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第3話 本を目指す赤ちゃん

脳の海馬が育ち、記憶が保持できるようになってきたのか

徐々に夢から覚めるように私という意識が浮かび上がってきた。


まだ筋肉が育っていないようで上手くは立てないが

目の前のベビーサークルを手足を使い抜けだし、

ハイハイで書斎へと私は向かう。

しかし今回は運悪く、仕事から戻ってきたメイドさんに捕まって戻されてしまった。


声を出して抗議するが

メイドさんは笑顔で私の頬っぺたを

プニプニしながら何かを喋っている。

恐らく、ダメでしょ、かわいい~、とか言っているのだと思う。


胸に優しく抱かれながら揺らされて

私の意識は眠気に支配されていった。



生前の夢を見た。


私は様々な習い事をさせられていた。

自分の意思ではなく全ては親の決定だった。

父親が社長でお金があったからか

母親が回りの体裁を気にして子供をブランドの様に

扱いたかったのか、幼稚園の頃から、水泳、積み木教室、算数教室など

色んな所に通っていた。小学校、中学校、と

一日がずっと勉強漬けで友達と呼べる友達はいなかった。


唯一相手をしてくれたのは、

毎食ご飯を作ってくれる家政婦さんと

私の傍で毎回眠る猫だった。


大半の時間は自分の部屋で一人で過ごしてきた私にとって

家政婦さんと猫は私の身心へ寄り添ってくれて、

私の心を豊かにさせてくれた。

しかし、大学に入る頃には、家政婦さんとはお別れしたし

会社に入るまで私より生きてきた猫はついにその天命を全うした。


心の拠り所がなくなった所に、あの会社で毎日月~金まで

半年間以上心を削られて、あの事件と駅前の電話だ。

よく自殺を考えなかったモノだと思った。

結果的には自殺みたいなモノだけど。


本当は一時期は転職を考えていて

退職届けを用意していたのだけれど、

それを以前にも――に伝えたら、その時も

「ブラックでも働きなさい!」と退職届を

目の前で破られた。


だから、最後の最後まで、心が本当に折れそうになるまで

二度と電話はしたくなかったのけど

相談できる相手がいなくて

結局あの時電話をしてしまったんだ。

許して欲しかった、ただ許しが欲しかったんだ。


できればもう一度、心の拠り所が欲しいと思った。

猫や家政婦さん、昔優しかった――さん

余り仕事で会えなかったけど――さん



意識が再度覚醒する。

ベビーサークルに見事に戻された私は

家政婦さんからコチョコチョされていた。


止めて欲しい、笑いが止まらない。

くすぐり終わって満足したのか家政婦さんは

とてもニコニコしている。私も笑いつかれてグッタリだ。


そんな様子を笑顔で見ている二人の男女がいる。

恐らく私の母と父だろう。

父は凛々しくも優しそうな目元をしている。

母は美人で左の泣きボクロがチャームポイントだ。


右を向けば隙間から見える柔らかそうなクッションに眠る子猫を見る。

生前と同じような茶色い毛並みをしていて

どことなく似ているような気がした。


2人が仲良く

さらに1人と1匹もいる、とても幸せな気分になった。


―――――――


この子は、本当に元気だった。

掃除をして戻ると、赤ちゃんがベビーサークルから消えていた時は

物凄い焦った。奥様に何と報告すればいいか分からなかった。


大急ぎて各部屋を回っていくと

3部屋隣の部屋でハイハイをしながら辺りを見渡していた。

見つかるまでとても生きた心地がしなかった。


何かを誤って口にして喉を詰まらせたりして

赤ちゃんの命が失われる事があった場合

相手は小規模とはいえ商業ギルドのマスターである。


雇われ従業員の私を地獄に落とすには、

猫の毛を払い落とすより簡単に

出来てしまうだろう。



幸い大事には至らなかったので、奥様に報告をした。


奥様は、事故などの不安や心配よりも

ハイハイや掴まり立ちで抜け出せる事に

とても喜びになられていていた。


