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小さな違和感

第3話です!

よろしくお願いします!

 陽翔との日々が、静かに、でも確かに積み重なっていく。


 転校生として過ごす生活にも少しずつ慣れてきて、教室での居場所もできてきた。陽翔の明るさと人懐っこさのおかげで、クラスの人たちとも自然と話せるようになってきたのだ。


 それでも――。


(私は、この時間の中に“混ざってるだけ”なのかもしれない)


 ふと、そんな思いが私の心をかすめることがあった。

 笑い合う陽翔やクラスメイトたちの輪の中で、私だけが別の時間を背負っているような、そんな孤独感。


 でもそれを、陽翔の存在が何度も救ってくれた。


「……澪? 聞いてる?」


「えっ、ごめん、なんだっけ?」


「だからさー、今度の放課後、みんなで図書室に集まって勉強会しよって話!」


 陽翔の友人のひとり、明るくておしゃべりな中村くんが手を挙げて言った。


「テスト前だし、みんなでワイワイやったほうが楽しいって!」


「陽翔、お前どうせ教科書も開かないじゃん」


「そんなことないよ! 俺だってやるときはやる!」


 なんて言いながら、陽翔がちらっと私のほうを見る。


「澪も、来る?」


「……うん。行く」


 陽翔の隣にいるだけで、胸の奥がほんのりあたたかくなる。


 この時間が、ずっと続けばいいのに――そう思ってしまう自分が、怖くもあった。



 放課後の図書室は、思いのほかにぎやかだった。


 勉強会という名目のわりには、おしゃべりばかりでほとんど進まない。でも、それが楽しかった。


「おーい! ここの答え、分かるやついる?」


「自分で考えろよ!」


 陽翔はというと、英語の教科書を開いていた……が、どう見ても半分寝かけていた。


 そんな様子を見ながら、私は少し微笑む。


(本当に変わらないな、陽翔くんは……)


 でも、そのとき。


 小さな“違和感”が、ふと胸に浮かんだ。


(この時期……陽翔くんって、たしか……)


 ――この頃、陽翔はよく体調を崩していたはずだ。

 当時の澪の記憶では、季節の変わり目に風邪をひいて、数日休んでいた。


そんな些細な出来事でも私の記憶にはしっかり残っている。


 でも、目の前の陽翔は元気そのもの。むしろ以前よりも活発に見えるくらいだった。


(……違う。私の知ってる時間と、ズレてる?)


 それは、ほんの小さな、けれど確かな“変化”だった。


 私がこの時代に来たことで、陽翔の行動や体調に影響が出ているのかもしれない。

 つまり――“未来が少しずつ変わり始めている”。


(もし、私がここにいることで……陽翔くんが助かる未来に変えられるとしたら?)


 心臓が、どくんと高鳴った。


 そんなことが、本当にあり得るのだろうか。


 もしも彼を救えるのだとしたら、この奇跡のような再会に意味があるのかもしれない。


 だが、その一方で、心の奥にもうひとつの不安が生まれていた。


(……未来を変えることで、私は“帰れなくなる”んじゃないか?)


 それはまるで、物語のルールのように、誰かが決めた枷のように。


 「代償なく奇跡は起きない」――そんな声が聞こえた気がした。


 図書室からの帰り道、私は陽翔と並んで歩いていた。


 日は沈み、街には少しずつ夜の気配が降りてきている。

 柔らかなオレンジ色の街灯に照らされる道を、二人の足音だけが静かに響いていた。


「今日、なんか変だった?」


 陽翔が突然そう言って、私は少し驚いた顔をしてしまった。


「えっ、なにが?」


「いや……澪、今日ちょっと元気なかった気がして。勉強会のときも、ぼーっとしてたし」


 彼はそう言いながら、少し心配そうな目を向けてくる。


 私は、一瞬だけ迷った。

 本当のこと――つまり“未来が変わり始めてる”こと、“自分がここに来たせいで何かが動いてしまってるかもしれない”ことを、話すべきかどうか。


 でも、まだ言えなかった。

 だって、彼にとってはそれは“未来の死”を告げることにもなりかねない。


「……ううん、大丈夫。ただ、ちょっと眠かっただけ」


「……そっか」


 陽翔はそれ以上何も聞かず、「じゃあ、今日はちゃんと寝なよ」と笑った。


(やっぱり、優しいな……)


 それだけで、胸が苦しくなるほどだった。



 次の日。


 教室に入ると、私はまたあの“違和感”を感じた。


 ――席順が、少し違っている。


 私がこの学校に来たとき、陽翔の席は一番窓側の後ろだったはず。でも今は、教室の真ん中あたりに移動している。


 理由を聞いてみると、「昨日、担任が気まぐれで変えたらしいよ」と、クラスメイトが笑って答えた。


 それは、些細な変化だ。

 でも、私の記憶にはなかった出来事だった。


だって、陽翔の席を私が学校生活で何回みていたことか!


(やっぱり、時間が少しずつズレてきてる……)


 私がこの世界にいることで、周囲の出来事が少しずつ変化している。


 未来が変わる可能性――それは同時に、“自分が知っている陽翔の死”も変えられるかもしれないという、希望だった。


 けれど。


(もし、本当に彼を救えるとしたら……私は、いつ現代に戻るんだろう)


 それが分からなかった。


 未来を変えることが“戻る鍵”になるのか、それとも、代償として“帰れなくなる”のか。


 今の私には、どちらもあり得ることだった。



 その日の放課後。

 二人はまた、あの小さな丘の上に来ていた。


 夕暮れの草原に寝転びながら、陽翔が言った。


「この場所、今日も貸切だな」


「うん。……落ち着くね、ここ」


 空は淡い茜色に染まり、雲がゆっくり流れていた。

 風が心地よく、時間だけがやさしく流れているようだった。


「……陽翔くんって、怖くなったりしない?」


「え?」


「未来のこととか……明日、何が起きるか分からないって思うと、不安にならない?」


 私の問いに、陽翔は少しだけ目を伏せて、それからまた空を見上げた。


「なるよ。めっちゃなる。でもさ」


 彼は小さく笑って言った。


「不安になっても、どうせ明日は来るし。だったらさ――誰かと笑って過ごした一日があるほうがいいじゃん?」


 その言葉に、私は息を飲んだ。


 まるで彼が、自分の想いも、不安も、全部見透かしているかのように思えた。


 そして、気づいた。


(私はもう……この時間をただ“過ごしてる”んじゃない)


 陽翔といることに、笑うことに、意味がある。

 それが未来を変える力になるのなら、きっと私はこの時間に“来た意味がある”。


 風がまた、やさしく吹いた。


 澪は静かに瞳を閉じ、願うように呟いた。


「……ねえ、陽翔くん。私、君の未来を……守りたいって思ってもいいかな」


「ん?」


「なんでもない」


 澪は笑った。

 もう、ただ見送るだけの未来にはしない。


 必ずこの手で、あの悲しい運命を変えてみせる。

 それがたとえ、自分の戻る場所を失う代償だったとしても。



第3話、どうだったでしょうか?


よければブクマや評価お願いします!


次回も楽しみにー!

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