じしん
――ごおおおおおっ!
地面の奥から、獣がうなっているような低い音が響いた。
「ち、地震だぁ!」
尾張国の忍びの里、、、
稲刈りを終えたばかりの秋の夕暮れ。黄金色の田んぼの向こうで、真っ赤な夕陽が山の稜線を染めていた――はずだった。
だがその静かな景色は、一瞬で壊れた。
「わっ!」
稲穂を束ねていたタケルの手から、藁がばさりとこぼれ落ちる。
アヤメは顔を青くして、両手を耳に当てた。
「やだ!やだやだ!なにこれ、揺れてる!」
「みんな、こっちだ!山のほうへ!」
ヨシロウが大声を張り上げた。その声は地鳴りに負けじと響き、仲間たちの足を動かす。
しかし――。
山道の先で、彼らは足を止めた。
そこには、見たこともない光景が広がっていた。
「……え?これ……なに?」
カズマが呆けたように口を開けた。
地面の真ん中に、黒い裂け目がぽっかりと口を開けている。
風もないのに、裂け目からは渦を巻くような黒い煙がもくもくと湧き出し、空へと吸い込まれていく。
まるで空そのものが、布みたいに破れてしまったかのようだった。
「な、なんだあれ……!?」
カズマが一歩、後ずさったその瞬間――足元の土がずるりと崩れた。
「うわっ、足が!」
「カズマ!」
ヨシロウが手を伸ばすが、間に合わない。
「ひゃあああああっ!」
アヤメの悲鳴と同時に、五人全員の足元が沈むように崩れていった。
「わああああっ!お、おれ落ちるー!」
「誰かー!って無理かああ!」
「アヤメ!手、つかま――わっ!」
叫び声が重なり、全員が黒い闇へと引きずり込まれていく。
冷たい風が耳元を切り裂くように吹き、視界は一瞬で真っ黒になった。
――そして、世界がひっくり返った。