その後も、ちょうど私が掃除や洗濯をしている時に抜け出す事があるので

赤ちゃんが触れて怪我しそうな物や、口に入れられるような小さい物、

そして高台に登る事がないように様々な物を配置しなおした。


赤ちゃんのお世話をしている時も

見守りを強化しているのだが、

私がお部屋にいる時は、何故か大体抜け出さなかった。


まあ、もし抜け出そうとしても

捕まえてぷにぷにコチョコチョするのだけど。


抜け出す事が常習化してからは色んな部屋で見つかっていたが、

旦那様の書斎で見つけてからは、何故かいつも書斎室にいた。


他の部屋と違い棚が沢山あるのに興味を引くのか、

日光を極力入れない、本から発せられる独特の部屋の臭いが気に入ったのか

それとも本自体に興味を持ったのか。


正解は本だったようだ。一冊の本をページをめくっては熱心に見ているようだ。

奥様に報告すると、幼児向けの本をいくつか買ってきましょうと仰られ、

旦那様がその後、行商人からいくつか本を仕入れたようで

それを赤ちゃんに読み聞かせるように奥様は私に手渡した。


思えば、この赤ちゃんは何かと変だった。

例えば「高い高ーい!」「いないいないばあっ!」

などしても全然喜ばず、

何もしていないのに、私の事をじっと見てニコって笑うのだ。

思えば、猫や旦那様、奥様を見てニコって笑うから、

動くモノが好きなのかと思って

お手玉をしてみても、あまり笑ってくれなかった。

何故か、口を大きく開けて、「おー」みたいな感動しているっぽかったのは

気のせいだろうか?


しかし、本の読み聞かせは抜群で物凄い笑顔になった。

特に、剣と魔法の勇者のお話が好きみたいで

いつもその本を掴んで、ページを開いて「あー、あー」と指を指す。


また幼児向けの本も読み聞かせながら、木を指して、「木」と言葉を出して教える。

赤ちゃんもそれを真似して「ひー」と頑張って言う。

かわいくて、とても賢い赤ちゃんだと思った。


―――――――


書斎の本を見ていた時、ものすごい困っていた。

読めないのだ。

云々唸りながらどうしたものかと思っていたら

メイドさんに見つかってしまった。

そしたらその翌日にメイドさんが幼児向けの本っぽい物を

持ってきて私に読み聞かせてくれた。

メイドさんに教えてもらった言葉を本を確認しながら発音していく。

文字を見て、床に指で文字をなぞって練習していく。

最近ベビーサークルに本を積まれるので抜け出す必要は余りなくなった。


それでも、剣と魔法の勇者のお話の魔法の話が気になって

魔法の学術書が無いかたまに書斎に行って確認してしまうけど。

しかし、裕福っぽい我が家でも魔法について書かれた歴史書はあれど

学術書っぽい物は無かった。もしかしたら、赤ちゃんの私では

届かない上の方にあるのかもしれないけど。


幼児向けの英雄譚を見てみると、剣についても面白い記述が書かれている。

例えば大きなオークなどのクビを一刀両断した。

これは達人などがやるとできなくもないとも思ったが

リビングアーマーの鎧毎両断したという記述。

さすがに、叩き切るならともかく切断はただの鋼の剣では無理だ。

何かしら剣が特殊だったり、気を体と剣に纏わせて切り飛ばしたりするのかな?

それとも魔力強化で剣を強くしたりするのかな?

気になる所ではある。


とにかく気になる所を知りたい、魔法を学びたいが、

たとえ学術書があったとしても言葉を碌に読めない今の私では無理だろう。

今は、言葉を頑張って覚える所から始めよう。


本を読んでいると、お腹に違和感を感じ、きたかっ! と力む。

赤ちゃんの時はやる事が、寝る事と母乳を飲む事、そして排泄する事だ。

一番嫌なのは、パット交換時に水を使われる事だ。

物凄く冷たい。

魔法があるんだから、手からお湯くらい出せる人いないのかなと思うくらいだ。

入浴の時は、どこからかお湯を持ってきてくれるのだけど、

もし、魔法を学べるのなら、生活を便利にする魔法を先に学びたいと思った。

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