心を二十万で売る
心は最低でも二十万で売れる。
その事実を知ったとき、私は即座に売った。
心を。
二十万で。
高いのか。
安いのか。
わからない。
わかりたくもない。
わかっても……。
どうしようもない。
心を売った翌日。
体が軽かった。
21グラムぐらい。
それがなにを意味するのか。
私は考えられない。
朝ごはんを食べた。
お母さんの手作りだ。
味覚はあるのに、愛情を感じない。
美味しいのに……。
感情が湧き出てこない。
そうか。
心を売ったからだ。
表情を動かしてみた。
でも、心は動かない。
それを皆は気づいているのだろうか。
純粋に気になった。
朝登校してみる。
いつもは憂鬱な気分なのに、なにも感じない。
これは利点かもしれない。
今日の朝もスムーズだった。
そう気づいた。
友達と会話をする。
いつもなら笑える冗談も。
相手の気持ちを知るのも。
自分の話のターンになっても。
なにも話せなかった。
いつもどおり話せる内容も。
伝え方がわからない。
これは不便だ。
そう考えた。
なにも感じないのは、考えが進む。
というかそれしかすることがない。
やりたいことがなにもなくなった。
もともとあったかもわからない。
「あんた、行きたいって言ってたコンサートは?」
「どうしたの?」
母の声がする。
耳をすり抜けていくようだった。
まるで当然のように。
コンサート?
そのために心を?
私は答える。
「金の無駄。」
母は、驚いていた。
まるで怪奇を見ているような目だった。
なにも言えない様子だった。
けど、なにも思えなかった。
先生にやれと言われた勉強をしてた。
糸で繋がっていたように、するすると頭に入る。
考えも捗る。
でも、どこか体に穴が空いている。
そんな感覚がした。
このまま進んでいくしかない。
手元には二十万円。
魂は大体21グラムだ。
ちょうど同じぐらいだな。
足りないものは補った。
だが、まだ穴は空いている。
それでも私は歩き出す。
暗闇に向かって。
まだ見ぬ景色を目指して。
そこが希望が絶望か分からないまま。