第1話① 格差社会
「ねぇ君、落ち込んでるみたいだけどどうしたの?」
大学に向かう途中であった青年──小鳥遊楽は路地裏で落ち込んでいる男性に声をかける。彼からの反応はない。聞こえていなかったのかもう一度声をかける。しかし反応はない。
無視をされ続けたが何度か声をかけ、ようやく顔を上げてくれた。
「俺はもうダメだ。」
話を聞くと、どうやら希望の大学に落ちてしまったらしい。
確かに希望の大学に落ちたら悲しいが、落ちることなんて珍しいことではない。努力しても希望の大学に落ちることはある。
ただ、この社会では大学まで義務教育のため大学に行けないことはない。レベルを選ばなければ。
「俺はこれから醜い人生をおくらなければならないのか……。」
「俺も一緒だがまだ大学生だろ? 先は長いから人生は変えられるよ。」
「残念ながら過去も未来も変えることはできないんだよ。その証拠にこの時計が表してる。」
彼は長い袖を捲って腕にしてる時計を見せる。その腕時計は国民全員が持っているものだ。
この時計は小学四年生の時に突然支給された。
なんかよくわからない制度が導入されて、このよく分からないものを先生から『一生腕に着けろ』と言われた。
「あのさー、その時計って一体なんなの?」
「し……知らないで生きてきたの⁉︎」
彼は驚いた表情をする。
「この時計はただの時計じゃない。時計の機能に加えて、支払い機能、身分証機能など様々な機能が備わっているスマートウォッチなんだ。」
「へぇー。時間見たり、物買う時以外の機能があるんだ。」
「いやいや、一番大事な機能が身分証機能だよ。」
呆れ顔で言われ、楽は少しムッとする。
「俺のを見てくれ。ベルトのところに五つのラインがあるだろ?」
この時計のベルトは特殊である。腕に着けることで自動でベルトが締められる、と同時にベルトが光る仕様になっている。この色は人によって違うようだが。
彼のを見ると確かに時計のベルトのところに五つのカラフルなラインが点灯している。左から黄色のラインが二つ、あと赤色のラインが三つある。
「この色は学校の偏差値を表している。一番下が赤。次に黄色、青色と上がっていき、一番上がシルバーだ。」
「まって、通行人の見たら色は一つだけだったけど、なぜ君は二つの色を持ってるの?」
大通りを歩いている通行人を見てもほとんどの人が単色である。まるでその人のパーソナルカラーのように。
「単色の人は社会人ってことだよ。」
「色はどうやって決まるの?」
「それは今までの学歴の平均値を表してるんだ。色に点数があって、赤が1点、黄色が2点……って言う風に五つの色の点数を足してそれを5で割って……。」
「あー。分かった分かった。数学はやめてくれ〜。俺文系なんだ。」
「これ数学ってよりも算数なんだけど。」
ツッコミを入れられた楽はハハハと笑う。
それに釣られて彼もフフフと笑う。
その後も彼は親切にこの社会のルール、仕組みを簡潔に、分かりやすく教えてくれた。
「こんなダメ人間の俺を慰めてくれてありがとう。」
お礼を言いたいのは俺の方である、と思う楽。なぜならこの社会のルールを一から教えてくれたから。
「俺は、木村武彦。君の名前を教えてもらってもいいかな?」
「俺は小鳥遊楽。神白大学に通ってる四年生だ。」
「ありがとう楽。嫌だったらいいんだが君の色を教えてもらってもいいか?」
楽は特に学歴を教えることに対し隔たりも何もないため彼に見せようとした時──。