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撃たない国の戦争  作者: 霧島レイ
12/17

分断線

条件は、

まだ受け入れられていない。


だがすでに、

国は二つに割れていた。



最初に割れたのは、

政府ではなかった。


言葉だった。



朝の新聞。


一面の見出しは、同じ条件を扱っている。

だが語調が、まったく違う。


《理念を守るための苦渋の選択》

《主権を差し出す調停案》


どちらも、事実だった。



テレビでは、

討論が連日組まれていた。


「条件を拒否すれば、

 この国は孤立する」


「受け入れれば、

 もう自分たちで決められなくなる」


議論は、

結論に向かわない。


だが視聴者の感情は、

確実にどちらかへ傾いていく。



街頭。


署名活動が始まった。


「調停受諾を求める市民の会」

「主権を守る国民ネットワーク」


プラカードの文言は、

互いに相手を否定しない。


「守りたいものが違う」

ただ、それだけだった。



国会。


異例の長時間審議。


野党席から、

珍しく感情を抑えた声が上がる。


「この条件は、

 我が国の理念を守るための

 現実的な措置ではないか」


与党席から、

別の声が応じる。


「理念を守るために、

 国の判断権を差し出すのか」


議場は静かだ。

だがその静けさは、

折れない氷の音に似ていた。



“調整役”の政治家が、立ち上がる。


「我々は、

 国を二つに割るために

 政治をしているのではありません」


全員が、彼を見る。


「調停条件は、

 終わりではない」


一拍置く。


「始まりです」


その言葉が、

議場に深く沈んだ。



官邸。


非公開会合。


治安当局の代表が、

限界を口にする。


「現場は、

 これ以上耐えられません」


「何が起きれば、

 対応できる?」


首相が問う。


「……犠牲が出れば」


その言葉に、

誰も目を上げられなかった。



保安庁の分析室。


ミナトは、

国内情勢マップを更新していた。


色分けされた地域。

受諾支持

拒否支持

不明


境界線は、

宗教でも、所得でもない。


不安の濃淡だった。


「……線が、引かれたな」


同僚が言う。


「国境みたいだ」


ミナトは、否定しなかった。



夜。


宗教国家の地下施設。


指導者は、

島国の世論データを見ていた。


「美しい」


側近が、困惑する。


「何が、ですか」


「彼らが、

 自分たちで引いた線だ」


彼は、静かに言う。


「我々は、

 ただ待てばいい」



同時刻。


周辺国の会議室。


「受諾派が増えています」


「よし。

 次は“期限”だ」



深夜。


ミナトは、

自宅の窓から街を見下ろしていた。


灯りは、いつも通りだ。


だが彼は知っている。


この国はもう、

 同じ問いに同じ答えを出せない。


それでも、

国はまだ一つだ。


だが、

次の一歩で壊れる。



ニュース速報が、

静かに画面を横切った。


《調停条件、週内に判断へ》


期限が置かれた。


それは、

国に引かれた

最後の線だった。


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