第三章 闇の境界 ― 異空間の秘密
その夜、五人は街外れの古びたビルの一室――彼らの“隠れ家”に集まっていた。
外ではネオンがまだ瞬いているが、この部屋の中は暗く、ランプの炎が壁にゆらめく影を作っている。
ヨシロウは、床に胡座をかきながら、深く息を吐いた。
「……助けてやったのに、あの目だ。まるで化け物を見るみてぇだった」
拳がゆっくり握りしめられる。
ミオは膝を抱え、首を横に振る。
「おかしいんじゃない。…怖いんだよ、この時代の人は。信じるより、疑うほうが先にくる。そうしないと、ここでは生きていけない」
その声は静かだが、胸の奥にずしりと響く重さがあった。
少しの沈黙のあと、アヤメが躊躇いがちに口を開いた。
「……あのね、この間…異空間の入口、また見つけたの」
その瞬間、全員の動きが止まった。
「なにっ!?」タケルの声が一段高くなる。
「どこでだ?」ヨシロウの瞳が鋭く光る。
アヤメが案内したのは、繁華街の地下駐車場だった。コンクリートの壁が無機質にそびえ、遠くで自動販売機が低く唸っている。人の気配はなく、空気はひんやりと冷たい。
彼女が足を止めたのは、最も奥まった暗がりだった。そこには、空間がゆらりと歪んだような、黒い裂け目が浮かんでいた。
「ここ…あの日と同じ匂いがする」タケルは思わず腕をさすった。湿った土と、焦げたような匂いが鼻をつく。
ミオが慎重に裂け目に近づき、縁にそっと指先を触れる。
「……固定されてない。揺れてる。こっち側と向こう側が、まだはっきり繋がってない」
声は低く、しかし緊張感を隠しきれなかった。
ヨシロウはすでに刀を抜いていた。刃がランプの光をわずかに反射する。
「確かめる。向こうに何があるか――」
一歩、踏み出そうとしたその瞬間だった。
――低く、どこか人の声とも思えない音が闇の奥から響いた。
《……戻るな……》
ぞわり、と五人の背中に冷たいものが走る。
「誰だッ!」カズマが声を張り上げた。
しかし返事はない。
裂け目は、まるで最初から存在しなかったかのように、音もなくすうっと消えた。
残されたのは、湿った空気と、胸の鼓動の音だけ――。