だった。


「国際法上、

 先制的対応は困難です」


それも、正しい。



「だからこそ」


別の代表が続ける。


「貴国が、

 安定を示す必要がある」


安定。

またその言葉だ。


「国内の緊張を下げ、

 外部への誤解を解く」


そのために

条件が添えられる。



「調停条件の、

早期受諾を」



会議室に、

重い沈黙が落ちる。


首相が、静かに尋ねた。


「それは、

 宗教国家への圧力になるのですか」


代表は、即答しなかった。


「……結果的には」


結果的。

便利な言葉だった。



保安庁のミナトは、

周辺諸国の動きを時系列で追っていた。

宗教国家の声明

周辺国の自制要請

調停受諾の圧力


「……火を見せて、

 消火活動を独占するつもりだ」


同僚が、眉をひそめる。


「火をつけたのは、

 宗教国家だろ」


「違う」


ミナトは、画面を指した。


「火を“使っている”」



別室。

周辺国Cの内部会議。


「島国が、

 条件を受け入れれば?」


「治安は、

 国際管理下に入る」


「受け入れなければ?」


「不安定国家だ」


答えは、

どちらでも都合がいい。



夜。


国際ニュース。


《周辺諸国、地域安定へ主導的役割》

《調停枠組み、最終段階へ》


宗教国家の名前は、

徐々に小さくなる。


代わりに使われる言葉。


《地域秩序》

《国際責任》

《安定供給》



国会。


“調整役”の政治家が、

ゆっくりと語る。


「今、

 我々が最も避けるべきは、

 “火の粉を被ること”です」


火の粉。

言い換えれば、宗教国家。


「火元を責めるより、

 延焼を防ぐ」


理性的で、

誰も反論しづらい。



保安庁。


ミナトは、

宗教国家の声明と

周辺諸国の提案書を並べた。


文言は違う。

立場も違う。


だが、

向いている先は同じ。


島国。



その夜。


宗教国家の地下施設。


側近が言う。


「周辺諸国が、

 動き始めました」


指導者は、

静かに頷く。


「当然だ」


「我々は、

 火を灯しただけだ」


彼は、淡々と言った。


「燃やすかどうかは、

 彼らが決める」



街は、

相変わらず平和だった。


だがニュースの言葉は、

確実に変わっている。


「宗教国家の脅威」から

「島国の対応」へ。


責任の矢印が、

静かに書き換えられていた。



ミナトは、

深夜の庁舎で独り呟いた。


「……使われてるな」


宗教国家は、

火を起こした。


だが今、

その火を囲み、

自分たちの秩序を描こうとしているのは、

周辺諸国だった。



この戦争に、

主戦場はない。


あるのは、

誰が“消火の名目”で

支配するかだけだ。

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