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そんなに私が邪魔ならば出て行ってあげますよ〜身内や婚約者から華がないからと冷遇追放された花族の令嬢はまるで咲き誇る棘が喉に刺さったような気持ちで流される〜

作者: リーシャ
掲載日:2025/09/15

春の光が優しく降り注ぐ、花々が息をのむほどに美しく咲き誇る世界。


私はこの世界に、花族の令嬢として転生した。


(私の扱い、最低だなぁ)


前世の記憶を持ったまま、華やかな一族の一員となったのだ。


しかし、その境遇は決して恵まれたものではなかった。


「役立たずの出来損ない」


幼い頃から、そう呼ばれてきた。


なぜか?


美しい花を咲かせることが得意な花族の中で、私の生み出す花はどこか不格好で、色もくすんでいたからだ。


(くっだらない)


兄や妹たちは才能にあふれ、一族の期待を一身に集めていた。


だが。


両親もまた、己には冷淡だった。


思っていたよりも、ずっと酷かった。


一族の汚点であるかのように扱う。


(まあ、いいわ。どうせこの世界は仮の宿。適当に愛想笑いでも浮かべていれば、そのうち元の世界に帰れるかもしれないし)


心の中で舌を出しながら、表面上は従順な娘を演じていた。


美しい着物を身につけ、優雅な物腰で微笑む。けれど、その奥底では常に冷めた目で周囲を観察していた。


婚約者がいるのだが、それもまた煩わしい。


ある日、一方的に婚約破棄を言い渡された。


相手は、隣国の王子。


我が一族の勢力拡大のために決められた政略結婚だった。


「お前のような醜い花しか咲かせられない女が、王家の妃に相応しいはずがない!」


婚約者の冷酷な言葉が、私の胸に突き刺さる。


両親はといえば、「当然だ」とばかりに頷いているので、彼らからすると当たり前らしいけど。


(ふざけるな。私だって、こんな醜い花を咲かせたくて咲かせているわけじゃない。あんたたちの遺伝子が悪いんじゃないの?)


もちろん、そんな本音を口に出すはずもない。


「かしこまりました」


と、深々と頭を下げ、彼らの決定を受け入れた。


数日後、一族から追放された。


理由は、婚約破棄の責任を私一人が負うというもの。


わずかな荷物と、いくらかの金銭を与えられ、見慣れた屋敷を後にした。


(せいぜい、優秀な子供たちと仲睦まじくやっていくといい。私がいなくなれば、邪魔者はいなくなるんだから、さぞかし清々するよね)


心の中で悪態をつきながらも、足取りは意外なほど軽かった。


ようやく、あの息苦しい場所から解放されたのだ。


あてもなく歩き続けるうちに、私は深い森に迷い込んでしまった。


夜になり、冷たい風が吹き付ける。心細さに押しつぶされそうになった時、一匹の黒猫が私の前に現れた。


「ニャー」


その猫は、どこか寂しげな瞳でこちらを見つめていた。


思わず、その小さな体を抱き上げる。


「あなたも、一人ぼっちなの?」


猫は私の腕の中で、小さく喉を鳴らした。


その温もりが、凍えた私の心を少しだけ溶かしてくれた気がする。


よし、連れて行こう。


それからしばらく、その猫と共に森の中で過ごした。


野草を摘んだり、小川で魚を捕ったり。


決して楽な生活ではなかったけれど、誰にも指図されない自由な時間は、自分にとってかけがえのないものだった。




ある日、森の中で美しい紫色の花畑を見つける。


何気なく手を触れると、今まで見たこともないほど鮮やかな光を放ったのだ。


(これは……一体?)


驚きに目を瞬かせていると、背後から優しい声が聞こえた。


「その花は、『魂の花』と呼ばれています。持ち主の心のありようによって、様々な色や輝きを見せる珍しい花なのです」


びくりとなる。


振り返ると、そこに立っていたのは、見惚れるほど美しい青年だった。


だれ?


