葛藤
夜の公園。
街灯の明かりが地面に長い影を落とし、五人の顔を静かに照らしていた。
遠くから車の音が途切れ途切れに聞こえる。人の気配はないのに、どこか息苦しい空気が漂っていた。
沈黙を破ったのは、カズマだった。
「……なあ、オレたち、このままじゃ……現代に染まっちまうのか?」
その声は、投げつけるように低く、どこか焦っていた。
「ほら、なんでもすぐ手に入るだろ。情報も音楽も、映画も、全部スマホ一つで。便利すぎて、江戸の暮らしがだんだん遠く感じるんだよ」
ヨシロウがゆっくり顔を上げ、低く唸るように言った。
「便利さは……甘い毒だ。いったん慣れりゃ、もう戻れねぇ。気づいたときには、心まで錆びちまう」
「そんな……」ミオが眉をひそめ、手をぎゅっと握りしめる。
「でも……」アヤメが震える声で言葉をつなぐ。
「この時代の人たちに……笑いを取り戻してほしい。だって、こんなにいろんな“便利”があるのに、みんな、ぜんぜん笑ってないんだもん……」
彼女の目には、うっすら涙が光っていた。
ミオはその涙を見つめ、静かに言った。
「やさしさを忘れたら……人は忍びより闇に落ちる」
その言葉は夜の空気よりも重く、五人の胸に深く沈んでいった。
「じゃあ……どうする?」タケルが全員を見渡す。
「もちろん……やるしかねぇだろ」ヨシロウが短く答える。
「何を?」カズマが少し笑って聞き返す。
「決まってるだろ。現代人に、ちょっとずつでも笑顔を取り戻させるんだ」タケルの声は、いつもより力強かった。
五人は互いに顔を見合わせ、そしてゆっくりとうなずき合った。
――決まりだ。