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第2話 その頃の――は

娘は保険に入っていて、その中に終身保険も含まれていた。

以前に娘に送られてきた書類を見ると、受け取りが夫名義になっていたので、

私の名義にするようにしつこく声をかけた。

娘はどっちにお金が入ったって同じでしょ、と言っていたが

あいつは妾を作っているから、お金が入ってきたら

そいつにすぐに使ってしまうわと言ったら、

渋々ながらも変更してくれた。


あの子が死んだ後に、あの子のカバンを見てみると

ボイスレコーダーがあったので、横になりながら聞いてみると

常に怒鳴り声で怒られているようだった。


全く、ほんと使えない子なんだから。


それでも、パワハラが本当にあったのならそれを元にして

あの子が勤めていた会社からお金を取れるかもしれないと思い

聞いていったが、ボイスレコーダーは、200日以上あるらしく

正直全部聞いていられないので、途中で停止ボタンを押した後、

弁護士事務所へと連絡して、弁護士へと全てを任せた。


後日、弁護士の方が来て、このボイスレコーダーを再生したら

パワハラの証拠が沢山出てきたとの事だった。

さらに、給料明細と実質の労働時間が合っていない事が判明し

上司の新人への残業申請は、皆行っていないという発言が

録音されていたので


早朝のサービス残業1.5時間と

就業後のサービス残業、3時間

4.5時間の約200日分を早急に支払い命じる事ができるそうだ。


また、会議などによる休日出勤のサービス残業や

繁忙期には、サービス残業を含めると45時間越えの残業を

超えた月もあり、それらの労基違反や

パワハラによる精神障害による過労自殺だったのではないかと

突けるところがあり、訴えた場合、勝訴する可能性が高く、

そして示談交渉にした場合、勝訴した場合よりも

高額の慰謝料を得る事ができ、さらに何年も掛からず早期に解決できる

というアドバイスを受けた。


忙しくなるが、せっかくあの子が残したお金のなる木だ。

この会社からは沢山踏んだくってあげよう。

そうすれば、死んだあの子も浮かばれるに違いない。


そして、そのお金で弁護士に夫の素行調査を頼むのだ。

もし証拠が見つかれば、離婚を申し立て

1億円は難くないわね。


今から旅行とか楽しみだわ。


でも、また集団ストーカーが現れたらどうしようかしら。

最近、そいつらが電磁波を浴びせて来ているから

体中がピリピリしてて仕方ないわ。

そのせいで心臓付近や左肩が痛くて。


夫は、病院行けと行っているけれど

痛くなるのはたまにで

普段はただピリピリするだけで

病院行くなんて恥ずかしいわ。


警察に、あのマンションのいつもこちらを覗いてくるあいつが

心臓に電磁波を当てて攻撃してきているんだから

あいつを捕まえてくれれば問題が無くなるんだけど

でも、別の奴が出てくるだけね。

どの道もういいわ。離婚して引っ越すんだから。


日本の政治団体に寄付しても一向に良くならないし。

今度から私の為にお金を使わないと!


