第二章 交錯する刃 ― 現代の事件
令和の夜――。
街は、無数のネオンが川のように流れ、赤や青や紫の光が空気を染めていた。ビルの谷間には車のライトが線となって走り、音楽や人の声がごちゃ混ぜになって響く。
五人はその光景を、冷たい風の吹くビルの屋上から見下ろしていた。
「うわぁ…人が蟻みてぇだな。…いや、祭りの夜みたいだ」
タケルが目を細める。
「祭り…か。けど笑ってねぇ祭りだな」ヨシロウが低くつぶやく。その目は鋭く、ただの見物人ではない視線だった。
下の通りでは、二人の若者が激しく言い争っている。
「お前ふざけんなよ!」
「そっちこそだ!」
言葉はすぐに拳へと変わり、殴り合いが始まった。周りの人々は、止めるどころか、スマホを構えて面白がるように撮影している。
「なんだこれ…芝居じゃねぇのか?」カズマが眉をひそめる。
「いや、本気だな。だが誰も止めない…」ミオの声は沈んでいた。
そのとき――
甲高い悲鳴が夜を切り裂いた。
「ひったくりだーっ!」
通りを駆け抜ける黒いパーカーの男。肩からぶら下げた女性のバッグが大きく揺れている。
「任務だな」ヨシロウの手が、反射的に刀の柄を握る。
「おいおい、ここは江戸じゃねぇんだぞ!そんなもん抜いたら即お縄だ!」カズマが慌てて止める。
だがヨシロウは一瞥しただけで、もう動いていた。
「行くぞ」
次の瞬間、彼の姿はビルの縁から消えた。風がひゅっと鳴り、影が地面へと落ちる。
「待てッ!」
路地を走る男の背後に、いつの間にかヨシロウが立っていた。
忍び足で間合いを詰め、すばやく足払い――。
ひったくりは派手に転がり、バッグが宙を舞って持ち主の足元に落ちた。
しかし――
「やべぇ、あの人…刀持ってるぞ!」
「警察呼べ!やべぇ奴だ!」
返ってきたのは感謝の言葉ではなく、恐怖と混乱のざわめきだった。
遠くから、パトカーのサイレンがけたたましく近づいてくる。青と赤の光がビルの壁に反射して瞬いた。
「まずい…退くぞ!」ミオが鋭く叫ぶ。
五人は影のように路地裏へ消え、ビルの谷間の闇に紛れた。
夜の街は、何事もなかったかのように再び光と音を取り戻す
ただ、彼らの胸には、奇妙なざらつきだけが残っていた。