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変わり始めた日常

第2話です!

よろしくお願いします!

 陽翔と再会して、三日が経った。


 ――いや、正確には「もう一度出会ってから」三日目の朝、だった。


 私は、陽翔の通う高校の門の前に立っていた。自分の通っていた校舎とよく似ているけれど、よく見ると細かい違いがあちこちにある。古びた校舎、制服のリボンのデザイン、掲示板に貼られた古いイベントポスター。


 まるでドラマのセットの中に紛れ込んでしまったような、不思議な感覚。


「……ほんとに、戻ってきちゃったんだな」


 ぽつりと呟いてから、私は空を見上げた。


 太陽はやさしく、空気はあたたかい。春の匂いがする。


 ――だけど、この世界は「過去」だ。


 自分がいた世界とは違う、数年前の時代。戻り方も分からないまま、私はこの時間の流れの中に取り残されていた。


「結城さん、おーい!」


 声に振り返ると、校門の前から手を振っている陽翔の姿があった。陽翔は、昨日と同じように、無邪気な笑顔で駆け寄ってくる。


「わ、待っててくれたの?」


「だって約束したじゃん。朝、一緒に登校しようって」


 ――そんな約束、したっけ。


 思わず笑ってしまいそうになった私を見て、陽翔がニヤリと笑った。


「……してないけど。俺が勝手に決めた!」


「も〜……」


「でも、君ひとりでこの学校に通うの大変でしょ。しばらく案内してあげるよ」


 まるで昔からの友達みたいに、自然な距離感。何も知らずに接してくれる陽翔のやさしさが、時々ちくりと胸に刺さる。


陽翔から話を聞く限り、今は私が高校2年生の年で、つい先週学校が始まったばかりらしい。


(陽翔くん、あと……何ヶ月で、いなくなっちゃうんだっけ)


 その事実だけは、絶対に忘れてはいけない。でも。


「ありがとう、陽翔くん」


 笑顔でそう言った自分に、少しだけ救われるような気がした。



 放課後、校舎の裏手で、陽翔がカップ焼きそばをすすっていた。


「うまっ。やっぱ焼きそばパンより焼きそば本体だよな〜」


「……食べすぎ。さっき学食でラーメン食べてなかった?」


「細かいことは気にしな〜い!」


 この三日間、陽翔は驚くほど自然に私のそばにいてくれた。休み時間や放課後に声をかけてくれて、一緒に昼食を食べたり、学校のあちこちを案内してくれたり。


 まるで、昔からこうして過ごしていたかのような錯覚にさえなる。


「……澪って、もともとはどこに住んでたの?」


「え?」


「いや、転校生ってことになってるけど、あんまり情報がないっていうか。気になるじゃん?」


 当然の疑問だった。でも、澪はうまく答えられなかった。


 だって、私が本当にこの世界の「住人」じゃないことを、陽翔は知らない。


「んー……ちょっと、事情があって。家のこととか、あんまり話さないほうがいいって言われてるの」


「そっか。ごめん、無理に聞いたりして」


「ううん、気にしないで」


 陽翔はそれ以上聞こうとせず、代わりにちょっとふざけた調子で言った。


「ま、謎の美少女ってことで!それはそれでアリでしょ!」


「……誰が美少女よ」


 笑い合った瞬間、風がふわっと吹いた。


 あの神社で舞った風と、少しだけ似ていた。


(ここでまた、風が吹いたら……私は、戻れるのかな)


 でも、今の自分は――まだ戻りたくない。

 もう一度、彼に恋をするって決めたから。




 陽翔と別れ、夕暮れの街を歩いていると、ふと胸の奥に静かな痛みが広がった。


(こんなに楽しくて、嬉しいのに……)


 その喜びは、同時に切なさを連れてくる。


 今こうして一緒にいられる時間には、終わりがある。陽翔の運命は、私だけが知っている。誰にも言えないその事実が、心を重たく縛っていた。


 だけど――それでも。


 今はまだ、前を向きたかった。過去がどうであれ、今この瞬間を大切にしたかった。


「……ただいま」


 私が身を寄せているのは、街外れの古いアパートだった。陽翔の友人の家族という設定で、事情を知らない学校側には“身寄りのない転校生”として紹介されている。

 この時代に送り込まれたとき、一体どうやってここまで整ったのか……不思議だったが、神社での風の力が何かしらの“帳尻”を合わせてくれたのかもしれない。


 そして今、私は“この時代の一人の女子高生”として日々を送っている。



 次の日の放課後。


 陽翔が教室から走ってくると、息を切らしながら言った。


「澪! 今日さ、ちょっと寄り道しない?」


「寄り道?」


「うん。秘密の場所に案内してあげる。俺しか知らない特別スポット!」


「……またそうやって大げさなこと言って」


「本当だって。今日みたいに天気いい日に行くと、めっちゃ気持ちいいんだ」


 夕焼けに照らされた校舎の窓。私は少しだけ迷ったあと、うなずいた。


「……うん。じゃあ、行こっか」



 陽翔が案内してくれたのは、小さな丘の上にある神社の裏手――雑木林を抜けた先にある見晴らしのいい草原だった。


 町を一望できるその場所には、誰もいなかった。鳥のさえずりと、風の音だけが耳に残る。


「ここ、ほんとに綺麗……」


「でしょ? 俺、なんか落ち込んだときとかここ来るんだ」


 陽翔は、空を見上げながら言った。


「ここにいるとさ、未来のこととか、どうでもよくなっちゃう」


「……どうでもいい?」


「うん。わかんないことだらけじゃん、未来って。勉強とか、進路とか、将来とかさ。考えてもどうせその通りになんかならないし」


「……たしかに」


「でも、こうして今、誰かと一緒に笑ってる時間はさ、ちゃんと“今”だけのものじゃん?」


 陽翔の言葉が、風に乗って澪の胸に染み込んでいく。


 ああ、この人は、こんなにも真っ直ぐなんだ――。


「……陽翔くん」


「ん?」


 夕陽が差し込む中、私はほんの少しだけ、勇気を出した。


「私、これからも……陽翔くんのそばにいてもいい?」


「なにそれ、急に。……っていうか」


 陽翔はくしゃっと笑って、こう言った。


「今さら何言ってんの。もう友達じゃん、俺たち」


 その言葉に胸がぎゅっとなった。


(ううん。私は、友達じゃなくて――)


 けれど、まだ言えない。今はまだ、彼にとって“ただの転校生”でいい。


 また、ゼロから始めよう。


 いつかもう一度、ちゃんと彼に恋してもらえるように。



 その夜、部屋の窓から外を眺めながら、私は日記を書いていた。


 


四月十二日。


陽翔くんと出会って四日目。

彼は何も覚えていないけれど、私にとっては、もう一度手に入れた大切な時間。


未来を知っている私にできるのは、今を全力で生きることだけ。


陽翔くん、私はもう一度あなたに恋をする。


たとえ、あと数ヶ月しか一緒にいられなかったとしても――。


 


 窓の外で、またあの風がそっと吹いた。


 それはまるで、彼に出会えた奇跡を優しく包みこむような、あたたかい風だった。



私がこの世界に来た理由、はっきりとは分からないけど、陽翔を救う絶好のチャンス。


私はふと思った。


--陽翔の死因って確か交通事故だったけど、あの日はなんであんな道に居たの?



第2話、どうだったでしょうか?


次回からどんどん陽翔の情報が分かっていきます!


よければブクマや評価よろしくお願いします!


次回も楽しみに!

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