――――――――――――


全く、バカな妻だった。


予兆はあった。

何やら僕が色んな物を妾に持ち出していると言ったのだ。


妾というのも言いがかりだし、

居もしない相手に鞄やら高価な物を持ちだしているとは言うが、

どこからその発想が出てくるのだろうか。

大体が自分で無くしたものじゃないのか。


また、親戚一同からも常日ごろから警告が来ていた。

嫌がらせを受けたとか、もう話しかけてこないで下さいとか。

僕だけなら兎も角色んな人に迷惑をかけるなんて…


より一層おかしくなっていったのは、妻の姉妹の仲を取り持ってからだったと思う。

姉妹とは長年口を利かない程仲が悪く

その原因はいつも優越感がある姉を見て嫉妬にかられていて

段々と話す機会が無くなっただけと話を聞いた。


僕にも兄弟がいるけど全員仲がよかった。会うのは忌引きなど

寂しい場ではあったが、それでも会うたびに話が弾んだ。

妻の姉妹も葬式などで会っていたが、毎回そんな場でも

お互い長年一言も話さないなんてと、

血の繋がった家族なんだから仲良くすれば良いと思い

妻の祖父の、何周忌か忘れてしまったが、その際会った時に

話しかけて仲を取り持った。


それから、姉は毎日妻に電話を掛けるようになったのだ。

一時期は妻は笑顔が見られて楽しそうだった。

たまに姉が家に遊びに来たり、どこかへ遊びに行くようになり

その際、姉が携帯電話スマホを使っていたのを見て、

私も携帯電話ガラケーじゃないのが欲しいと言ったので

買い与えたらとても喜んでいた。


もし、過去に戻れるのなら

姉妹の仲を取り持って自己満足に浸っていた自分を殴りたい。

その数か月後、その姉が妻に集団ストーカーの話をし出したのだ。

監視カメラの顔認証で常に警備員からマークされていて

買い物するだけでも出てくるとか

パトカーや救急車が、前やら後ろやらついてくるとか。


最悪なのが

何故か、妻も同じことを言い出してしまったのだ。

そして、機械音痴だったはずの妻が携帯を使って

ネットの記事を読んで、あたかも同じような事に

あっていると言ったのだ。


ネット記事は事実ではない事が含まれている事があると

伝えはしたが、新聞並みに信じてしまい

二人に費用対効果だけで、それがいかに馬鹿らしいか

色々と説明もしたが無駄だった。


とある宗教団体がお金を潤沢に持っており

嫌がらせの為に、警備員やその他にお金を握らせて

私達に色々としてくるのよ、と言った。


一時期は離婚も考えたが、娘がいた。

もう社会人だし、離婚しても独り立ちが出来るとは思うが

離婚するとなると財産分与の際に、家の分のお金が足りなくて

家を手放さなければならないといけなくなる。

あの家は娘に残すつもりだし、

家族一蘭で幸せに住んできた家を売るなんてことは、僕にはできなかった。


妻は、僕に妾がいるという、そこから始まる妄言や暴言と、

姉からの思考の押し付けによる奇行以外は、特に問題はなかった。

お金は意外と管理できており、一時期、宗教団体や政治団体に

1口、2口寄付した程度で済んでいる。

その際は、全く意味が無かった! 欲しい鞄を買えば良かったと

言っていて少し現実主義に戻ったようだった。


家にいても、暴言を吐かれるだけなので

出張など率先して行って余り家に帰らないようにしていた。

僕は仕事に専念した。

お互いに少し距離を取り、頭を冷やす時間が必要だと思ったのだ。

いつか、ネット記事にも慣れて、元に戻ってくれると思っていた。


だけど、現実はひどかった。

顔認証と集団ストーカーからさらに追加で

今度は電磁波攻撃に過敏になっていた。

そして、情報を集める為に

TVやパソコンでy〇utubeを見始めるようになったのだ。


y〇utubeではよく電磁波攻撃の動画を見ている。

厄介なのが、文字でみる記事よりも

顔が良く見えて感情に訴えかける手法が実に

妻の心を捉えていた。


―――――――――――


いつしか妻の奇行に諦め始めていた頃

妻から電話で娘が死んだと連絡が来た。

寝耳に水だった。

警察署の方に、遺体の損壊が激しいという事で詳細な説明はされたが

最期に会えもしなかった。


色々と手続きに追われる日々だったので

会社を一ヵ月休みを取って身心を休めていた。


妻はその間、娘や集団ストーカー云々の話はもう本人の中では

終わった事なのか、外に悠々と出て毎朝夜まで姉と遊びに行っていた。

そして今日は遊びに行く際に、スマホを忘れて行ったのだろう。

充電器に挿しっぱなしになっていた。

上に文字がふと表示される。


〇〇法律事務所 〇〇弁護士 娘さんのパワハラの件について

という文字が一瞬見えて消えた。

娘が会社勤めになってから、妻と距離を離れるように家から離れていたから

娘とも全然話せていなかった。

そんな娘が、会社でパワハラを受けていた?

僕はどうしても気になり妻の携帯を手に取った。


妻の携帯電話を見てみると(幸いロックは何も掛かっていなかった)

