~ある英国人の手紙~
僕はとんでもない場所に行ったという事はご存じだろうか。
そう、僕が船で旅行していた時に入ってしまった“あの島”だよ。
幸い、僕はボートを出して、偶然通りかかった貿易会社の船に乗せてもらったっていうのはこの前語った通りだ。
だけど、あの話には続きがある。
語るのもしばらく嫌になっていたけれど、この日で僕なりのけじめとして語っておくよ。
紫色の森、その斜面にある山には洞窟があって、古びたスーツと、土だらけのコートがあった。
僕は万一の可能性を考えて、船の中にあったナイフを握って、そこに入ってみたんだ。
そこには、ぶよぶよとした、カブトムシの幼虫と、ムカデを合わせたような化け物が濁った水の中で蠢いていたんだ。
糸を何本も地下道に張り巡らせていて、僕はたまらず、叫んでナイフを飛ばした。
そこから噴き出す血は人間のようで、よこから見えた、顔の部分は――二つに割れた、アジア系の人間の顔に良く似ていた。
思い出したくもない。
だからどうか、僕の代わりにあの島に近付くな。
証拠に、アジア人の手記も付けておく。
そういえば、我が友の二ホン海洋学者は、どうしているのだろうと、少し気になっているところだよ。
あの手紙魔だったあの人、名誉に熱心なあの人が、ここ一年は姿を見ていない。
一体どうしているのだろうね?