第3話 再会の彩花
奴と一緒に授業を受け始めてから早一ヶ月が過ぎた。奴はすべての授業についてくるわけではないが八割の確率で隣にいる。そしていつも話しかけたり、ペンを隠したり、いたずらをしたりして学習の邪魔をしてくる。
授業の妨げになるようないたずらの時は、学校辞めるぞ、と脅せば奴は「すまん」と言い丸くなる。
楽は奴の思い通りにさせないために勉強を始めたが、一ヶ月のうちに覚えたことは九九くらいである。
「前から思ってたんだが、単位や就活は大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だ。単位はもう全てとったし就職先は大学入る前から決まってるからな」
流石は上級国民。全てプラン通りにうまく行ってるなぁ。俺はお前のせいでプラン通りに行ってないけどな。と思う楽である。
そんな話を交わしていたら三限があと十分で始まる。人も大勢集まり空席がほとんどない。
「あの〜、隣大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。」
女子大生から話しかけられた。五人席を一つ飛ばしに2人座っているため席は一つ空いている。満席が多い中、今の今まで声をかけられなかったのは隣にいる奴のせいである事は分かっている。だが、この女子大生はそんなことは気にしていないらしい。
俺は真ん中に移動しようとした時ーー
「もしかして、らっくん?」
らっくんーーそれは楽が小学校の時に一人の少女だけに呼ばれていたニックネームだ。皆は楽のことを『能無し小鳥遊』と呼ばれていた。しかし少女だけは違った。だが、その少女はある時突然学校に来なくなった。
その少女の名は……
「さい……。いや──あやか?」
彼女と一瞬目があって逸らされた。
彼女は大人びていた。暗い印象で黒い服をよく着ていた小学校時代とは違い、華やかでいかにも大学生という感じであった。黒く長かった髪も茶色く肩までの長さであった。
「同じ大学だったんだね」
「三年間も気づかなかったとは……。高校の時と雰囲気が変わってて言われるまで気づかなかったよ」
楽は彼女と高校以来、三年ぶりの再会に浸っていたがどうやら気に食わない奴がいる。
「俺の小鳥遊君と何イチャイチャしている!」
一番左に座ってた奴が楽の顔を右手で押しのけて机に身を乗り出す。
彼女はひるむ様子はなく丁寧に説明する。
「私は須藤彩花と言います。らっくんとは中学校以来の友達でいつも、ビリ争いをしてました。」
楽はアハハハと後ろ髪を掻きながら苦笑する。
「お前の名前などどうでも良い。邪魔だから今すぐ小鳥遊君から離れなさい!」
手で追い払おうとしていたので楽が止める。
「こいつのことは気にするな。寧ろこいつの方が邪魔だからな。」
こいつは別にこの授業を取ってるわけでもなくここの大学でもないからな。ここの学生が優先されるのは当たり前である。
キーンコーンカーンコーンと授業始めを知らせる鐘が鳴る。
左からピリピリとした雰囲気が伝わる中、楽は授業を受けた。