弁護士事務所とのやり取りをしていた履歴があった。

娘の会社で色々とパワハラがあったらしい。

そして、追加で僕の素行調査の話もあったらしい。


ふと、妻の部屋に向かうと娘のカバンが目に入った。

そこにあったボイスレコーダーを聞いて、

妻とやり取りしている弁護士事務所を見て

僕は、その法律事務所の弁護士に会う事にした。


本来、素行調査はバレてはいけないものなので

弁護士事務所も惚けた対応をしてくる。

しかし妻に素行調査バレてるよ、この弁護士事務所でしょと写真を撮り

Lineを送るとすぐさま、僕と弁護士事務所への暴言が書かれた文章が返ってきた。

それと妻の携帯のメールの記録等を見せて、

僕は妻の素行調査より娘のパワハラについて

何も知らなかったので、そちらを聞きに来ました。

素行調査については弁護士事務所に何もしませんと

伝えると、観念したのか認めてくれた。


僕の素行調査については、すでにお金を頂いている以上

旦那さんにバレましたという事を伝える必要がある。

どのような事情があれど、妻の弁護を担当している以上全面的に

妻の味方でなくてはいけない。ただ心情的にはお察ししますと言われた。

娘さんについては、こういうパワハラがあったようですと

教えてくれた。今後ともお任せくださいと言われた。


その日の夕方に帰宅すると、妻が荒れに荒れたのは必然である。

そこで、娘がパワハラでという文字を見てしまったから

どうしても知りたかっただけだ、自分の素行調査については

一切知らなかったし、どうでもいいけど

娘の事をどうして教えてくれなかったのか、と

真剣に怒った。お互い無言になって、その日は終わった。


――――――――


僕も、ボイスレコーダーを持って妻の暴言の数々を録音しようと思った。

それは、慰謝料云々より、もう妻と一緒に生活していくには

心が壊れてしまうと思ったからだ。


そうして離婚届を机にしまい込んで、

あれから数か月、色々とボイスレコーダーなど

準備が着々と出来ている矢先にそれは起きた。


妻は電磁波の攻撃で、胸や左肩が痛いとか言って倒れこんだ。

いつもと違い本当に痛そうで、痙攣が始まった。

段々と血色が悪くなって口から泡を吹いている。

急いで119を携帯でコールしながら、

もしもの時は、救急車より自分の車で行こうと思って玄関の鍵を開ける。

「救急です! 妻が倒れて」

「落ち着いてください、意識や呼吸はどうですか?」

意識や呼吸を確認するとそれらは無かった。

「意識なくて、呼吸もしてないみたいです!」

救急からは、心肺蘇生法を試みて下さいと言われた。

10年前に行った事を頭の中に思い返しながら

胸に手を当てて押し込む。

やり方をスピーカーモードで教えてもらいながら

肋骨が折れる位、5cm沈み込ませる。1分回で100~120位で。

1、2,3,4,……30、1,2,3,4,…と続けていく。


一旦切りますと切られた数分後に、

再度、携帯電話に着信があった。

片手で出てスピーカーモードにするともうすぐ到着します。

様子をお願いします。と言われた。

未だに覚醒なし、鍵は開いています、2Fに来てくださいと伝える。

その数分後に階段を上ってくる音がする。

救急隊が到着し「心肺蘇生を交代します」と場所を入れ替わった。

もう一人の隊員は携帯電話でどこかに連絡している。

その内容からどうやらポンプ車の方が先に到着したようで、救急車は後から来るそうだ。

隊員がAEDを装着しながら酸素マスクをしていると

救急隊が到着した。隊員たちはタンカーに妻を乗せて、

旦那さんもと一緒に救急車へ乗りこんだ。

受け入れ可能な病院が見つかったみたいで、そこへ向かっていく。

その間、僕は妻の手を握りしめていた。



タンカーごと、病院裏口見たいな所から入っていった。

白衣の男性、恐らく医者なのだろう、は妻を見ながら

「これはダメだね…。一応、注射やってみるけどダメだと思う」

と僕に向かって言った。


こちらへどうぞと看護師についていくと待合室に案内された。

ほんの数十分待っているとドアが開いて首を横に振りながら医者が僕に言った。

「残念ながら、戻りませんでした、ご家族さんや親せきの方をお呼び下さい」


「そうですか…」

と僕は一言しか答えられなかった。


「奥さん、何か心臓に病気があった?」

「日頃から左肩と胸が痛いと言ってました」

「その際、病院には行かなかったの?」

「病院を進めても常に電磁波攻撃をされていると言って病院には一切行きませんでした」

「あー、んー、なるほどねぇ」と医者も何かを察したのか、言葉が出てこない様子だった。


医者が扉から出ていった後、

僕の家族と親戚、妻の家族と親戚に震えた声で

伝えていく。近い所から再度待合室にて集まっていく。

人に会うたびに涙が零れていく。


その後、死亡診断書やら、葬儀屋など手続きになどに翻弄され

その数か月後も弁護士事務所からは、娘の会社からの示談金、上司への示談手続き、

トラック運転手の個人への裁判手続き、など


身心を休めたいと思っていたのに、なぜか休めない日が続いていく。


これは娘も妻も放置してしまった僕への罰なんだと、

せめて、天国では娘も妻も幸せに暮らしているといいと願って。

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