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変貌の孤島  作者: ろーぐ・うぃず・でびる
2/7

9月12日 午前3時

 キリが良いので、この時間に続きを書く。

 午前1時に、私は一応の食糧となりえる物を収集して、また海岸に戻ってきた。

 一つに、紫蘇っぽい、紫蘇と思いたい――――あの紫色の葉と茂みの中の雑草の根、枝をコートのポケット一杯に。

 臭いは土を纏った、あの花瓶に入った草木のような普通の葉っぱの匂いがして、触ってみると表面はつるつるとしている。

 海水で一部を洗い、根っこを海岸の遠い、森の境目になっている部分に置く。

 確か、雑学の本で得た知識だが、こうして柔らかい藁のような物、今回は雑草の根っこがそれに当たる――――を、枝の中に詰めて、枝で擦る事で摩擦が起こり、火ができるという。

 薪になりそうな枝も数本拾ってきたが、いかんせん見た目が悪い。

 本で得た知識通りに、私は丁度虫食いの枝の中に根を敷き詰め、枝を入れてみたが、一瞬入らなかったので、近くにあった小石で削ってからまた入れてみた。


 その後は、まさしく自分の精神との格闘戦であった。

 擦れども擦れども、理想通りに火が付く事は無く、延々とただろくろ回しをいじる職人見習の様に棒を回していった。

 手の平が、枝についていた汚れで土気色になろうとも、皮膚の薄皮が捲れようと、ただ必死になって火を起こそうとした。


 火が付いたのを確認したのは、午前2時15分。

 手は疲れすぎて馬鹿になったらしく、煙が出て、火の粉を撒き散らす根っこをつまむ事さえ一瞬できずに居た。

 根っこを、葉と枝の山に放り込み、あとは息を吹きかけて煽ってやると、まさしく風前の灯火といった状態だったのが、徐々に火が勢いついてくれた。


 その後、海水で洗った葉っぱを、煙であぶって一齧りしたのだが、これの苦い事。

 苦いだけならまだ耐えようがあったが、噛めば噛むだけ渋い汁が口いっぱいに広がるのだ。

 ぺ、と試しに汁を吐いてみれば、汁は毒々しい青色をしていた。

 これは食べてはいけない。

 植物にも、適合するものかどうかは解らないが、毒を持つ生物は警告色と呼ばれる、一目で毒だと解る色が表面に出ているものだ。

 考えてもみれば、何故こんな今まで常識の通用しない事だらけの島で、人間の都合の良い植物に当てはめて考えてしまったのだろう。

 

 そう思いながら、次の食糧を試した。

 海の浅瀬に落ちていた、まだ開いていない貝だ。

 数個のアサリだ。

 だが、これから長い付き合いになるだろう島で、貝毒にかかってもいけない。

 母が良く作ってくれた、アサリ汁が懐かしい。

 もし帰る事があったら、真っ先に作ってもらいたいものだ。

 私はアサリを開いて枝で抉り取り、身を火でよくあぶって食べた。

 味はやはりアサリ。

 だが、砂利の食感と臭みが酷い。

 まるで、文明と非文明の違いを、ありありと見せつけられているようで、悲しくなった。

 

 そして、脳裏に過ったのは、異国の友の姿だった。

 米英を目の敵にしていた時代に、相反してなってしまった友。

 あの人が来たとなれば、私は嬉しさと同時に、悲しくもなろう。

 同じ苦しみを味わって、共に乗り越えて、この孤独を少しでも紛らわせて欲しくもあるような、かといってあの若き海洋学の友を、こんな場所に放り込むわけにはいくまい。

 日本語を喋る事はないけれども――――。


 しかし、最低限食事は済ませた。

 悲しんでも居られない、次は雨風を凌げるような場所を見つけよう。


 そう思い立ち、森の中へと――あの悍ましい虫の巣窟へと向かって行った。

 また、気が向いたら書こうと思う。

 友の絆の糸を、思い出すにはまだ早いぞ私よ。

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