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短小騎士シミュレーター

作者: 秋乃晃

 詳細は省くが、朝の来ない世界だ。


 窓の外は真っ暗闇。前が見えねえ。そしてここは、この世界で唯一の明るい場所。


「この三人から好きな女の子を選ぶのじゃ」


 床に敷かれたヨガマットの上で正座させられている僕。目の前には、サイアクなオーキド博士がいる。ビジュアルがサイアクすぎて、できれば言葉にしたくないが、この文章を読んでいるみなさまは視界ジャックを使えないので、見ている僕が言葉にしないと伝わらない。


 サイアク博士は逆バニーの衣装を着ていた。逆バニーというのはその、バニーガールの衣装の逆だ。隠れていなければならない場所を露出させている。


「選ぶのじゃって、言われましても……」


 僕がこの世界で目覚めたとき、まずサイアク博士から「やあ!」とあいさつされた。やあ、じゃないが。


 もちろん、僕は逃げ出した。不審な格好をした老年男性に陽気なあいさつをされたら、誰だって怖くなって逃げ出すだろう。僕がもし筋骨隆々のマッチョマンだったり、腕っ節に自信のある格闘家だったりしたならともかくだ。


 扉を開け、外の世界に踏み出した。が、地面がどこにもなく、僕の身体は瞬く間に漆黒の闇に抱擁される。意識を失った僕は、最初の位置(※ヨガマットに仰向けで寝かせられている状態)に戻っていた。地面どこー?


「そうじゃな。()()()()()には、相性というものがあるからの」


 ()()()()()

 僕はその言葉に、生唾をごくりと飲み込んだ。


 サイアク博士曰く、僕はこの世界を救う騎士(ナイト)らしい。言われてみれば、確かに、僕は白銀の甲冑を着せられている。コスプレかな?


「ねえ」


 三人の女の子のうちの一人、魔女の格好をした女の子がおずおずと話しかけてきた。この服装も、なんだかコスプレっぽい。頭にはベール。紫色のローブは肌が透けていて、胸部装甲が特に薄くできている。


「覚えてない? ――あの日の、約束」


 この子は、幼馴染みのマキちゃんに似ていた。


 中学二年生の夏休み。二人で行った近所の夏祭り。


 ふわふわと浮ついた気持ちになっていた僕はマキちゃんから「お引っ越しすることになったんだ」と告げられている。太鼓の音が、遠くに聞こえた。


 マキちゃんとは、それっきりだ。


「なんだっけ……」


 マキちゃんも僕と同じように年を取っているだろうに、顔は記憶している顔と同じだ。僕が片思いしていた、あの頃のマキちゃん。最後まで言えなかった『好き』というセリフ。


 約束、ってなんだろう。ちっとも思い出せない。まさか、おままごとで「けっこんしよう!」「うん!」と言ったときのことじゃあるまいし。


「少年は、覚えていないようねえ?」


 右にマキちゃん、左には三人の女の子のうちの一人。女の子……?


「おねえさんも『女の子』よ?」


 うふふ、と妖艶な笑みを浮かべる『女の子』は、僕より年上のおねえさんだ。おねえさんはセクシーな踊り子の衣装を身にまとっている。


「私を選んでくれるわよね。ダーリン?」


 僕の二の腕が胸に挟まれた。右側のマキちゃんが「ぐぬぬ……」とうなっている。生まれて初めての()()()()状態だが、花同士がバチバチとにらみ合っていた。


「はう」

「あうっ!」


 三人目。ツインテールでシスターの格好をした小さな女の子が、正面から、僕の下半身に抱きついてくる。僕の慎ましやかな【男の象徴】が、防具越しに刺激された。


「きみと、せっくすする」

「しません!」


 マキちゃんは、まあ、同い年だし、合意は取れそうだからいいとして。

 おねえさんも、向こうからの猛烈なアピールを受けているからいいとして。


 このロリはダメだろ。


「このものがたりのとうじょうじんぶつは、すべてじゅうはっさいいじょうです」

「ウソだッ!」

「ほんとうです」


 ダメだろ……。


「ほっほっほ。三人のうち、一人を選ぶのじゃよ」


 サイアク博士曰く、この三人のうちの一人をパートナーとして選んで、別室で(※さすがにサイアクオーキド博士や選ばなかった残り二人の前で、ということはなかった)性行為に励むと、なんとびっくり、周辺の闇が取り払われて、この世界に闇をもたらした魔王を討伐するための道が切り拓かれるのだとか。


 これは選ばれし騎士である僕と、多くの女の子の中から選び抜かれた三人の女の子ではないとできない。と、サイアク博士は教えてくれた。原理はサイアク博士にもわからないらしい。サイアク博士はスマホの『ChatGPT』の答えを信じている。


「選ばれなかった二人は、どうなるんです?」

「ワシが預かる」

「……ええと、三人ともは選べないんですか?」

「童貞のくせに4Pとは生意気な」


 いや、博士に明け渡したくないですし。三人ともイヤそうな顔をしていますし。


「早く選ばないと、取り返しのつかないことになるぞい」

「といいますと」

「この研究所も闇に飲み込まれるのでな」


 サイアク博士が指差した先、研究所の片隅が黒ずんでいる。掃除していないからじゃなかったのか。


「さあ、騎士よ。選ぶがよい」


 選ぶがよい、と言われたって困る。僕にも『ChatGPT』に相談させてほしい。


「ちょっと待って」


 僕はスマホを取り出した。サイアク博士がスマホでAIに相談したのなら、僕もスマホを持っていないとおかしい。甲冑を着せられているような世界観だから、てっきりスマホはないのかと思っていたら、あったわ。あるんかい。


「マキちゃんってさ、結婚していなかったっけか」

「えっ」

「よしっ」


 マキちゃんが「えっ」と言い、おねえさんが「よしっ」とガッツポーズした。そうだそうだ。実家に結婚式の招待状が届いた、って、母親からラインで送られてきている。学生結婚なんだね、と話をした。マキちゃんは、僕の現在の住所を知らないから、実家に送ったほうが確実だもんな。


「おねえさんもダメですよ」

「……どうしてぇ?」


 屈んで上目遣いになったってダメなものはダメです。


「僕が起きなきゃ」


 ラインを見て、思い出した。昨晩の僕は、()()とラブホテルに入ったんだ。そう、僕には彼女がいる。大学のサークルで出会った彼女だ。


 彼女とは趣味も話も合うし、あちらのご両親とも釣りに出かけたし、周りからも「いいカップルじゃん」なんて言われるし、きっとこれからも上手くいきそうで、


『すごぉい……ネコちゃんのおちんちんみたぁい……❤️』


 彼女は僕のズボンを脱がせ、股間にぶら下がるモノを見て、こう言った。


 彼女の実家には、大きな茶トラがいる。彼女が小学生の時に親戚から「増えちゃったから」と譲り受けたオスのネコ、らしい。写真を見せてもらったことはあるが、本人(ネコ?)とは会ったことはない。


 その後の記憶もない。


「僕にとっての太陽は、彼女だから!」


 目を覚ませ、僕。

 この世界を救うより先に、やるべきことがあるだろ!


「起きろ僕!!!!!!!!!!!!!!!」


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