第七章 異空間の真実
夜の街の灯りを背に、五人は再び地下駐車場へと足を踏み入れた。
冷たいコンクリートの壁が湿り気を帯び、靴音が不気味に反響する。
空気は重く、まるで深海に沈んでいくような圧迫感があった。
駐車場の奥、闇の中に――それは口を開けていた。
漆黒の裂け目。
まるで世界がそこから飲み込まれようとしているかのように、闇がゆらめき、低い唸り声のような音が響いている。
「……来ちまったな」カズマが息を呑む。
「怖気づくなよ」ヨシロウが横目で笑ったが、その手の刀はしっかり汗で濡れていた。
裂け目の奥から、ゆっくりと人影が現れた。
黒装束の忍びたち――十人、いや、もっといる。
その全員が冷たい瞳をして、刃を構えている。
先頭の忍びが声を張り上げた。
「この時代は腐っている! 欲にまみれ、弱者は切り捨てられる! 我らが支配し、新たな秩序を築くのだ!」
別の忍びも叫ぶ。
「お前たちの情けは毒だ! 甘さが国を滅ぼす!」
その中央に、一際堂々と立つ男がいた。
アヤメの足が止まり、目が大きく見開かれる。
「……父上?」
男はゆっくりと面を外し、厳しい顔を見せた。
「アヤメ……お前たちは甘すぎる。情けは人を弱くする。守るべきは強さだ」
アヤメが何か言いかけたが、ヨシロウが一歩前に出た。
刀を抜き、父の前に立ちはだかる。
「弱くなんかねぇ! 情けがあるから人は立ち上がれるんだ!」
ミオもその横に並んだ。
「この時代には希望がある。それを壊させない!」
彼女の目には涙と怒りが混じっていた。
闇の裂け目が低く唸りを上げ、まるで呼応するかのように風が巻き起こる。
駐車場の蛍光灯がチカチカと瞬き、影が歪む。
「……来るぞ!」タケルが叫んだ。
次の瞬間、忍びたちが一斉に飛びかかってきた。
刀と刀がぶつかり合い、甲高い音が耳をつんざく。
火花が散り、闇の中に一瞬だけ閃光が走った。
「カズマ! 後ろ!」ミオが叫ぶ。
「任せろ!」カズマは現代で覚えたバッティングフォームで、金属バットを一閃。
鈍い音とともに忍びが吹き飛ぶ。
「……やっぱこれ、刀より当てやすいな!」
ミオはポケットから催涙スプレーを取り出し、飛びかかってきた忍びの顔に噴射した。
「現代の武器、甘く見ないでよ!」
タケルとヨシロウは息を合わせ、二人で父の左右から斬り込む。
しかし父は軽やかにそれを受け止め、逆に押し返す。
「やはりお前たちはまだ迷っている」
「迷ってるんじゃない!」アヤメが叫び、父の前に飛び出す。
「強さも情けも、両方あってこそ本当の力になるんだ!」
その言葉と同時に、カズマのバットが父の足元を打ち、ミオのスプレーが視界を奪う。
隙を突き、ヨシロウが刀を振り下ろした。
刃が火花を散らし、父は初めて後退する。
忍びたちがざわめき、互いに視線を交わした。
そして――一斉に裂け目の奥へと飛び込み、闇に消えていった。
残されたのは、荒い息を吐く五人と、静かに渦巻く裂け目だけだった。
誰も口を開けず、ただその闇を見つめていた。




