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第2話 独裁者

 「将来殺してやる」と殺害予告された楽であったが、いつも通り大学に通う。

 校門前にグレーのジャケットに紺色のズボンを履いた見知った奴が、堂々と誰かを待っているかのように立っている。

 校門はいくつかあるが、遠回りになるため楽はそこを通ることにする。

 距離を空けて通り過ぎようとした楽だが、男性はすぐに気づき駆け寄ってくる。

「久しぶりだなぁ、楽くん」

「誰でしたっけ?」

「おっと、今まで愚民に対して名前を名乗ったことがないから、言うのを忘れてしまっていたよ」

 楽は「いや、なんで俺の名前知ってるんだよ!」とツッコミを入れようとしたが止める。こいつに構ってるとろくなことないし、第一ここでは目立つと思ったから。

 楽は無言で颯爽と校門を通り過ぎ、二時間目の授業の教室に向かう。

 校門からずっと背中に気配を感じるが幽霊だろうと思い特に気にせず進む。

 5分くらい校内を歩き、ようやっと教室に着いた。

 楽がこれから受ける授業は履修人数が多いため、一番広い教室である。五人座れる席が縦に20列、横に30 列ある。

 授業開始20分前であるがすでに50人くらい席についていた。いくら最低偏差値のこの大学でも真面目なやつや、少しでも校内順位を上げようとする努力家もいる。

 しかし、楽は順位や成績に興味がないため教室の一番後ろの5人席の右側に座る。

 席はガラ空きであるが、ガタッっと隣の席に誰かが座ってきたが聞こえた。

「酷いよ楽くん〜無視するなんて。まあ、いずれ殺される相手の名前なんか知る必要ないか」

 机に左肘を置いて右手人差し指で楽の頬を刺す。楽は置物かの如くずっと前を向いたままだ。

「俺は落合永秀永秀(えいしゅう)だ。永秀様と呼ぶがいい。」

 楽はピクリとも動かない。

「貴様、聞いてないとは言わせないぞ。……俺はいつでもお前を殴れるんだぞ、学校外なら」

 楽は胸ぐらを掴まれるが目線を合わせず無言を貫く。互いに我慢勝負である。楽は無視、永秀は楽を振り向かせようとする。

 そんな攻防を授業前まで続ける。あと数分で授業が始まる。先に折れたのは永秀であった。

「あ……あの、小鳥遊楽さん。申し訳ないのですが、私の話を聞かさせてくださいませんか?」

 永秀は今まで生きてきた中で敬語を使ったことをほとんどないため、変な日本語になってしまった。

 楽も申し訳なく思ったのか、ふぅ〜とため息を一つついて返答する。


「……断る。」


 聞こえるか聞こえないかの声でそう言って、出席を取るため一度席を離れる。後ろ扉付近にあるカードリーダーに学生証をピッとかざしすぐに戻る。

「あの、どうして無視なさいますのでございまするか?」

 楽は前方に指を指す。

 その先にいる学生一同さらに教師がこちらを向いていた。目線は俺ではなく、永秀の方に向いていた。

 永秀は「俺は人気者だなぁ」と言っているが、恐らく彼らが奴に対して抱いている感情は畏怖である。奴のシルバーの時計に対して怯えているだろう。

 この大学に黄リング以上の人が冷やかしに来ることはある。しかし、純正の銀(シルバーリング4つ)を持つ人は今までに来たことがない。

 ただ、学内では暴力行為は法律で禁止されているためただ喚き散らして帰るやつが多い。

「悪いが授業にならんから帰ってくれ。それに、お前も学校あるだろ」

「俺のことなら心配するんでない!」

 そう言って永秀は席から立ち上がり、教壇の方へコツコツと靴音を鳴らして歩いて行く。学生たちは静かに見守っているため靴音が教室内に響き渡る。

 学生一同、目線は合わせたまま顔だけを動かし永秀の動向を伺う。

 永秀は教壇に着くなり、


「俺もこの授業受けさせろ」


 永秀は取り調べ中の刑事みたく机をドンと叩き、声音を低くし脅迫する。

 イエローリングの教師は生まれたての子鹿のように震えている。

「ご……ご自由にお受けくださいませ……。」

 吐息が多くマイクを通しているが、楽たちには、ざぁーとしか聞こえなかった。

 永秀にははっきり聞こえたようで、駆け足で戻ってきた。

「許可はもらった、だから良いだろ。」

「もう、勝手にしろ。」

 楽はこの時、永秀に関わらなければ良かったと後々後悔した。

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