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君がいない世界

新連載です!

よろしくお願いします!

春の風が、白い制服のスカートをふわりと揺らした。


 結城澪は、駅前の広場にある時計台のベンチに座っていた。桜はもうほとんど散っていて、あたりには新学期のざわめきが満ちている。けれど、澪の時間だけが止まっているようだった。


「……もう、戻ってこないんだよね」


 そう呟くと、スマホの画面をそっと開いた。そこには、笑顔の男の子が写っている。春川陽翔――澪の彼氏。二人で撮った最後の写真だった。


 彼が事故に巻き込まれたのは、冬の終わりだった。


その頃はただただ、陽翔は急に始めたバイトで忙しかったのを覚えている。


一体なんのために?


彼が事故にあった時、持っていたものはスマホや財布、そして原型をとどめていないほどに潰された紙袋。


あの日に限ってなんであの場所に居たんだろうか。



陽翔が事故にあったのは、高級ブランド店が並ぶ市街地の中心部だった。


陽翔はそんなところに行くような人ではないんだけどな.....


とにかく彼の死には謎が多かった。


あまりにも突然すぎて、悲しみが現実として認識されないまま、もう一ヶ月以上が経っていた。


 彼がいない世界が、こんなにも静かで、苦しいなんて――誰も教えてくれなかった。


 そのまま画面を見つめていた澪の視界に、一枚の桜の花びらがひらりと落ちてきた。ふと見上げると、風に舞った花びらが、まるで導くように道を描いていた。


 その瞬間、ふいに胸がざわついた。


 ――あそこ、行ってみようかな。


 思い出したのは、彼と初めて出会った場所だった。高校の裏にある古い神社。春の帰り道、澪が道に迷ってうろうろしていたときに、彼が声をかけてくれた。


『……こっち、近道だよ。』


 澪の世界は、あの瞬間から少しずつ変わり始めていたのだ。



 神社は相変わらずひっそりとしていた。木々が揺れ、鳥の声が聞こえる。誰もいないこの場所が、澪は好きだった。


「はるとくん、私、元気じゃないよ。……全然、ダメだよ」


 拝殿の前で、澪はぽつりと呟いた。誰に届くわけでもない言葉だった。けれど、口に出すことで少しだけ心が軽くなった気がした。


 その時だった。


 風が強く吹いたかと思うと、視界がふっと白くなる。既に散って地面に落ちている桜の花びらが嵐のように舞い上がり、澪は思わず目を閉じた。




 ――そして、開いたとき。


 そこにあったのは、見慣れたはずの神社ではなかった。


 木々の桜はほとんど葉に代わっていて、今まさに最後の花びらが舞落ちた。


拝殿も新しく、周囲の建物もどこか違って見える。


「……え?」


 スマホを取り出して時刻を見る。けれど、画面は真っ暗のままだ。なぜか電源も入らない。


 混乱したまま階段を降り、通りに出た澪は、さらに目を見張った。


 あたりの街並みが、どこか古い。コンビニはまだできておらず、近所の書店は「レンタルビデオ」と書かれた看板に変わっていた。


 ――まるで、過去に戻ったみたい。


 信じられない気持ちのまま歩いていると、ふと、すれ違った自転車の男の子が目に入った。制服姿で、どこか見覚えのある背中。


 澪は、まるで引き寄せられるようにその後ろ姿を追いかけていた。


私、何してるんだろう。


でも何故か追いかけなければいけないと思ってしまった。


--こんなのただの不審者じゃん!--


そして、曲がり角の先で、その人は振り返った。


「……ん? どうかした?」


 ――その声。忘れもしない、陽翔の声だった。


 そこには、確かに彼が立っていた。


 まだ死ぬ前の私の彼氏、春川陽翔が........


頭が真っ白になった。


 見間違いなんかじゃない。目の前に立っているのは、確かに春川陽翔だった。


 陽翔は少し首をかしげたあと、にこっと笑った。


でも何かが変だ。


まるで私を知らない人のように扱っている。


だいたいさっきだって、なんで私がいたのに隣を素通りしたんだろう?


これでも私は陽翔の彼女なのに。


「……もしかして、迷子?」


え?

いつもの冗談かな?


 でもその笑顔は、澪の記憶の中で何度も繰り返し再生していたものだった。懐かしくて、愛しくて、もう二度と見ることができないと思っていた、あの笑顔。


 私の視界が、滲んだ。


「えっ……? 泣いてる?」


 陽翔が慌てて近づいてきた。その距離の近さ、香り、息遣い――全部、現実そのものだった。


というか、迷子って何よ.....私高校生なのに.....


「ご、ごめん……ちょっと、驚いて……」


「そっか。まあ、大丈夫そうならよかった。でも、ほんとに大丈夫? 顔、真っ赤だけど」


 からかうように笑う陽翔の声が、耳に心地よく響く。だけど、私の心はまだ追いついていなかった。どうして彼がここにいるの? なぜ私は、過去に来てしまったの?


 そんな問いが次々に浮かぶけれど、言葉にはならなかった。


 気づけば、陽翔は自然な流れで澪の隣を歩いていた。

何故かとても落ち着く。


 いつも通りの陽翔。優しくて、どこかちょっとお調子者で。


 でも――。




「……ねえ、君の名前は?」




「え........」


 その一言が、心を締めつけた。


 ――私を覚えていないの?


--ただ昔に戻ったわけではないの?


今は陽翔にタイムスリップのことを知られるわけにはいかない。


でも生きている陽翔と喋ることが出来るだけでも、今の私には十分すぎる出来事だった。


「……ゆ、結城澪っていいます」


複雑な気持ちを抑えながら名前を言う。


「結城澪。なんか文学っぽい名前だね」


「よく言われる……」


「俺は、春川陽翔。よろしく」


また、私たちは一からなの?


これまで沢山一緒に遊んだ記憶はもう戻らないの?


 差し出された手を、私は少し迷ってから、そっと握った。


 あたたかい。


 それは、確かに生きている人の温度だった。




 その日、私は何が起きたのかを整理する余裕もないまま、陽翔とともに近くの公園まで歩いた。


 ベンチに座りながら缶ジュースを飲んで、くだらない話をする。


 ――まるで、時間が巻き戻ったように。


 けれど、それは「夢」のようでもあり、「奇跡」のようでもあった。


 陽翔はこの世界で、まだ何も知らない。自分があと少しで――。


私はぎゅっと缶を握りしめた。


「ねえ、陽翔くん」


「ん?」


「……もしも、会えなくなったすごく大事な人と、もう一度出会えたとしたら……どうする?」


「うーん、俺なら、絶対そのチャンスを無駄にしないな」


 陽翔は、何の迷いもなく答えた。


「また一からでもいい。その人にもう一回、恋する。そう思うよ」


 胸の奥が、じんと熱くなった。


 ――やり直せるなら、私も。

 もう一度、あなたに恋したい。


 この世界が幻でも、夢でも構わない。

 たとえ私の事を覚えていなくても、もう一度、陽翔と出会えて、また好きになれるなら。

第1話、どうだったでしょうか?

ここはこんな風にするべきだみたいなご指摘や感想もお待ちしております!


よければブクマや評価お願いします!


次回もお楽しみに!

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