銀色の長い髪に、吸い込まれそうな深い紫色の瞳。


優雅な物腰からは、高貴な身分であることが窺えた。


厄介そう。


「わたしは、この森の奥に住む者です。あなたは?」


警戒しながらも、自分の身の上を簡単に説明した。


軽く。


一族から追放されたこと、あてもなく彷徨っていること。


青年は、その話に静かに耳を傾けてくれる。


「もしよろしければ、わたしの屋敷でしばらく身を寄せませんか?この森は危険も多いですから」


青年の申し出は、私にとってまさに救いの手。


警戒心はあったものの、彼の優しい眼差しに嘘はないように思えた。


猫もいるから、余計に助かる。


こうして、青年の屋敷に身を置くことになった。


さくっと入れてくれるとは。


彼の名は、ルシアン。


この森を管理する、隠遁者のような存在だという。


エルフみたい。


猫も喜んでいる。


ルシアンとの生活は、穏やかで心地よかった。


彼は私の過去を詮索せず、ただ優しく接してくれた。


ありがたいことである。


(入ったはいいものの、なんでかな?)


美味しい食事を用意してくれ、美しい庭園を散歩に連れて行ってくれる。


時折、珍しい花の育て方や、この世界の歴史について教えてくれた。


(この人は……一体、何者?)


彼の知識の豊富さや、時折見せる憂いを帯びた表情が、私の心を惹きつけた。


警戒しながらも、少しずつ彼に心を開いていった。


ある日、ルシアンは一輪の白い花を贈ってくれた。


それは、私が今まで見た中で最も美しく、清らかな輝きを放つ花だった。


「この花は『純潔』。あなたの清らかな心を表しているようです」


ルシアンの優しい言葉と、その花の色に、きゅんと胸は熱くなった。


初めて、自分の生み出す花が美しいと思える。


ルシアンとの触れ合いの中で、少しずつ自分の内なる変化に気づき始めていた。


驚くことだ。


かつては周囲の評価ばかりを気にしていたが、自分の本当に好きなもの、美しいと思えるものに目を向けられるようになっていたのだ。


ルシアンの存在が、私の凍りついていた心をゆっくりと溶かしてくれた。


優しさに包まれる。


そんな穏やかな日々が続く中、突然、ルシアンの屋敷で騒ぎが起こった。


な、何事!?


見慣れない兵士たちが押し寄せ、私たちを捕えようとしたのだ。


「ルシアン様!王都からの追っ手が!」


兵士たちの言葉に、私は驚愕した。ルシアンは、ただの隠遁者ではなかったのだ。


「あなたは……一体?」


私の問いかけに、ルシアンは悲しそうな笑みを浮かべた。


「わたしは、この国の第二王子です。ある事情から、身を隠していました」


彼の言葉に、息を呑んだ。


まさか、自分がそんな高貴な身分の人物と生活を共にしていたとは。


兵士たちはルシアンを連れ去ろうとするが、私は咄嗟に立ち塞がった。


「ルシアン様に、手を触れないでください!」


私の言葉に、兵士たちは訝しげな視線を向けてきた。


かつての一族ならば、無能な私など見向きもしなかっただろう。


しかし、今の私は違う。


ルシアンとの出会いによって、私は自分の内なる強さに気づいていたのだ。


その時、足元から、先ほどの白い花が眩い光を放った。


信じられないことが起こった。


ふわりと香りがする。


体から、無数の白い花びらが舞い上がり、兵士たちを包み込んだのだ。


花びらは鋭い刃のように兵士たちを切り裂き、彼らは悲鳴を上げて倒れていった。


「これは……あなたの力ですか?」


ルシアンは、驚きと感動が入り混じった表情で私を見つめていた。


「わたしにも、よく分かりません。でも……ルシアン様を守りたいという気持ちが、この力を引き出したのだと思います」


(やっぱり言ってみたけど、わからない)


事件の後、ルシアンは王都へと連れ戻された。


待つことになる。


彼の身を案じながらも、彼が必ず戻ってくると信じて待っていた。


待ち遠しい。


そして数ヶ月後、ルシアンは再び私の前に姿を現した。


以前よりも凛々しく、王族としての威厳を身につけて。


「迎えに来ました」


ルシアンの言葉に、胸は熱く高鳴った。


「あれっ」


その後、ルシアンは王位を継承し、新しい王として国を治めることになった。


どうしてこうなった。


そして、彼の妃として迎えられた。


いやだから、どうしてこうなった。


王妃となった私のもとには、かつての家族からの手紙が届く。


鼻で笑う。


そこには、追放したことを後悔し、許しを請う言葉が綴られていた。


(今更、何を言っているのかな?みんなまとめて、記憶喪失にでもおなりになりましか〜?)


