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十二人の愚者と一人の勇者の物語

作者: 小雨川蛙

 

 街中で一人の吟遊詩人が語りだす。

 声色はこの世のものと思えない程に心地良い。

 事実、人々は足を止めて詩人の言葉が織りなす世界に浸っていた。



 あぁ。

 道行く人よ。

 聞いておくれ。

 十二人の勇者と一人の愚者の物語を。

 独りの愚者の永遠なる後悔の物語を。



 ***



 ずっと昔。

 十三人の子供達が共に暮らしていた。

 皆が孤児だ。

 故に支え合って生きていた。


 戦乱の世だ。

 それも人間相手ではなく、魔王によるものだ。

 人間の死者は星の数ほどに多く、それ故に彼らのような孤児も多かった。


 話を戻そう。

 十三人の子供達だがある時までは仲良く暮らしていた。

 しかしながら、魔王の人間世界への侵略が大きくなるにつれて彼らの生活もまたギスギスとし始めた。


 年長者達は毎晩のように何らかの言い合いをするようになり、それを少し下の年齢の者達が止めようとする。

 時には怒鳴り声や殴り合いにさえ発展することさえもあったが、それでも十二人が必死に何事かを話し合い続けていたのだ。


 そう。

 十二人。

 この話し合いからは一人がいつも省かれていた。


 それは最も幼い子供で、その子だけは話し合いに参加出来ず、それどころか近づくだけで怒鳴られ殴られる。

 ご飯も最低限しか与えられなくなり、皆から無視されるようになり、それどころか部屋に閉じ込められることさえあった。


「なんでこんなことをするのさ!」


 泣いても、叫んでも、訴えても何も変わらない。

 その子供は十二人を恨み続けた。

 しかし、十二人は変わらずその子供を無視し続けた。


 そんなある日。

 三人の子供達が家を出た。

 そして、二度と戻らなかった。


 その一年後。

 今度は四人の子供達が家を出た。

 そして、二度と戻らなかった。


 さらに一年後。

 残りの五人の子供達が家を出た。


 独り残された子供は他の子達が居なくなったのを確認して部屋を出ると、部屋中にどこから集めたのか大量の魔除けが貼られており、テーブルの上にはどこに隠していたのか硬貨の入った袋や精一杯集めたであろう食料が置かれていた。

 残された子供は何が何やら分からないままにぽつねんと立ち尽くすばかりだった。


 その子は独りで一年暮らした。

 日々、魔王の魔力が大きくなるのを人々は感じており、世界に絶望が漂うになってきた。

 やがてその子は魔王と戦おうと決心し旅に出た。


 その子は強く、魔王軍相手にもよく戦い人々は希望を取り戻すようになっていき、やがて人々はその子のことを『勇者』と呼ぶようになった。


 そんな勇者は魔王城の一室でかつて共に暮らしていた子供の一人と再会した。

 ――お互いもう子供という年齢ではなかったけれど。


「あなたは……」


 勇者の言葉を受けて見るも無残な姿となったその人物は目を開き、そして。


「……きちゃったんだ」


 言葉を落として泣き出した。

 おそらくは戯れに生かされていたのであろうその人は何故死んでいないのかが不思議なくらいの重傷を負いながら飾られていたのだ。

 勇者は駆け寄り回復魔法をかけようとしたが、その人は首を振ってそれを止める。


「ごめんね。あんなことをしちゃって」

「……死ぬ前に教えてください。何故、皆で私にあんな酷いことをしたのですか?」


 この問いをしてしまったことを勇者は生涯後悔し続けることになった。


「あなたが勇者だと皆知っていたから」

「え?」

「皆があなたを魔王と戦わせたくなかったから――だから、皆で魔王を倒そうとしたの。だけど」


 それ以上の言葉はその人から出てくることはなかった。

 ――勇者は今更になり、何故皆が自分を遠ざけていたのかを知った。


 過去に負ったどんな痛みよりも強い痛みが勇者の心を砕き、勇者はただただ慟哭するばかりだった。



 ***


 吟遊詩人は物語を結ぶ。



 あぁ。

 勇者は大義を果たしたとも。

 人々は勇者を閉じ込めていた十二人を愚者と呼んだ。

 だが、勇者はこう語る。


 本物の愚者は自分であったのだと。

 少し考えれば分かることを考えようともしなかった自分こそが愚者であり、自分を救おうと苦心していた哀れな程に美しい愛ゆえに死んだ十二人こそが勇者であったのだと。


 勇者はそう語り続ける。

 生きている限り語り続ける。


 あるいはきっと、永遠に。



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