【第2話】再会と約束の記憶
『“およめさん”体験』
> 一花と二葉が連の家にやってきて数日。
ぎこちないながらも、3人の共同生活が始まった。
朝食を囲む食卓で、ある一言がすべてを呼び覚ます――。
「はい、兄貴っ。今日の朝ごはんは、ふたばが作ったのだ~!」
キッチンから軽やかに運ばれてくる、卵焼きとお味噌汁の香り。
目玉焼きの焼き加減も絶妙で、思わず箸を止めたくなるような出来映えだった。
「お前、意外と料理できるんだな」
「ふふん♪ だてに“およめさん体験”してないのだ」
「……は?」
箸を止めた連に、二葉がにこっと笑いながら言った。
「だ・か・ら~! 今日は“兄貴のお嫁さん”体験の日なのだっ!」
「ちょ、何言ってんだお前……」
「じゃあ明日は私?」
ぽつりと呟いたのは、一花だった。
湯気の向こう、まっすぐな視線が連に刺さる。
「……私も、練習しようかな。お嫁さんの」
「お、おいおい……」
冗談だと思いたかった。けど、二人とも妙に真剣な顔をしている。
不意に、頭の奥がチクリと痛んだ。
(――ゆびきり、する)
あの日の記憶が、ふわりと浮かび上がる。
(そうだ……俺、言ったんだ。“大きくなったら、どっちかをお嫁さんにする”って――)
「……っ!」
言葉に詰まり、味噌汁の湯気を前に目を伏せる。
一花と二葉は、互いに目を見合わせて、ふっと笑った。
「……ちゃんと覚えてたんだね、兄さん」
「ふたばたち、ずっと待ってたんだよ?」
「お、おまえら……」
「……冗談で済ませていい約束じゃなかったんだよ。私たちにとっては」
二人の瞳が、まっすぐに、連を射抜く。
もう、逃げ場なんてなかった。