第6話 懐かしの夏休み
彼らと別れてから二十分後、友達である武彦と出会う。
奴と出会ったあの日以来から、実は水面下で仲良くなっていた。
「久しぶりだね、武。」
「遅いぞ〜。10分遅刻だぞ。」
特に怒っているわけではなく、茶化す感じの口調であった。
俺が遅刻した理由は前の話を見てくれれば分かってくれるだろう。
俺たちは図書館の中でも会話可能なスペースを探し、席に着く。
三時間ほど勉強した後昼ごはんを食べることが決まった。
図書館から出るや否や
「さっきから誰かに見られてる気がするんだけど。」
「ああ、気にすんな。多分俺の知り合いなんだ。」
俺も薄々感じていたが奴らは偵察しに来ていた。三階はコの字になっていて、俺たちのいる二階が見える構造になっている。
「殺気立ってるんだけど、本当に知り合い?」
あいつはいつも殺伐としてるからなぁ。だがそのおかげでへん奴は寄り付かないし奴の居場所も特定しやすい。
「武も一度会ったことある奴だよ。」
その言葉を聞いて武は苦悶な表情を浮かべた。
「嫌な思い出を思い出させてしまったのなら申し訳ない。」
気にすんなと武は言うが、俺は気にしてしまう。
「お腹すいたし、そろそろ昼食べに行こうぜ。」
嫌なムードが漂ってしまったので話題を変えることにする。うまくいったのか武も乗り気であった。近くにファストフード店があるのでそこでお昼にすることに決まった。
図書館を出る前にトイレに行きたいと武は言う。俺は特に行きたくなかったが何か嫌な予感がしたためついていくことにした。
俺たちはファストフード店で昼ごはんを済ませ、少し話してから再び図書館で勉強しようとした。しかし、武が急に体調が悪くなってしまったため、ここで解散することとなった。恐らく例の件である。
俺は追及すべく奴に問い詰める。
「お前いつまで付いてくるんだよ。お前のせいで武は具合悪くなっちゃだじゃねぇーか。」
彼は疑問な態度をとっている。
そして何かを理解した。
「悪いな。お前に何も言わず行っちゃて。」
「じゃあ、あの時付いてくればよかったじゃねぇか。」
「だってお前が付いてくるなって言ってたじゃねか。」
「だから、彩花と行ったんだよ。」
なにやら会話が成り立たない。こいつは会話が成立しないほど理解力が疎いやつではない。会話はできている。だが何か交錯している。アンジャッシュのネタみたいに。
「まて、お前は俺について来てないのか?」
「だから俺と彩花とプールに行ったから、お前にはついて行ってないって。」
じゃあ、あの禍々しい気配は一体誰なんだ。武はこいつの気配を感じて具合が悪くなったわけではないのか?
いや、それよりもきになることがある。
「お前、あやかとプールに行ったのか⁉︎」
「独り身同士で行ってきたよ。ああ、彼女の水着は素晴らしいものであったよ。」
「おい、変な目で見てたのなら殺すぞ。」
楽の鬼の形相に一歩足を引く永秀。
「楽くんにしてはやる気のある目してるね。ただ、俺に手出すと警察も黙っちゃいないよ。」
両手をズボンのポケットに入れ高圧的に応対する永秀。ただどこか優しげを感じた。こいつは本気で俺を殺す気は無いと。
「冗談だよ。ただ──彼女の水着は貧相なものだったよ。露出は少ない上にパーカーまで羽織ってしまって、大学生らしくない。」
「……。彼女は日焼けするのが嫌だったからじゃないか? 今日は猛暑日だし。」
目線を右上にして答える。
それより──
「彼女のことはきちんと守ったんだよなぁ。」
俺にとってはそっちの問題がある。彼女とプールに行けることより、水着を見られることより、彼女の身の安全の方が重要である。彼女は奔放な性格であるが、昔から弱々しかった。そんな彼女の身に何か少しでもあれば戦争でも起こしてやる。
「安心しろよ。俺だけでなく使いにも見張りをしてもらった。俺もずっと彼女そばにいた。指一本も触れてない。」
こいつが言ってることは信用ならないが、信頼はできる。あとで彼女に聞けばいい話だが。
「楽、お前彼女のことが好きなのか?」
「別に好きではないが──。」
永秀は楽が動揺するかと思ったら、淡々と好きではないと返答され、逆に動揺した。
「──心配なんだよ。過去に色々あったからな。」
そう言って楽は颯爽と帰っていった。永秀は彩花の過去について詳しく聞きたいと思ったが、楽の背中がそれを遮るようであった。