異世界編 Episode X+15:記録に映る“もう一つの一花と二葉” ― 分かたれた未来 ―
異世界編
Episode X+15:記録に映る“もう一つの一花と二葉” ― 分かたれた未来 ―
連の手の中にある本が淡い光を放ち、ページがめくられていく。
そこに現れたのは――
――別の世界の、一花と二葉。
彼女たちは今より少し成長していた。
けれどその瞳は、どこか寂しげで、哀しみに満ちていた。
一花は、大人びた笑顔で画面の中の“連”に語りかけていた。
『ねえ、覚えてる? 昔、私たちに言ったこと。』
『大きくなったら、お嫁さんにしてくれるって。……あれ、本気にしてたんだよ?』
次のページでは、二葉が頬を膨らませながらも、涙を浮かべていた。
『お兄ちゃんは、いつも優しくて、私たちのこと、ちゃんと見てくれてた。』
『……でも、ある日、急にいなくなった。』
一花と二葉の視線が、まるでこの世界の連へと向けられているかのようだった。
『それでも、ずっと願ってた。お兄ちゃんが戻ってきてくれるって。』
『そしたら、もう一度ちゃんと言いたいの。――私たち、お兄ちゃんのこと、ずっと好きだったって』
連は言葉を失っていた。
画面の中の一花と二葉は、“この世界”の二人とまったく同じ顔。けれど、
彼女たちは、連と再び会うことは叶わなかったのだ。
「これって……別の未来、なの……?」
一花が小さく呟いた。肩を震わせている。
二葉は目を伏せながらも、ぎゅっと連の腕を掴んでいた。
「この世界の“私たち”は……お兄ちゃんと、離れないでいられて、よかった……」
連は二人の肩を抱き寄せた。
胸の奥が、張り裂けそうだった。
「……そうだな。あの時、俺たちの願いが――叶えられて、本当によかった」
この世界に来た意味。
この世界で、3人が結ばれた意味。
それは、ただの偶然ではなく。
“叶えられなかった想い”が生んだ、もう一つの奇跡だったのかもしれない。
――そっとページが閉じられる。
その記録は、静かに元の場所へと戻っていった。
それを見届けた連は、穏やかに微笑みながら言った。
「……ありがとう。忘れないよ。そっちの世界の“一花”と“二葉”のことも」
「だけど――俺は、この世界の一花と二葉と、共に生きる」
紅い紋章が微かに光を放ち、三人の足元に新たな光の道が開かれていく。