そのふざけた手紙を、冷たい炎で焼き捨てた。


彼らが私を顧みなかったように、私もまた、過去を振り返るつもりはない。


「ルシアン。くだらない手紙でした」


「そうですか。今後は受け取り拒否にしましょう」


ルシアンと共に歩む未来は、希望に満ち溢れている。


「はいっ」


彼の隣で、この国をより良い方向へと導いていけるのか。


「ニャア」


いつかきっと、自身の内なる花を、この世界で最も美しい花として咲かせてみせる。


「ポンスケ〜、猫じゃらしだよ〜」


かつての私を知る者は、今の姿を見て驚愕するだろう。


ポンスケという名前をつけた猫に破顔。


にこにこと笑う。


理不尽な扱いを受けながらも、新たな出会いと自身の成長によって、過去の全てを見返したのだ。


「そろそろ、ポンスケにも家族を見つけてあげないと」


いつも温かい眼差しで見守ってくれる、愛する人がいる。


「手配しましょう」


咲き誇る白い花のように、未来は明るく輝いている。


「ありがとうございます!ルシアン」


過去の棘は、今や私を護るための強さに変わったのだ。






晴れ渡る空の下、王都の一角に佇む、花々で彩られた小さな建物。


そこは、ルシアンと共に設立した孤児院、花咲く家。


様々な事情で親を失った子供たちが、穏やかな日々を送るための場所。


王妃という立場になった今、最も力を注いでいる事業の一つである。


私も、職業王妃として頑張っておかないとね?


「まあ、今日も賑やかね」


庭で遊ぶ子供たちの声を聞きながら、優雅に微笑む。


これも、王妃をやるときにやらないとならないこと。


傍らには、いつも変わらぬ優しい眼差しを向けてくれる夫、ルシアンがいる。


(表向きは慈悲深い王妃様、といったところか)


前世で子供好きだった私は、この世界の子供たちの境遇に心を痛めていた。


理由はある。


親を失い、行く当てもなく彷徨う小さな命。


家族から冷遇された経験もある。


花族の世界は美しいけれど、その陰には常に厳しい現実が潜んでいる。


だからこそ、彼らが安心して花開ける場所を作りたかったのだ。


「何か気になることでも?」


ルシアンが、こちらの様子を気遣うように声をかけてきた。


「いいえ、ただ……この子たちの未来が、どうか明るいものであってほしいと願っているだけです」


私の言葉に、ルシアンは深く頷いた。


はて、どうして王妃なんてしているのだろうと思う時があるけど。


「私も同じ気持ちです。彼らが健やかに成長できるよう、できる限りのことをしましょう」


「花咲く家」には、様々な過去を持つ子供たちが集まっている。


言葉を話せないほど心を閉ざしてしまった子。


いつも怯えている子。


そして、まるで小さな太陽のように明るい子。


一人ひとりの個性に合わせて、私たちは丁寧に寄り添うことを心がけている。


もちろん、王妃業と孤児院の運営を両立させるのは決して楽ではない。公務に追われる毎日の中で、子供たちの世話をする時間は限られている。


頑張ってなんとか時間を作っているのだが。


それでも、できる限り時間を見つけては孤児院に足を運び、子供たちと触れ合うようにしている。


(たまに、あの能天気な元家族が顔を出したりするのよね。一体、何のつもりかな?邪魔すぎ)


先日も、元兄と妹が、慈善活動の一環として孤児院を訪れた。


縁が切れてるというのに。


以前の冷たい態度はどこへやら、まるで慈愛に満ちた聖人のような顔で子供たちに話しかけていた。


うそっぽーい。


「立派になられて。妹さんのなさっていることは、本当に素晴らしいですね」


兄の言葉に、私は心の中で盛大に嘲笑った。


(よくもそんな白々しいことが言えるわね。私が追放された時、あなたたちは一体何をしていた?忘れてないよ?)


バカなのでは?


