失戀したら‐
〈蛇穴に入れば我が世も穴の中 涙次〉
【ⅰ】
*「猫nekoふれ愛ハウス」- 亡靈、岩坂十諺の管理する、保護猫を預かる施設である。客は、氣に入つた猫がゐたら、岩坂の許可を得て猫を連れて帰る事が出來る。但し、飼へなくなつた猫は受け入れしない。岩坂は無責任に猫を飼ふ事を、最も嫌つてゐた。それでなくても、この施設は新來の保護猫を溢れ返る程入所させてゐる。客は、お氣に入りの猫が見付かる迄、何度でもこゝを訪れる事が出來るし、單にこの場劃りの猫との触れ合ひをしたい、と云ふ人でもOK。場處が秩父と云ふ事もあつて、バイクのツーリングのついでに、珈琲を飲みがてら、猫とのひと時を樂しむ事が出來るので、「ふれ愛ハウス」は猫好きでバイク好きの人逹の、格好の溜まり場となつてゐた。
* 當該シリーズ第144話參照。
【ⅱ】
* 水智欣路との戀が不發に終はつた結城輪も、猫に失戀を慰めて貰はうと、この場處を度々訪れた。勿論、ヤマハ・トリシティ125でのツーリングがてら、である。岩坂の淹れる珈琲は美味しいし(元々岩坂は珈琲好きであつた)、食べ物も、よりすぐりのクッキーにケイキ、ピザトースト程度なら食べられる。珈琲カップはお氣に入りの日本全國の焼き物からセレクト出來る。それに、澤山の可愛い猫逹! SNSで冩眞入りのポストをした輪の影響か、段々と失戀したゲイの人が新たな戀を探すハッテンバ化した「ふれ愛ハウス」、何はともあれ、軌道に乘り、カンテラ、岩坂、胸を撫で下ろした。
* 當該シリーズ第136・137話參照。
【ⅲ】
で、ルシフェル。以前から目を着けてゐたと云ふ事もあるし、その成功も妬ましい「ふれ愛ハウス」、邪魔をしてやる、と持ち前の【魔】的精神が働いた。「ふれ愛ハウス」の猫逹は、皆蚤避けに、石田玉道の考案した蚤取り首輪を嵌めてゐた。それの精巧なレプリカを嵌めて、實は【魔】蚤をその身に飼つてゐる猫を、だうした彈みにか、入所猫の群れに混ぜる事に成功したのだ。
※※※※
〈意趣返しにぞ蛇卵二三ほど丸呑みにした夢見る啄木鳥か 平手みき〉
【ⅳ】
【魔】蚤は喰ひ付いたら、生半な事では除去出來ない。石田の蚤取り首輪を以てしても。然も色々な病氣を媒介する。岩坂は、最近猫逹が盛んに躰を搔くので、「もしや、蚤?」と氣にし出した。惡性の伝染病が、「ふれ愛ハウス」の猫逹に、瞬く間に蔓延した...(もしかして、【魔】では?)岩坂、カンテラに連絡。カンテラと岩坂が協働して、魔法を使つて【魔】蚤を祓つてみやう、と云ふ事になつた。岩坂、因みに元は魔導士である。
【ⅴ】
カンテラは、杉並の「方丈」から「修法」の魔術を電波化して送り、岩坂は「ふれ愛ハウス」内でその「修法」の術をキャッチ、魔法を使ひその効果を倍増させた- ルシフェルの【魔】蚤、敢へ無く全滅。猫逹は石田の醫療技術で、病氣を快癒させ、暫く閉鎖してゐた「ハウス」は再スタートを切つた。
【ⅵ】
「畜生!! ✕✕✕✕(罰当たりな言葉)」とルシフェル、呪つた。カンテラには、折角軌道に乘つた「ふれ愛ハウス」の成功を反故にし兼ねないこの【魔】的働き掛けは、ルシフェルのものに違ひあるまい、との思ひがあつた。「危ないところだつた!」-「それにしてもルシフェルが大將となつてから、魔界の動きが流石に活發化してゐる。氣を引き締めなくては」
※※※※
〈小鳥來て心の窓がさつと開く 涙次〉
因みに、「猫nekoふれ愛ハウス」の利用料は一回に付き¥1000-である(珈琲・食べ物は別料金)。會員になれば、スタンプ20ケで一回只になるサーヴィスあり。ゲイの皆さんには新宿二丁目のバアより大分お安いし、第一可愛い猫逹が出迎へてくれる「ふれ愛ハウス」は、温かい雰囲氣を堪能出來る。ゲイ界のしがらみを離れ、然も戀人探しが出來る!「マスター」と呼ばれる岩坂はにこにこと、今日も彼らを見守つてゐた。お仕舞ひ。
PS: 作者はノンケです。云ふ迄もないか・笑。




