闇の迷路
そこは――音も光も、なにもない世界だった。
耳をすませても、風の音すらしない。まるで世界全体が息をひそめているようだった。
「……おい、見えねぇ。ほんとに何も見えねぇぞ!」
ヨシロウの声が、重たい闇の中にぽつんと響く。
「手ぇ、離すなよ!絶対だぞ!」
その声には、普段の威勢の良さとは違う、少しだけ震えが混じっていた。
アヤメが小さくつぶやく。
「……こわい……ほんとに、どこなの、ここ……」
その声は消え入りそうで、ミオはすぐにアヤメの手をぎゅっと握った。
「大丈夫、大丈夫だよ。ほら、私いるから。怖くない……いや、ちょっと怖いけど!」
思わず最後に本音が出てしまい、アヤメがかすかに笑う。
タケルが後ろからぶつぶつとつぶやく。
「おーい、これ、ほんとに前に進んでんのか?同じ場所ぐるぐる回ってる気が……」
「うるさい!そんなこと言うな!」とカズマがすぐにつっこむ。
「だってよ、何時間歩いてんだよこれ。何日かもわかんねぇし……」
「……腹減った」
「今それ言う!?」
小声でのやり取りに、ほんの一瞬だけ、闇の中に笑いがこぼれた。
それでも、重く湿った空気は肌にまとわりつき、足元はずっと冷たくぬかるんでいる。
音といえば、自分たちの足音だけ。それが延々と続く。
どれくらい歩いたのか――一時間?一日?それとももっと?
感覚はすっかり狂ってしまっていた。
そんなときだった。
「……あれ?」
先頭を歩いていたタケルが、不意に足を止めた。
「なに?なんかあった?」とヨシロウが聞く。
「お、おい!光だ!」
タケルが震える指で前方を指さす。闇の奥に、ほんの小さな、けれど確かな光がぽつりと浮かんでいた。
「まさか……出口かもしれねぇ!」
「うそ、ほんと!?」アヤメが息をのむ。
「行くぞ!」
五人は一斉に駆け出した。長く冷たかった空気が、少しずつ暖かく変わっていくのを感じながら――。
そして、その小さな穴をくぐり抜けた瞬間――。
世界は再び、光を取り戻した。