表面上は穏やかに対応しながらも、彼らの言葉の裏にある意図をしっかりと見抜いていた。


おそらく、王妃となった自分の機嫌を取り、一族の地位を安泰にしたいのだろう。


騙されない。


「お兄様、妹様、お心遣いありがとうございます。ですが、この子たちの笑顔が見たいだけなのです。過去のことは、もうどうでもいいのですよ。ね?」


その言葉に、彼らは一瞬言葉を詰まらせた。


かつての私であれば、彼らに恨み言の一つでも言ってやっただろう。


しかし、今の私には、そんなことをする時間も気力もなかった。


時間の無駄。


それよりも、目の前の子供たちの未来を築くことの方が、ずっと大切だったからだ。


孤児院での生活は、決して平坦な道のりではない。


子供たちの間で喧嘩が起こったり、病気になる子が出たり。


時には、過去のトラウマから不安定になる子もいる。


そんな時は、過去をベースに事業を計画。


医師と協力しながら、一人ひとりに合わせたケアを続けている。


特に、心を閉ざしてしまった少女、ノアンのことが気になっていた。


美しい銀色の髪を持つ彼女は、いつも一人で隅に座り、誰とも目を合わせようとしない。


(何か、辛い過去があったのかしら……)


私は根気強くノアンに話しかけ、絵本を読んだり。


一緒に庭の花を眺めたりした。


なんとか苦心しながらも。


最初は警戒していたノアンも、少しずつ私に心を開き始めた。


報われるなぁと、笑みが浮かぶ。


ある日、彼女は震える声で、自分の村が魔物に襲われ、両親を失ったことを語ってくれた。


ノアンを優しく抱きしめ、言葉をかけた。


「もう大丈夫よ。あなたは一人じゃない。ここには、たくさんの仲間がいる」


ノアンの心は、ゆっくりとではあるけれど、確実に癒えていっている。


最近では、他の子供たちと笑顔で遊ぶ姿も見られるようになった。


子供たちの成長は、私にとって何よりの喜びだ。


この間まで泣いていた子が、今日は笑顔を見せる。


嬉しい。


なにも話せなかった子が、初めて「ありがとう」と口にする。


最高。


その小さな変化の一つひとつが、心を満たしてくれる。


だからこそなぜ、やはりなぜ己は王妃をしているのかと疑問符が。


ルシアンもまた、孤児院の子供たちを深く愛してくれている。


暇を見つけては子供たちに剣術を教えたり、一緒に遊んだりしてくれる。


子供たちにとって、ルシアンは優しくて頼りになる、頼れるお兄さんのような存在。


「陛下は、本当に子供たちがお好きですね」


微笑みながら言うと、ルシアンは照れたように笑った。


「彼らの無垢な瞳を見ていると、わたしも心が洗われるのです」


「花咲く家」の子供たちは、少しずつその数を増やしている。


活動が広まるにつれて、助けを求める親のいない子供たちが、次々とこの場所にやってくるようになったのだ。


(もっと広い場所が必要になるかもしれないわね)


嬉しい悩みではあるけれど、子供たちが安心して暮らせる環境を整えるためには、更なる土地が必要となるだろう。


そんなある日、私はルシアンと共に、新たな孤児院の建設予定地を視察に訪れた。


いつものように。


広大な土地には、色とりどりの花が咲き乱れ、風が優しく吹き抜けていた。


「ここなら、子供たちがたくさん走り回れるでしょうね」


私の言葉に、ルシアンは優しい眼差しを返してくれた。


「ええ、きっと素晴らしい場所になります。あなたと共に、この子たちの未来を育んでいきましょう」


私たちは手を取り合い、「花咲く家」に思いを馳せた。


子供たちの笑い声が響き渡る、普通の家庭のような場所。


そこで、たくさんの小さな蕾たちが、それぞれ美しく咲き誇るのだ。


かつて、一族の中で「出来損ない」と呼ばれ、冷たい視線を浴びていた。しかし、今は違う。


愛する夫と共に、家庭を築き、何人もの子供たちの未来を照らす存在となった。


なれた。


あの時、追放されたからこそ、ルシアンと出会い。


本当に大切なものを見つけることができたのだ。


過去の苦しみは、今の私の強さと優しさの糧となっている。


これからも、王妃として。


「花咲く家」の経営者として、この世界の小さな蕾たちが自然に動き続けることができるよう。


精一杯の愛情を注いでいくつもりだ。


「ルシアン、私を王妃にするなんて、変な人ですよね」


「私が変じゃなくて、周りが違うというだけですよ」


やはり、違和感はこれからもありそうだ。


何よりである。

⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

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