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選ばれた2人

第5話です!

よろしくお願いします!

 文化祭の準備が本格的に動き出した火曜日の放課後。

 教室では、実行委員を中心にクラスの出し物を決めるための話し合いが続いていた。


 「で、やっぱり演劇ってことでいいのかなー?」

 「いいと思うー! 去年よりもインパクトあるのやりたいし!」

 「主役は……オーディションで決める?」


 「やっぱそこは公平にしないとねー」

 「陽翔くん出るの? 出るの?」

「いやー、無理無理!」


 みんなが盛り上がる中、私は机に手をついて考え込んでいた。


 (……陽翔と、同じ舞台に立つ。そんな未来、想像したことなかった)

 今までは、陽翔と並んで立つことが当たり前だと思っていた。けれど、彼を失って、またこうして隣にいられる今は、すべてが「奇跡」に思える。


 「澪、お前もやってみれば? 演技とか得意そうじゃん」

 陽翔が笑いながら言う。


 「え、私? 無理無理……」

 「いや、絶対似合うって。ちょっとドジな女の子役とか」

 「は? どういう意味よそれ……!」


 周囲の笑い声に包まれながら、オーディションの日が決まった。


    * * *


 数日後。

 体育館の舞台で、クラスの演劇の配役オーディションが行われた。


 配られたのは、オリジナル脚本による恋愛ものの台本。

 主人公の高校生ふたりが「別れ」を乗り越え、最後に再会するというストーリー。内容は、私にとってどこか胸に引っかかるものがあった。


 (まるで……私たちみたい)


 私は周囲の視線に緊張しながらも、勇気を出してオーディションに挑むことにした。

 そして、陽翔もまた、みんなの推薦で「主人公の男の子役」として候補に挙がっていた。


 「じゃあ次、陽翔と澪、お願いしまーす!」


 ふたり並んで舞台に立つ。

 台本のシーンは、再会の場面。

 失われた時間の後で、ふたりが再び向き合う場面だった。


 「……君に会えて、よかった」

 「私も……。もう、二度と離れないって、約束して」


 読み合わせるうちに、なぜか私の目には涙がにじんでいた。


 陽翔も、演技ではない何かを感じ取っているようだった。

 その場にいた全員が、言葉を失って見つめていた。


 ──結果、主役はふたりに決定した。


 「え、マジかよ……」「やば、ガチでお似合いだったもんな」「ほんとにカップルみたいだったよね」


 私と陽翔は少し照れながらも、選ばれたことに笑顔を見せ合う。


 (……陽翔と、一緒にステージに立てる)


 これはただの演劇じゃない。

 未来を変えるための、一歩になるかもしれない──。


    * * *


 その夜。私は帰宅後、ノートに日記を書き込んでいた。

 タイムスリップしてからの出来事、陽翔の様子、文化祭のこと。


 (“また、選んでしまうんだね”って、どういう意味なんだろう……)


 あの差出人不明のメッセージは、まるで私の心を試すように、静かに存在感を放っていた。


 (この世界には、まだ何かある)


 未来は変わったかもしれない。でも、すべてが解決したわけじゃない。

 この先にある何かが、ふたりを待っている──。



 文化祭の準備が始まってからというもの、私と陽翔は毎日のように放課後に残り、台本を読み合わせたり、小道具を確認したりと忙しく過ごしていた。

 陽翔がいる放課後。それだけで、私にとっては夢のような時間だった。


 「……じゃあ、このシーン。俺が『また君に会えるって信じてた』って言ったあと、澪が少し黙って──」

 「うん……それで、私が『私は……信じられなかった』って返すんだよね」


 舞台袖のベンチで、ふたりは向かい合って台本に目を通す。

 何度も読み合わせるうちに、セリフの中に本音がにじみ始める。


 「……信じられなかった。だって、あの日──君がいなくなったから」


 陽翔は言葉を止めて、私の顔をじっと見た。

 「……なんかさ、ほんとにこういうこと、あったみたいな感じがするよな」

 「……うん。なんか、胸がぎゅってなる」


 私は笑ったつもりだった。でも、声が少し震えていた。

 未来の“あの日”を思い出すたび、喉が詰まるような痛みが蘇る。


 (……でも、今の陽翔は、生きてる)

 (生きて、私の隣にいてくれる)


 だから──。


 「陽翔」

 「ん?」


 「ちゃんと、最後まで一緒にやろう。この劇。……絶対に、途中で投げ出さないで」

 「……当たり前だろ。俺、澪と一緒にやるって決めたんだし」


 そう言って笑う陽翔に、また少し涙がにじみそうになる。

 私は目を伏せて、そっと頷いた。


    * * *


 その日の夜。

 私は、再びあの「封筒」を手に取った。


 (また、選んでしまうんだね──)


 この言葉は、何を意味しているのか。

 何か、間違った選択をしてしまっている?

 それとも、何度繰り返しても“選んでしまう”ような運命なのか。


 (でも……私は、陽翔といたい)

 (何が起きても、もう離れたくない)


 澪は封筒を閉じたまま、机の引き出しの奥に戻した。

 もう、今は振り回されたくなかった。

 今のこの時間を、大切にしたかった。


 その瞬間、スマホが鳴る。


 【陽翔:明日ちょっと早めに登校しよ。衣装チェック付き合って!】


 そのメッセージに、思わず笑みがこぼれる。


 【澪:了解! ちゃんと起きるから期待しないで!】


 返信を送って、スマホを胸に抱いた。

 未来のことは、まだわからない。でも──

 今だけは、陽翔と一緒に、笑っていられる。


    * * *


 翌朝。

 澪が早めに登校すると、校門の前で陽翔が待っていた。


 「おっはよー、澪。今日もかわいいじゃん」

 「は? なにそれ……朝からテンション高いね」


 「だって今日は特別な日だろ。劇の初通し稽古だし」

 「そうだけど……」


 陽翔が、ふと私の肩に手を置いた。


 「この劇、絶対成功させような。……俺たちの物語だろ?」


 私は一瞬だけ言葉を失い、でもすぐに笑ってうなずいた。


 「うん。……私たちの物語、ちゃんと最後までやり遂げよう」


 まだ見えない未来が、少しずつ動き始めている──。

 そんな予感が、春の空のように私の胸をふくらませていた。


第5話、どうだったでしょうか?

次回から文化祭始まります!


よければブクマや評価お願いします!


次回もお楽しみに!

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