【第3話】仮面の妹たち
『外ヅラと本音と、放課後のご褒美』
「ふーん……あの子たち、双子なんだってさ」
「名前、一花ちゃんと二葉ちゃんだって。かわいいよね~」
大学の昼休み、キャンパスのベンチに腰を下ろした連は、すぐ横の女子たちの会話に耳をそばだてた。
(一花と二葉のことか……)
妹たちは、今日から転入先の高校へ通い始めていた。
連の母校でもあるその高校は、今も駅前から歩いて20分以上ある坂道の上にある。
朝、家を出るとき――
「いってきまーす、兄貴っ!」
「……いってきます、兄さん」
笑顔を浮かべて手を振った二葉と、少し照れくさそうな表情の一花。
家ではあんなに甘えてくるくせに、二人とも外では妙によそよそしい。
(まぁ……俺の立場を考えて、ってことなんだろうけど)
少し、寂しかった。
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放課後。
連は、大学の授業を終えて帰宅する途中、ふと高校の校門前を通った。
ちょうど、下校の時間帯だった。
すると――
「えへへ、それって褒めてくれてるのかな?」
声が聞こえた。聞き慣れた、明るい声。
(……二葉?)
塀越しに、覗いてみると、そこには制服姿の二葉が。
男子数人に囲まれて、にこにこと笑っている。
「え、二葉ちゃんってお兄さんいるんだ?」
「うん、いるけどぉ~……ひ・み・つ♪」
(……こいつ)
連の胸が、妙にザワついた。
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その夜。夕飯のあと。
「……兄貴、さっき見てたでしょ?」
いきなり、二葉が連の部屋に入り込んできた。
部屋着に着替えたその姿は、柔らかな雰囲気で……でも、どこか拗ねたような顔。
「べ、別に。たまたま通りかかっただけだし」
「ふーん……じゃあ、“誰かと仲良くしてるとモヤモヤする”のは、なんでかなぁ?」
「……っ!」
図星だった。
「ねぇ、兄貴。外ではそっけなくしてるけど……二葉、ずっと兄貴だけ見てるんだよ?」
ぴと、と寄ってくる。布団の上に膝を立てて、連の胸元に額を預ける。
「……ずっと、あの約束を信じてたんだから」
「……二葉」
「だから――」
そっと顔を上げて、いたずらっぽく笑う。
「明日はもっと甘やかしてくれなきゃ、ふてくされるのだ~♪」
連はただ、何も言えずに頭を撫でるしかなかった。